平均年齢47.7才の2020年Pt1.どうせ陰謀論を吐くなら絶滅レベルまで行け!バスタ・ライムズ「人類滅亡レベルの危機2」

「俺はお前らみんなが怒りで進まないと、という気にさせるために神から遣わされた/ストリートをヒートアップしてめちゃくちゃにするところだよ/また罰してやる/トランプがトランペットよりけたたましく騒いで前にいる間/みんながあの操り人形の前でひれ伏している間/俺は復活の日を信じる」

これ、超ベテラン・ラッパー、バスタ・ライムズが22年ぶりに出した『E.L.E.(Extinction Level Event)』の続編、『E.L.E.2〜 The Wrath of God』のタイトル・トラックの言葉です。通称ブラック・モズリム、ネイション・オブ・イスラムの総帥のルイス・ファラカーンを招いて、アルバムの大筋、コンセプトがわかる感じですが、「お前ら、ボヤボヤしていると地球が滅びるぞ!」って脅しています。アルバムのタイトルは、「人類滅亡レベルの危機〜神の怒り」という意味。うん、バスタって昔からその手の話が大好き。おまけに、1998年の1作目はバスタの最高作と言われているだけでなく、ある事実でかなり有名なんです。こちら、カバーアート。

名盤です。

ブルックリン側から見た絵です。ローワー・マンハッタンが燃え、ワールド・トレード・センターが、煙に包まれている。そう、バスタ・ライムズは、このカバーで3年後の9月11日に起こる世界同時多発テロ事件を予言してしまったのです。当時、けっこうな騒ぎになりました。でね、ここでちょっと怖い話を書きます。このブログ、最初は11月7日の土曜日に書いてたの。約1カ月前、ちょうどアメリカ大統領選の開票で世間が大騒ぎしている最中で、なんか私もニュースをつけたり消したりしながら、パチパチ書いていて、何気なくテレビを点けたら‥。

『ディープ・インパクト』が放映されていたんです! たまたま! この映画、E.L.E.(Extinction Level Event)という言葉を最初に出した作品で、バスタはこれを観て、アルバムの構想を得たの。彗星が地球に直撃することが観測され、ロケットに乗って食い止めに行ったり、抽選で選ばれた人だけが要塞に逃げられたり、って話なんですけど、大統領が黒人の名優、モーガン・フリーマンなんですよね。もうねー、びっくりしすぎ、怖すぎて書くのを止めました。2020年、驚いた事件は多々あるけれど、恐怖度の瞬間風速としては最大でした。

ということで、1カ月かけて恐怖心を乗り切り(彗星、落ちてこなかったし)、改めてアルバム・レビューを仕上げます。22年前の話をしても、「いや、まだ生まれてないし」な読者さんもひょっとしたらいるかもしれないので、まず、バスタ・ライムズが何者か、という話から。彼はジャマイカ人の両親をもつブルックリン出身のラッパーで、レゲエの超早口DJパパ・サンの影響を受けたスタイルと、抜群の存在感で90年代の半ばから00年代前半まで大ヒットを飛ばしまくった人。ソロになる前はザ・リーダーズ・オブ・ニュースクールというグループにいて(こちらも隠れ名盤があります)、19才のときにア・トライブ・コールド・クエストの「Scenario」のリミックスに参加。この曲はヒップホップの名曲のランキングの上位にいつも入っているので、知っている人も多いかな。

ソロになってから、エレクトラ・レコーズからド派手なビデオと衣装で一時代を築きます。この頃のミッシー・エリオットの爆発も、同レーベルの社長だったシルヴィア・ローンの、アーティストの音楽性を尊重しつつ、イメージ作りを徹底してやるという手腕が大きい。黒人女性として、ヒップホップに多大な貢献をした人です。ただ、テレビで流れていたミュージック・ビデオで見る分にはひたすら明るいバスタが、アルバムを聴くと実は終末論を説くタイプ、というギャップが結果として生まれてしまいました。いずれにしても、この頃のヒットは、いま聴いてもいい曲が多いです。

そろそろ、本題の新作の話を。最初に聴いて、「えー、バスタ、ずるーい」と思わず笑ってしまいました。ビッグネームをずらり揃えて、なりふり構わない大ネタを使うわ、自分のビッグヒットのリメイクみたいな曲をぶっ込むわ。時間もお金もきっちり使っています。トレンドを無視して自分がいいと思う音、職人芸ともいえるラップが映えるトラックで勝負している様は清々しいほど。

客演も豪華。列挙するのも大変なので、アートワークを貼りますね。

ざっくりチーム分けをしましょう。昔から仲良しチーム;Qティップ、M.O.P.、マライア・キャリー、メアリー・J.ブライジ。俺が認めてやったぜな年下チーム;ケンドリック・ラマー、アンダーソン・パーク、ラプソディあたり。天国にいるウータン・クランのオール・ダーティー・バスタードと、ジャマイカの監獄にいるヴァイブス・カーテルの特別枠チーム。ラキムやピート・ロックといったレジェンドもちらっと参加。意外だったのが、4つ下のリック・ロス。とくに仲がいい印象はなかったけれど、この二人で作った曲はネイション・オブ・イスラム押し、創始者のウォレス・ファード・モハメドをトリビュート曲でした。ということで、このビデオを紹介しましょう。

