来日直前! チャンス・ザ・ラッパーに関して「へぇ!」な7つのこと

今週末、とうとう、チャンス・ザ・ラッパーが初来日しますね!

ということで、予習代わりに「こんな人なんだよ!」ってのを書いてみます。

 

題して、チャンス・ザ・ラッパーに関して「へぇ!」な7つのこと、挙げてみましょう。

 

1 高校生の時、停学を喰らって、その10日間のことをミックステープ『10 Day』(作品)にして世に出てきた

 

2 同じシカゴ出身のカニエ・ウェストに多大な影響を受けている。ものの、カニエからGOOD Music入りへ誘われたらあっさり断った

 

3 13才頃、オバマ元大統領に直接、「ラッパーになるんだ!」と宣言した有言実行野郎

 

4 ほぼ同じ顔のとーちゃんと弟がいる

 

5 ジェイ・ZからJコールまで同業者みーんなが心底羨むものを持っている

 

6 広告一つでグラミー賞のルールを変えた

 

7   『Coloring Book』の本質はゴスペル・ラップである

 

解説していきましょう。

 

1は有名なエピソード。学校でマリファナを吸って停学になったそう。それから、以前は精神安定剤のXanaxを摂っていたこともラップしています。アメリカで睡眠薬や精神安定剤を本来の効能以外の目的のために手を出す人は、ほんっっとうに多く、社会問題になっています。チャノ(アメリカでのニックネーム。呼びやすいので広めます)もその道は通ったわけです。娘が生まれ、父親になって神様の存在を改めて感じ、『Coloring Book』ができた、という流れ。

 

2 カニエとの関係。子供の頃はそれほど熱心なヒップホップ・ファンではなかったけれど、カニエのThrough The Wireを聞いて、天啓を受けてラッパーを志したそう。チャカ・カーンの同名曲を大胆に敷いた名曲で、私も2004年のベスト1に選んだ記憶が。いつ聴いてもかっこいいし、この曲がチャノの原点になっているのも納得です。

そのカニエですが、2作目『Acid Rap』後に起きたレーベル争奪戦に参戦、 彼のレーベルGOOD Music入りを勧めたそう。レコード会社による何度目の契約金競争が激しい時期で、ASAPロッキーが300万ドル(超ざっくりで3億円)もらったとか、よく話題になっていました。ここに乗らなかったあたり、チャノの強さがあります。カニエとは仲が良く、『Coloring Book』のオープニングAll We Gotはカニエから「手伝うよ」という電話があって実現したそう。美談。

 

3、4、5は基本的にぜーんぶ同じ話。チャノ太郎(勝手に拡げてみました)は、上院議員時代、オバマさんの元で働いていたお父さんのケンさんがいます。「お父さんのボス」だったオバマさんに会った際、将来はラッパーになりたい、と言ったところ、「ワード」と返ってきたとか。wordは、「なるほど/よく言った」といった意味で、ポジティヴな同意の時に使います。まぁ、スラングだけど。オバマさん、カッコいいです。

 

Summer Friendsで本人もラップしているように「俺の友達、みんなお父さんがいない」中で、人生の指針となる父親が、チャンス・ザ・ラッパーことチェンセラー・ベネットにはいます。父親がいなくても周りに頼りになる叔父さんや祖父がいることもあるし、お母さん一人できちんと育て上げるケースは多々あります。一括りするのは乱暴であるのを認めつつ、アメリカのヒップホップ・カルチャーを語るうえで、父親の不在の問題は大きいことは指摘したい。ジェイ・ZもJ.コールも50セントもそれをテーマにした曲があるし、彼らの生き方に多大な影響を与えています。

 

アートにしてもスポーツにしても、目指す師匠や先輩を見つけて目標にし、最終的に超えることで成長するストーリーが背景にあることが多いですよね。ヒップホップはこのサイクルが早いうえ、関係性が濃い。まぁ、この話は別の機会に深くするとして。

 

チャノみたいにレコード会社から契約の話が来たような大事な局面で、的確なアドバイスをしてくれるお父さんがいるのはとても珍しいし、ほかのラッパーにしてみれば、契約金の額よりもグラミー賞よりも羨ましい土台なのです。私は、彼の屈託なさ、25才とは思えない安定感もそこから来てるかな、と思っています。

 

弟のテイラー・ベネットも注目株のラッパーです。

 

6も有名な話。彼は音源に値段をつけず、フリーで売り出したため、グラミー賞の規定に外れてノミネートされない雲行きになった際に、ビルボード誌に掲載した意見広告がこれ。

 

「ヘイ、俺だっていいじゃん」

 

からの、なぞのウセイン・ボルト・ボーズ

 

‥‥憎めないぃぃ。

 

これで、みんな「だよね、いいんじゃね?」、「ノミネートしちゃう?」からの、「ノミネートならいいよね?」で、見事に受賞(半分、想像)。

 

グラミー賞だってテレビ番組のひとつなので、彼みたいに直前に話題を作ってくれるアーティストは大歓迎なのです。

 

チャンス・ザ・ラッパーの魅力を端的にいうと、アーティストとして、人間として、頭とセンスがめちゃくちゃいいこと。

 

性格ははっきりしていて、相手が大巨匠の映画監督、スパイク・リーだろうが、ミックテープ時代(って、いまもある意味そうなのですが)に散々世話になった、シカゴの(元)ドン、R.ケリーだろうが、言いたいことがあったらハッキリ、ズバリ言います。

 

言動を見ると、わりとキツい人です。

 

でも、それを補ってあまりある愛嬌。

 

私は、個人的に顔がコミカル系でよかったな、って思っていて。これでイケメンだったり強面だったりしたら、共感指数がぐっと低くなった気がします。

 

彼がどんな人間か、育ちなのか。私はAngelのこのラインを聞いた時、ハッとして理解しました。

 

I ain’t change my number since the seventh grade

 

「中1から(携帯の)電話番号を変えていない」

 

中1から携帯を持っていたことがまずひとつ(珍しくはないけど、早いです)。00年代はアメリカも携帯会社の顧客争いがピークで、キャッシュバックとか半年だとかに惹かれてしょっちゅう番号を変える人がいました。途中で番号を持ち越すことができるようになったのですが、ほかならぬ私も「絶対に番号を変えたくない」という信念のもと、まぁまぁがんばって誘惑に打ち克ったほど。

 

だから、このラインで「あ、10代から頑固だったんだな」と。経済的に、精神的に安定していたんだな、と、合点が行きました。

 

7 私が強調するまでもなく、『Coloring Book』(塗り絵!)は大傑作です。この作品では、ラップと歌の割合が半々というのも新しかった。

 

ゴスペル・ラップ、というのはクワイヤー(聖歌隊)やゴスペル・アーティストの超大御所、カーク・フランクリンを投入している点ももちろん、全体に流れるテーマが「信仰」だから。Mixtapeみたいにヒップホップに対する思いや、Smoke Breakみたいにいっしょに緩もうぜーな曲もバランス良く入っていますが、全体の感触がゴスペルです。

 

彼が生まれ育ったシカゴは全米平均より黒人人口の割合が高く(4割近く)、教会の数も多い。カニエ・ウェストにしてもチャンス・ザ・ラッパーにしても、キリストの存在は「新発見」ではなく「原点回帰」のはず。

 

この二人のタッグ、実現してほしいです。