『No Retreat No Surrender』を大マジメに聴いてみた。

変化球アルバム・レビュー、行きます。
 ハイエスト・マウンテンの前日というタイミングのアップになったのは、偶然。月曜から書き始めて、夜中にちんたら楽しみながら書いたら日数がかかっちゃった。当初の題名は、
 ハイエスト・マウンテンに行ったことがない音楽ライターが本腰で聴く『No Retreat No Surrender』

タイトルが長過ぎて、登録できませんでした。中身も、長いよー。

Mighty Jam Rockの通算14作目、『No Retreat No Surrender』、行ってみましょう

 

後退なし、降伏なし。つまりは、前進のみ。

勇ましいタイトルです。11作目から音源を送っていただいていますが(ありがとうございます)、今回は本が校了して魂が抜け切ったときにデータを開いたせいか、ものすごくガツンと来ました。

マイティ・ジャム・ロック(以下、MJR)は、ほとんどの日本のレゲエ・アーティストやサウンドマンと同様、面識がありません。ライヴやサウンド部隊のプレイも、見たことがありません。今回、キャラさんにジャマイカでちらっと会ったのと、ウェイン・ワンダーの京都公演のときに後からロックさんが来ていたと聞き、ひょっとしてあの「背がとっても高い人がいるなぁ」と思ったのがそうだったか、と残念だったのですが、違ったらごめんなさい(えー、本当は、日本を代表するプロレスターに似た背が高い人がいる! と思いました。私はカッコいいと思うレスラーさんですが、“カッコいい”の基準がおかしい、とよく指摘される長期海外生活者なので、名前を出さないでおきます)。もうひとつ、ご意見番として全幅の信頼を寄せているMoofireことムーちゃんが「アーティストの後ろで絶妙のタイミングでカットできるのがロック(さん)」と、ほめていたのが、印象に残っています。

MJR全体は、とにかくスゴいチームワークだな、と。10年前くらいかな、こちらのMTVからカリブの音楽専門番組Tempoが始まったとき、レゲエはちゃんと契約書にサインしているヴィデオが少なくて、00年代がとっくに始まっていたのに90年代頭のシャバ・ランクスやスーパー・キャットのヴィデオがヘヴィロテという状況で。たまたま、トップの人と知り合いになったので、誰に頼まれたわけでもなく、私は「日本のヴィデオを流してもらおうキャンペーン」を始めて(だって、大事じゃないですか。日本のレゲエ・アーティストが海外で知られるの)、3、4組声をかけた中で一番熱心で、話が最後まで行ったのが、MJRのアニメのヴィデオでした(貼ろうと思ってYOUTUBE探したけれど、すぐに出て来ませんでした)。結局、アメリカと日本では、レコード会社とケーブルテレビ局の力関係と、インターネットに関する考え方がほぼ真逆という理由で実現しなかったのですが、当時所属していたビクターのディレクターも含めて、とにかく話が早くて先を見ているなぁ、と感心した記憶があります。ハイエスト・マウンテンの成功は、たぶん、その辺りにも理由があるかも。

話をフォワードして、2014年7月。ダウンロードした曲をクリックして「クレジットないから、どれが誰の曲かわからん!」と思いつつ、こちらのリスニング・セッション(発売前に関係者を集めて曲を流すイベント。これ1回でライナーやレビューを書く場合は、ほとんど試合のノリです)に出席しているくらい真剣に聴いた感想を第1ラウンドとして書きます。そのあとiTunesでプレイリストを作ったら、日本の作品でもiMacthが使えて、ちゃんと歌い手の名前が出て来たという。白状します。私、声を聴いて聞き分けがつかないレヴェルだったんです。だから、このブログも、「ジャパニーズ・レゲエ初心者(ただし、レゲエ耳に関しては自信あるぜ)」が聴いてどう思ったか、の記録になります。

<第1ラウンド>誰が誰かわからない段階で思ったこと。

冒頭。え、タラちゃん? タラちゃん??? 頭で一発、タイトルをささやいているの、ポインズ・ダートのタランチュラに聴こえるんですけど! でブチ上がり(違ったりして)。MJRの売りというか、キャッチ・コピーは「スリー・ザ・ハードウェイ」。元々は、掛け合いを意味するコンビネーション同様、3人のアーティストがマイクを回したり、声を重ねたりするスタイルを指すレゲエ用語。アルバムでも使われるけれど、基本、現場感がとっても強い方法です。これを毎回期待されるほどに、自分たちの「モノ」にしているのが、MJRの強みであり、魅力でしょう。

初回に思ったこと。ひとりは、声色を変えられる(プロフェッサー・ナッツみたい♡)/メッセージ性が強い/英語はあえて日本語発音。それで日本語と韻を踏むという高等技術の持ち主/伝統的ラガDeeJayにして叙情派。ふたりめ。リズム感、切れ味バツグン/韻踏み重視/英語の発音がきれい。LとRをクリアーに発音しづらい、という日本人特有の悩みを解消して、ジャマイカ人とも曲を出してほしい。3人目。声が男前/ こちらも韻踏み重視/レゲエと同じくらい日本の歌謡曲(昔の、ね。テレビに出て歌う人のほとんどが歌がとっても上手だった時代の……あ。昭和か)を感じさせる歌い方/声が、とにかく、男前。めっちゃカッコいい!! 大学のサークルが一緒だった、別に会わなくていいから電話だけほしかったスーパー声がいい伊東くん(誰だよ。)を10ン年ぶりに思い出したほどに、男前。