私はマルコム・Xオタクなので、彼を暗殺したと長年信じられてきたネイション・オブ・イスラムには思うところがあったのですが、ネットフリックスのドキュメンタリーを観て、少し考えを変えました。彼らは、ニューヨークに住んでいるとわりと身近に存在する人たちでもあります。このビデオでは、リック・ロスとバスタの体型がほぼ同じなのにびっくりしたかな。バスタって、長身なんですよ。意外ながら、声の相性のいい組み合わせですね。

「ずるい!」と感じた理由の大半は、反則レベルの大ネタ使い。まず、「Outta My Mind」はベル・ビヴ・デヴォーの代表曲にして、ニュージャック・スウィングの名曲「Poison」使い。Nas がローリン・ヒルと作った「If I Ruled The World」と同じメロディを忍ばせた曲も。ピアノのループが印象的な「Don’t Go」は、Q−Tipが登場した瞬間に、一気にア・トライブ・コールド・クエストっぽくなります(トラックを作ったのはFocus the ARM)。

マライアとの「Where I Belong 」は既視感ならぬ既聴感(って言葉あるかな?)がすごい。2003年のヒット、「I Know What You Want」に酷似していて、プロデューサーも同じリック・ロック(E-40絡みの仕事で知られてますね)だし、確信犯。よく考えたら、この曲でバスタはすでに歌っていて、コーラスを自分で歌うラッパーの先駆け的な曲かも。ビデオはリンクを貼っておきます。バスタとマライア、二人ともキレキレの体格ですね。月日の流れは早い。

大ネタといえば、「The Young God Speak」は最後をマイケル・ジャクソンの「I’ll Be There」で締め、そのまま「自分の肩越しを見てみなよ!」という言葉をサンプリングした「Look Over Your Shoulder」に流れ込み、ケンドリック・ラマーが登場。ベテラン・プロデューサーNottz がいい仕事をしています。このアルバムのハイライトになっているので、ぜひ聴いてください。年下チームとの曲では、アンダーソン・パークが作って共演した「YUUUU」もいいです。ジミー・フェロンの『トゥナイト・ショウ』でのパフォーマンスを紹介しましょう。キーボードが、われらがBig Yukiくん! ハイプ・マンのスプリフ・スターを含めてコミカルな動きがいいです。Yukiくんが一番、クールかも。

https://www.youtube.com/watch?v=oXQVJNvgNHU

プロデューサー陣の話をすると、半分がセルフ・プロデース(!)。上記以外だと、スウィズ・ビーツにDJプレミア、ロックワイルダー、DJスクラッチ、ハイテック、9thワンダーなどなど、大御所が勢ぞろい。「あ、これは!」と一聴して反応できる、シグネチャーとなるサウンドをもっている人ばかり。いまどき感はないけど、2025年に聴いても安心して聴けそう。私としては、故J・ディラが残したビートをピート・ロックが仕上げたと思われる、「Strap Yourself Down」を強く推したいところ。

バスタ・ライムズはジャマイカ系で、フローにダンスホール風味を忍ばせるのが得意です。「Boomp!」では「エネルギーをジンセン(高麗人参)で補給する/俺のブジュ・バンタン(中略)ボビー・デジタルの音が頭を叩く」というリリックがあり、ブジュをビッグアップしつつ、今年亡くなったデジタル・Bことボビー・デジタルを追悼。ちなみに、バスタはソロでバカ売れする前に、ブジュの『Voice of Jamaica』(93)に参加しています。それから、服役中のヴァイブス・カーテルが参加した「The Don & The Boss」は、カーテルがかなり目立つ仕様。バス・ア・バス、ジャマイカン・コネクションがしっかりしています。

何回も出てくるコメディアンのクリス・ロックがうるさすぎるとか、「おーい、21世紀始まって、もう20年経ったんですけどー」と言いたくなる携帯電話のメッセージ使いのインタールードとか、突っ込みどころもたくさんありますが、不気味なのに元気が出る、珍しいアルバムではあります。

<おまけ;バスタ・ライムズ観察記>

バスタ・ライムズはインタビューをしたり、ジャネット・ジャクソンとのビデオ撮影に立ち会わせてもらったりと、いろいろ思い出があります。一番、よく覚えているのは、パナマで行われたミックステープ・サミットから帰ってくる飛行機が一緒だったらしく、荷物が出てくるレーンで待っているときに向こうが気がついて、「大丈夫?」と聞いてくれたこと。私、疲れ切って、死にそうな顔をしていたんだと思います。あと、靴のティンバーランドとのコラボをしたときの記者会見で、ドヤ顔で紹介したのがピンクのヒョウ柄ティンバ(メンズものです)だったときは、どこに向けてデザインしたのか、本気で心配になりました。衣装の色使いが派手なのは、ジャマイカ系っぽくていいな、とは思います。人が良さそうな印象を持っているファンの方、あながち外れていないですよー。業界内でも好かれていますし。以上、思い出シリーズでした。