最高のクズソング2トップ 歌詞解説Pt.1 070Shake

ここのところ、本来の自分を見失いそうなほど、まじめな原稿をまじめに書き続けてしまいました。このブログでは、自分も読む人も息抜きできるよう、最新クズソングと2010年代最高のクズソングを愛を込めて訳し、解説しようかと。「クズソング」を定義すると、「自分の弱さ、ダメさ加減を包み隠さず歌っている曲」になります。クズソングの名曲は、なぜか一緒に歌うとスカッとします。

パート1、最新クズソングの紹介から。070シェイクのデビュー作『Modus Vivendi』のGuilty Conscience。。

80年代調の甘酸っぱいトラックに(そういえば、ちょっとNenaの歌声に似ている。って若い人は知らないか)、耳を疑うような、突き抜けた内容のコーラスが乗っていて、最初に聴いたときは、「え?」「えええええ?」「いま、なんて言ったーー」となりました。うん、恋人の浮気現場に出くわしてしまったときの心情を歌っています。

070シェイクは、カニエ・ファンのあいだでは前から注目されていたアーティストです。カニエの「毎週、アルバム発表しちゃうよ!」プロジェクトで、プッシャー・Tの『Daytona」に1曲、『Ye』とNasの『Nasir』に2曲ずつ参加しています。肩書きはラッパーだけれど、一発で耳に残る歌声が武器だし、歌うようにラップするので、どちらかといえばシンガー寄りの人です。ダンスホール・レゲエのシングジェイに近いスタイル。そういえば、昨年のDJキャレドのアルバムで、ブジュ・バントン、シズラ、モヴァード揃い踏みのHoly Mountainでも独特な歌声を響かせていました。彼女、「特定の呼び方はされたくないけれど、恋愛対象は女子」と話していて、LGBTQに対してオープンではないラスタファリアンのブジュとシズラが組んでいるのは、時代が変わったなぁ、と感慨深くなりました。ヴィデオを貼ってみます。

ね。いい曲でしょう。途中でBen.E.キングのStand By Meのフレーズを挟んでいます。プロデューサーのマイルス・ウィリアムはビヨンセやリル・ウェインとも仕事をしている注目株です。

アルバム『Modus Vivendi』の話をしましょう。070シェイクの魅力は、中性的な歌声と歌詞にあります。言葉の選び方が、もうとってもすてき。最近、自分の言葉で歌詞を書ける若手アーティストがビュンビュン出てきて、何事だろう、と思っています。赤ちゃんの頃からラップを聴いていると、20歳くらいで特別な脳みそに仕上がるんでしょうか。070シェイクはまだ22歳ですが、音楽活動の前は詩を書いていたそう。アメリカで「詩を書く」は、人前で詠みあげる「ポエトリー・リーディング」を含むことが多く、日本の「詩人」より動的、アクティヴなんですよね。

 問題のGuilty Conscienceのリリックについて。ギルティ・コンシェンスは「罪悪感」という意味で、エミネムにも同じタイトルの名曲があります。20年以上も前ですけど。ドクター・ドレーが良心、エムが悪魔をの囁きを演たヴィデオごと、流行りました。こちらも、貼ってみましょう。

お金に困って強盗に入ろうとする、泥酔した15歳をレイプしようとする、仕事から帰ってきて妻の浮気現場に出くわす、という3つのシチュエーションで、誘惑と罪の意識がせめぎ合う。で、3つめの浮気現場に出くわす、というのは、070シェイクのギルティ・コンシェンスのテーマでもあります。大パイセン、エミネムのクラシックを意識した可能性はおおいにありますね。

ところが。2020年の罪悪感のもち方、理由が全然、ちがうのです。ここまで踏まえて、20年後の「罪悪感」を訳してみます。

Guilty Conscience / 070 Shake 池城訳

【Verse 1】
My mind won’t let me rest, voice in my head

気が休まる暇がない 頭の中の声がこだまする

I hear what it says, I can’t trust a thing 

その声が響いて なにも信じられない

If I picked up and left, how fast would you forget?

私が荷物をまとめて出て行ったら どれくらいで私のことを忘れる?

【Pre-Chorus】
Restin’ while I’m inside you’re presence 

あなたの目が届くところで休んでいるから

I don’t wanna think nothin’ bad

悪いことは考えたくない

This time I won’t, this time I won’t

今回は 今回こそは

【Chorus】
Five A.M. when I walked in

朝の5時に帰ってきて

Could not believe what I saw

目の前の光景を疑ったよ

You on another one’s body

あなたがほかの人と体を重ねていたんだ

Ghosts of the past came to haunt me

それで過去の亡霊につきまとわれるようになった

I caught you but you never caught me

私は浮気現場に出くわしたけど こっちは見つかったことがないから

I was sitting here waiting on karma

ここでぼんやりカルマが巡ってくるのを待ってたわけか

There goes my guilty conscience

それで罪悪感に苛まれてる

There goes my guilty conscience

罪悪感に苛まれてるんだ

(くり返し)