ひとりめは、クレジットが出てくる前にわかりました。ジャンボ・マーチさん。 ふふー。twitterのつぶやきとリリックが直結していて、ブレていない。TL上では娘さんネタがとくに好きですが、政治的、社会的な意見は私とだいぶ違って、だからこそ、そういう見方もあるか、と勉強になっています。私は、「仕事柄、リベラル/中道派のつもりが、世の中が右傾化したせいで、気がついたら左になっていた」と言った、道新の記者だった父親の言葉をそのまま受け継いでいます。左というより、社会民主主義的なアプローチがしっくり来る。でも、311以降の世の中で、意見が違えども真剣に調べて自分の考えがある人は、半分目隠しして生きている人より「同士」だし、信用できる、と思ってもいて。ふたりめは、ボクサー・キッドさん、3人目がタカフィンさんでした。
文字文字クンになって来たので、CMを載せてみましょう。

<第2ラウンド>歌い手さんが判明した時点で、改めて聴く。
頭3曲は、ゴリゴリのダンスホール・マナー。タイトル曲の“No Retreat No Surrender”は内容、トラックともにミリタント。2曲目“Action Speak”と3曲の“You Don’t Love Me Anymore”は、00年代半ば~後半の、ダンスホールがバシッとかカッコ良かった時期のトラックをアップデートしています。 “Action Speak”の「ウェルカム・トゥ・現実」がアルバム全体で一番グッときた言葉かな。 “You Don’t Love Me Anymore”。このトラックで失恋ソングを持って来るセンスが素敵。最初に、もっとも気に入った曲で、いきなり2回カマゲンしました。……これは、必ずしもいいコトではなく、こちらのリスニング・セッションでも、私が◎をつけた曲は、まずシングルカットされない。ほかの音楽ライターの人とその話になったとき、「そりゃそうでしょ。俺らにウケるってことは、一般ウケしないってことだから」と英語で言われました。なるほど。最後のダブっぽい処理の切れ方からして、 ジャマイカでミックスしている気がします(スティーヴン・スタンレーかな?)。

4曲目の“Red Hot Sunset”と、飛んで10曲目の“My…”を聴いて初めて気がついたことが。私は、「ジャパレゲ」という言葉があまり好きではありません。本来、それほど悪い言葉ではないハズだけど、あまりポジティヴな文脈で使われないせいか、いつの間にか言葉自体がネガティヴな、ちょっと見下したような響きをまとってしまった気がして。でも、今回、じっくり本作を聴いて日本のレゲエ特有の定番リディムと、広く歌われている内容というのは、確実に存在する、ということに気がついたんですね。 “Red Hot Sunset”はトラックとコーラスが日本のクラブで踊るために、 “My…”は懐古系リリックがスマートフォンで通勤通学に聴く人に向いていそう。あまり詳しくない人でも取っ付きやすい、日本の空気に似合うレゲエ。大事です、うん。

5曲目の“Baby Don’t Cry No More”は、私は曲全体からすっごく大阪を感じる。なんでだろ? じっくり耳を傾けたい、リリックです。これが表現できるのが、レゲエ。ああ。ヴァースで厳しい現実を描きつつ、コーラスで「守ってあげたい」ってサラッ言う辺りに関西を感じるのかも。ニューヨークと聞いてみんな摩天楼だけを思い浮かべるように、私の頭の中に存在する大阪の男性のイメージかもしれませんが。“Catch Me If You Can”は2トーン系の元気なスカ。スカは軽快さを失わずに歌うのが案外、難しいですが、軽々と歌っています。トラックの演奏もタイトで、国産スカのレヴェルも着実に上がっていますねー。

“Do You”。鋭い。怖い。映画かテレビの筋書きみたい。「ホント? 日本の都会っていま、ホントにこんななの?」ってゾッとすること必至のリアリズム。アルバムの裏ハイライト。レゲエやヒップホップでこそ表現できる世界観、メッセージがいまの日本にはあるのだなぁ、と思いました。「あなた大丈夫?」だから、“are you OK?”とか“are you serous”(マジで?)の略で“Are You”じゃないかな?という疑問が湧いて、しばらく“Do You”が何の略か悩んで、“Do you still do that?”(まだそんなことしているの?)の略だ! と勝手に納得してスッキリしました(アゲイン、違ったりして)。

“いきなりダイナマイト”はサウンドのBurn Downのプロデュースらしい、現場直結、臨場感満載。“Fight For Freedom”と“Go Up”は正統派ドレゲエ。案外、こういう曲を海外で推したらいいのでは? とちらっと思いました。タカフィンさんの歌い方、歌声はいい意味で純和風。ルシアーノやフランキー・ポールとか、ジャマイカのレゲエ界にも「美声ありき」のシンガーがいて、彼らの声は誰が聴いても黒人の声です。ほかの人種には出せない声って、貴重。まぁ、タカフィンさんだけでなく、MJR全体、ひいては日本のトップは海外でも知られるとがいいなぁ、と常々思っています。よく質問されるし。

