斜め読みグラミー 2020

20年代最初のグラミー賞、終わりましたね。弱冠18歳のビリー・アイリッシュが主要部門3つを含む4部門を制して大勝ち。が、ヘッドラインでしょうが、私が得意とするジャンルの人ではないので、ほかの方に分析は任せるとして、私は得意の「え? そこ???」な感想と情報をつらつらと。

NBAの元ロサンゼルス・レイカーズのコービー・ブライアントの訃報があり、みんなが茫然としたまま始まり、プリンスやニプシー・ハッスルの追悼パフォーマンスが目立ったこともあり、全体的にしめやかな雰囲気で終わったように思います。

コービーはほんとうに、大スターでした。

彼の全盛期に、熱心にバスケを見ていた私も、「うわー、アッシャーもナズも伝説のジョンさんも、ずいぶんと恰幅がよくなったなー」と思った直後に、「あ、コービーも同世代だわ」と落ち込み、「ビリーもすごいけど、レゲエアルバム部門を初めて女性/最年少で制したKoffeeも19歳だよー」って思ってから、タイムラインで流れてきた、一緒に亡くなった13歳の長女もバスケをやっていたと知っては悲しみ、と感情の起伏が忙しく、午後はどっと疲れていました。

音楽、グラミー賞の話をしましょう。

私はしばらく前からグラミー賞の受賞自体はそれほど重視していなくて−−予想を外しがちなのもあるけれど、テレビ番組である以上、視聴率が取れそうとか、みんなが喜ぶパフォーマンスをしてくれそうだから、という理由を読み取っていまい、純粋にアルバムや曲の出来で評価してないなー、とどうしても思ってしまうから。ちなみに、プレゼンターの俳優さんたちはテレビ局、CBSの人気ドラマの面々です。そこは、日本の紅白に似ていますね。

また、ヒップホップやR&B、レゲエの年間アルバムをよく選んでいたときは、「はぁ?」ってなることが多かったのでそこでもうエネルギーは使わないのです。

もう、いいの。「あ、今年もグラミー選考委員の方々とはあまり気が合わないな」で終わり。今年、ラファエル・サディークの『Jimmy Lee』がR&Bの部門にひとつもノミネートされなかったのは、久々の「はぁぁぁぁぁぁ?」でしたが(4000字以上書いてあるブログは近日中に仕上げます。カニエさんの『Jesus Is King』も同じ状態)。

前向きに文句を言わず(でも所々つっこんで)、心穏やかにグラミーを愉しむ。それが近年の態度。南無。

今日は、ランダムな感想を箇条書きにしてから、リゾと私的にダークホースだった、ゲイリー・クラークス・ジュニアについて多めに書こうと思います。

・司会のアリシア・キーズのグッジョブぶり。地元ロサンゼルスの大スター、コービーを数時間前に失った今年は、クリス・ブラウンがリアーナを殴ってしまった2009年(ホストなし)、前日にホィットニー・ヒューストンが急死した2012年(L.L.クール・Jがこれまたスーパー・グッジョブ)と同じくらい、大ピンチだったのに、彼女の真摯で誠意あふれる態度で、ファンの気持ちを労わるような流れになっていました。

・その彼女が「本当に大変な7日間だった」と言っていたのは、グラミーの委員会のトップが突然、辞任するというお家騒動があったから。とくに熱心に追いかけていませんが、これを機会にアーティスト・ファースト、音楽ファーストの賞になるといいですね。

・パフォーマンスのハイライトは、昨年、揉めた末にパフォーマンスを見合わせたアリアナ・グランデ。メドレーで数曲歌う、特別待遇でのリベンジ。演出も彼女らしかったし、相変わらず歌も上手。ただ、終始、ご機嫌斜めで、ちょっと意地悪そうに映っていたのが残念。

・一方、客席の反応がいちいち良くて、性格のよさがにじみ出ていたのが、リゾとミーク・ミル(!)でした。ミーク・ミルはニプシーのトリビュートで、公開レターをパフォームしたのもよかった。詩を詠みあげるようなポエトリー・リーディング(スラム)はブラック・カルチャーの重要な一部分で、2015年からずっとヒットしているブロードウェイミュージカル「ハミルトン」の台詞回しまでつながっています。昨年、10月にニューヨークに行ったときもチケット取れなかったんです。次回は、ぜひ。

・アリアナ、カメラ・リベロ、デミ・ロバート、ロザリオとなにげにラティーノの女性がたくさん歌った夜でした。デミとアリアナは子役出身。デミの大風呂敷バラッド、Anyoneが涙を誘ったのは、ティーン・スターを卒業したあとは、摂食障害と薬物摂取を公表して、「全米が心配している」人のひとりだから。アメリカには日本みたいな「恋愛禁止の、現実離れしたアイドル」はいませんが(、アイドル的な立ち位置だった人がその後、活躍するケースは多く、その成長過程を見守る傾向がありますね。ジャスティン・ティンバーレイクしかり、マイリー・サイラスしかり、ブランディしかり。