【Verse 2】
No I won’t let you stay

だめだ もう一緒にいられない

Thanks for the hours, thanks for the days

ありがとね 一緒に過ごした時間 過ごした日々に

If I see your eyes I turn to stone

瞳を覗き込んだら 私はきっと石みたいに固まっちゃう

I look away I gotta go

だから目を逸らして 行かなくちゃ

Gone for the week don’t bother

1週間くらい姿をくらまして 気にしないように

Til pigs fly she’ll keep on callin’

ありえないよ 彼女ったらずっと電話してきて

I been workin’ for me  not sorry

自分を落ち着かせているだけだから 悪く思わないで

Next time that we speak, I’ll be calm

次に話すときは 冷静だと思う

Next time that I go in, I’m all in

次にその時がきたら 全力を出す

Why you so close but you feel so far?

こんなに近くにいるのに なんですごく遠くに感じるんだろう?

You look the moon in the mornin’

明け方の月みたいな顔してるね

Jaded, faded, almost gone

くたびれて 色あせて もう消えそうだよ

【Pre-Chorus】
Restin’ while I’m inside you’re presence

あなたの目が届くところで休んでいるから

I don’t wanna think nothin’ bad

悪いことは考えたくない

Goodnights are never really good nights, nights, nights

おやすみのグッナイがいい夜だったことなんてないんだ

Feel something that’s heavy inside

心が重くて辛いんだ

【Chorus】くり返し

解説。帰ってきたら妻や恋人が浮気をしていたところまでは、エム先輩と同じだけれど、そのあと、「やべ、私も浮気してたから、これ因果応報ってやつ?」という斜め上の反応しているんです。おまけに、こっちは見つけたけど(=責めたり怒ったりしていいけど)、相手は浮気したことを知らないから、なんか申し訳ない、という心理状態。ただ、恋人を思いやっているかと言ったらそうでもなくて、気持ちを落ち着かせるために出ていくのも自分のためだし、自分が浮気していても、相手の浮気は許せない。

Next time that I go in, I’m all inは次の話し合いのときは、自分の過ちも話すよ、とも取れるかな、と思ったけれど、話すと取れる単語がないし、仲直りのセックスのほうがしっくりきます。そのうえで、相手を「明け方に見る月みたいに色あせている」と言っちゃうのだから、まぁ、自分勝手です。でも、そのJaded, faded, almost gone の言い方が詩的だし、「あれ、この人こんな見た目だっけ?」と恋心が冷める感じがリアル。それを、「朝の月みたいだ」と表現するの、なかなかできないと思うのです。070シェイク、天才かよ。

今回、私は070シェイクみたいなファッションを好む、女性が好きな女性がどういう言葉遣いをするかなって考えながら訳しました。新鮮。上手にできたかはわからないけど、外国人の女性の訳に「だわ」「なの」を自動的に当てるのやめようよという運動をしているので非常にすっきりした気分です。そうそう、最近、ラップの対訳仕事で「しちまう」と「だぜ」は禁止で、との発注があって、そうだよね、って納得しました。言わないよねぇ、「しちまうぜ」。それから、ヴィデオの冒頭で、Dani Moon(ダニ・ムーン/やっぱり月だ)名義の文章が出てきます。これもさくっと訳しましょう。

「私は男の子じゃないけど/傷ついた男の子を見せたかった/どうやって悲しみと向き合うか/泣いちゃダメって言われているから/子供の頃から少年は殻をつくる/自身の感情から自分を守る殻を/その殻にヒビが入ると/すごい量のやるせなさが吹き出る/殻が壊れたことを隠すために代わりのアクションが必要になる/彼はその殻をエゴや欲望、プライドと引き換えるんだ」

 ‥原文はヴィデオの7秒目にあります。深い。「クズソング」とか呼んだのが申し訳ないくらい、深い。まぁ、ここまで書いたので、タイトルは変えずに出します。この文章とヴィデオを踏まえると、この曲が男性目線で書かれた可能性も否定できませんが、ジェンダーの捉え方が自由なのもいまっぽいです(ただし、目の前で浮気していたのは女性です)。私は、070シェイクの実体験をもとに、傷つきやすさをテーマにして曲とヴィデオを作った、と取ることにします。

とにかく、070シェイクのアルバムはぜひ聴いてほしいです。Under The Moon もすごく好き。それに、what happens under the moon, it stays under the moonというこれまた天才なパンチラインがあって。これ、what happens in Vegas stays in Vegas(ラスヴェガスでやらかしたことは、ラスヴェガスに置いてっていいよ/旅の恥はかき捨て)ということわざをもじっているわけ。070シェイク世代は、映画『ハングオーバー』の1みたいに、ラスヴェガスまで行かなくても、月さえ出ていればやらかしてもいい理由に十分なるみたいです。

ちょっと羨ましいかな。

パート1、終わり。