“Life Goes On”は、不朽の名作Ben E King“Stand By Me”使い。1961年の曲でおそらく著作権が切れているから賢いし、とてもレゲエっぽくて好きです。リリックは、映画の“Stand By Me”を思い起こしました(R.I.P.リバー・フェニックス)

って駆け足ですが、アルバム一枚あーだこーだ書くと、これくらいの長文になります。

ここまで、全部読んでくれてありがとー。

アルバム14枚というのは大変なこと。それまでに獲得したファンの期待に応えつつ(聞き覚えのある感じの曲は、むしろ必要)、毎回新機軸も盛り込まないといけないから、5作目以降からすでに大変ですから。この水準がトップなら、日本の若手も大変だわ、とも。当たり前のことを書くようだけれど、3人とも本当に上手。

ムラサキさん渾身の、フィギュアを使ったアートワークいいですねー。3D。(かな)

「日本のレゲエはちゃらい」とか言っている人こそ、聴いてほしい、と思いましたよ。

ハイエスト・マウンテンの当日、晴れますように。

行ってみたいなぁ。というか、本音は隅っこに日傘を指しながらちょこんと座って、『まるごとジャマイカ体感ガイド』を直売りをしたいです。ハハハ。
【追記】
コニー・アイランドで花火が上がるのを待っている間、twitterで中止のニュースを知りました。ここ5日間くらい、ずっと最新作を聴いていたせいか、海のこちらに居ても、とても残念です。
アメリカっぽい色彩の花火を眺めながら、プロモーター出身なのもあって、1万人のコンサートが中止になった場合の損失を考えてしまいました。
MJRは、大ベテラン。バックアップ・プランもあるだろうし、これでへこたれるワケがないのも分かっていますが、延期ではなく中止の場合、かなりダメージがあるのではないかなぁ、と。音源をもらった私がこれを書くのもなんですが、最新作をまだ購入していない人は、買ってみるなど、みんなでサポートしましょう。私もできることないかな。

“『No Retreat No Surrender』を大マジメに聴いてみた。” への3件の返信

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    初めて記事を読ませて頂きました。
    ハイエストマウンテンの検索で偶然ひっかかり、記事やプロフィールを読ませてもらったんですが、。
    少し質問があるのですが、貴方は日本人の方ですよね?ジャマイカのレゲエを知る日本人、ということでよろしいんでしょうか?MJRほどの有名なサウンドは当然知っているだろ!と勝手ながら思ってしまったんですが。
    やはり、本場ジャマイカのレゲエシーンと日本のレゲエシーンは遠く離れているものなんでしょうか?良ければ返信下さい。
    長文失礼しました。
    19歳 男

  2. SECRET: 0
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    >mnmさん
    そうですね。MJRさんは、知っていますよ。ただ、あなたが生まれた年にニューヨークに来たので、日本に住んでいる人のようには、情報や音楽が入って来ないのです。レゲエ業界には、その前からいます。
    ジャマイカと日本のレゲエ・シーンの距離については、近いとも、遠いとも言えるのではないでしょうか。ジャマイカからの移民がいないのに、日本ほどレゲエが聴かれている国は珍しいです。そういう意味では、近い。一方、日本が独自のレゲエ・シーンを築いて、ジャマイカのレゲエとは少し離れた曲が「レゲエ」として認識されているのが、最近の傾向のように思います。MJRがやっている音楽はジャマイカ人が聴いても100%レゲエですよ。

  3. SECRET: 0
    PASS:
    >mmr9さん
    返信ありがとうごさいます。
    僕がレゲエに興味を持ったのは、ほんの6、7年前で。僕の同じ世代の仲間にジャマイカと日本の両方のレゲエを知る人は未だ少なく(それもここ数年の事を知っている程度)
    客としてレゲエを楽しんでいる自分には歳の離れた縦の関係もありません。
    なので、返信してもらった内容は僕にとっては貴重で、、ありがとうごさいます。
    たしかに僕は常々思っていました、なぜ遠い離れた日本でこれほどレゲエが流れているのか?
    日本のそれは独自の進化をして、新たなレゲエとして流行したということですね。この事は「日本のレゲエはレゲエじゃない」なんて言われ、たびたび耳にします。
    もちろん、本場のレゲエを日本語を使い歌うアーティストも人気がありますが。(この理由が僕としては少しナゾ。好みの問題ということですかね。)
    とかいう僕はそもそもMightyJamRockの曲に興味をもったので、レゲエというレゲエの方が好きです。
    とにかく、僕は詳しい定義まで理解できていませんが日本で『Japaneseレゲエ』という少し異なる音楽ジャンルが生まれ、それをレゲエとして聴いているという解釈ですよね?
    ネット上で質問させてもらうことは、慣れていなく支離滅裂な文章になってしまいました。すいません。

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