・そうそう、タイラー・ザ・クリエイターの授賞式後のスピーチを簡単に訳したtweetがえらくバズっていて少し、焦っています。タイラーは、ジャンルで区切ること自体をディスっているのではなく、彼がヒップホップからだいぶ逸脱したアルバムを作ったのに、なんでまたラップ・アルバムのカテゴリーに押し込むんだ、と言ったのです。「ジャンル・ベンディングした作品なのに、肌の色でせいでラップ・カテゴリーに入った」と言っていましたね。彼の3作目『IGOR』、ヒップホップの要素、少ないですからね。「ジャンル・ベンディング」は、ふたつ以上のジャンルをまたがっている状態をいいます。映画でも使われる用語で、たとえばサイコスリラーだけど、ロマンスの要素も入っている、みたいな。

・タイラーのパフォーマンス、キレッキレでかっこよかったですよねぇ。ピンクと赤の大幅なボーダートップスにブラウンのパンツという、アポロチョコみたいな色の組み合わせなのに、超絶オシャレなのにも、びっくりしました。ただ、あの金髪のおかっぱ、チコちゃんと岡村さんがうっかり融合してしまったように見えるのは私だけでしょうか。ひとり「チコちゃんに叱られる」みたいな。

・豪華なコラボレーションが見られるのがグラミーのいいところ。エアロスミスとRun-DMCのWalk This Wayは鉄板。Run-DMCのふたりが壁をぶち破って登場したのは、PV通りなんですよ。あれはもう、アメリカ版「みんなのうた」ですね。

・個人的に掘り出しアーティストは、最優秀コンテンポラリー・ブルース・アルバム、ロック・ソング、ロック・パフォーマンスの3つを受賞したゲイリー・クラーク・ジュニア。お恥ずかしながら、グラミーを見るまできちんと聴いたことがなくて。あれ、なんでザ・ルーツのクエスト・ラヴが前のほうにいるんだろーって思ったら、彼らとのリミックスが流行っているんですね。最新アルバム、『This Land』はレゲエの要素もだいぶ入った、ブルースです。最高。昨日からずっと聴いています。This LandのPVは必見ですよ。youtubeにはビヨンセとエド・シーランとのスティーヴィー・ワンダー・トリビュートのパフォーマンスもありました。まったく引けを取っていなくてすごかった。ライヴ、観たいなー。

・ジャンル・ベンディングといえばこの人、なーんとカントリーとヒップホップを融合させた、リル・ナズ・X。いまは、同性愛であることを堂々とカミングアウトした、象徴的な存在でもあります。黒人で同性愛者だと、二重に差別される可能性が高くなるので、前世紀までは隠しているアーティストがほとんどでした。彼を紹介したのは、人気シッコムのなかでカミングアウトした大物コメディアン/ホストのエレン・デジェネレス。

リル・ナズのパフォーマンスは、いい意味でカオス。プロデューサーのディプロからヨーデル少年、そしてBTS。BTSは本領を発揮するタイプの出方ではありませんでしたが、アジア系の存在感を示していてうれしかったです。快挙。大御所のビリー・レイ・サイラスと、RodeoでこれまたベテランのNasが締めて大団円。

・最後に、リゾについて。ライナーノーツで力説したのが、「彼女はラッパー、シンガー、フルート奏者、パフォーマー、作詞家、セルフ・ラヴとボディ・ポジティヴィティの提唱者」であること。ありのままの自分を受け入れよう、というムーヴメントの最前線に立つ、ポスターガールです。ただ、音を用意しているのはアトランティック・レコードの敏腕A&Rと、ポップ畑の(白人が多い)プロデューサーで、とても上質な「最大公約数」を狙って成功したあたり、レーベルの先輩、ブルーノ・マーズに近い。朝、起きぬけや移動中に聴くのにぴったりな音楽ですね。興味を持った方でCDを買う習慣がある人は、国内盤に手を伸ばしていただけるとうれしいです。歌詞も面白いですから。

・前日のパーティーのスピーチで、Pディディが「ブラックミュージックが正当に評価されていない」と発言したそうです。そういう面もあるのでしょうが、私は個人的に「女性だから」「黒人だから」と気を遣うのもちがう気がしています。テレビ放映枠からロックの主要部門が外れているのも、不満に思っている人がいても、カントリーやラップのほうが聞かれているのですからしかたない。「こちらを立てればあちらが立たず」ですよね。ちなみに、バイレイシャルのアリシア・キーズのインタビューしたときに、「ミックスであること、女性であることで不利だと思ったことはない」と断言していました。これ、「成功できない言い訳にしない」という意味だと思いました。

以上、斜め読みグラミーでした。