斜め読みグラミー マックルモア&ライアン・ルイスVSケンドリック・ラマー

1週間前の話題になりますが。

今年のグラミー賞は近年になくヒップホップが目立ったのに、いま一つ盛り上がり切れず。終わったあとに「なんだかなぁ」と残念な気持ちになりました。

理由は、7つもの部門でノミネートされていたケンドリック・ラマーが無冠で終わったから。

「なんでー。ラマ男(←誰?)にひとつくらいあげてよーー」

との思いは、授賞式の後、私だけでなく、ヒップホップ・コミュニティーで一斉に渦巻いていました。

『good kid, m.A.A.d city』は、2012-2013のみならず、過去5年くらいで出たヒップホップ・アルバムでも屈指の完成度。ファースト・アルバムでここまでやるとは、恐るべし。

ラマ男君が大敗を喫した当の相手、マックルモア&ライアン・ルイス(以下、M&RL)のマックルモアまでが「最優秀ラップ・アルバムは君がもらうべきだった」とツィートをする展開に。

私は、M&RLがドドーンと名を挙げたこと自体は喜んでいます。『The Heist』だって、すばらしいアルバム。“Can’t Hold Us”と“Thrift Shop”がよく耳に入って来たときは、ポップすぎて好みではないかなぁ、とは思いましたが、ラッパーとしてのマックルモアの技量は否定しようがないし、ヴィデオのコンセプトも新鮮でした。

実は、ケンドリック・ラマーとM&RLは、相違点より共通点の方が多いのです。ちょっと挙げてみますね。

1.ラマーは26才。マックルモアは30才(プロデューサーのライアン・ルイスは25才)。物心がついたときは、ヒップホップが大流行り。ヒップホップ自体を理解してもらうために必死だった上の世代とは違って、ヒップホップを通して自分をどう表現するか考えられる余裕があるけれど、何をやっても先人がいて比べられ、MCとしてよほど上手くないとプロとして通用しない厳しい世代。

2. どちらも西海岸の出身なのに、イースト・コーストのヒップホップをめちゃくちゃ勉強して、リリックに凝りまくり、フロウの引き出しが多い「ヒップホップ優等生」タイプ。最初に比べられた対象も似ていて、フリースタイル・フェローシップの名前がすぐ出されていました。

3.「金だドラッグだビヤッチだぁ」というヒップホップお決まりの価値観はテイストとして残すくらいで 、それより社会的なイシューや、同世代が感じている閉塞感を表現するのが上手。

実際、ラマーが一緒にやっているブラック・ヒッピーの一員、スクールボーイQは、M&RLの“White Wall”に参加しています。大枠で言うと、「仲間」なのです。

違うのは、肌の色。でも、M&RLが白人だから認められやすかった、というのもお門違いで、ラマーは神童として注目を集めてドクター・ドレーやザ・ゲームに可愛がられたり、大きなレーベルと契約したりできたエリートで、 大きなバックアップがないインディーでがんばっていたのがM&RL。自分たちだけで地道にプロモーションを重ねてヒットを出し、いまのところに来ました。

それを知っているから、ヒップホップ・コミュニティーも悪く言いません。ラマーも「彼らは(賞を)もらうだけ苦労してがんばった」とコメントし、ウィズ・カリファはファッションの番組のコメンテーターとして出演したとき、司会者が彼らの肌の色についてジョークを言っても一切表情を変えず、黙殺していました(カリファは“ White Wall”のヴィデオにちらっと顔を出しています)

どういう事情があるのか、最近のグラミー賞は受賞者が偏る傾向が強いです。投票権を持っている人による選出ですが、ニュースになりやすい結果に落ち着く。

それが今年はたまたまM&RLだっただけで、『good kid, m.A.A.d city』とさえ、かち合っていなければ「良かった良かった」で済んだのに、と思います。

『The Heist』は優れたアルバムだけれど、ここまで大勝ちするほどスゴいかなぁ、と思っているうちに、「ああ、これか」と納得したのが、彼らのパフォーマンス。

マリファナ解禁と並んで、アメリカの変化の大きな潮流になっているのが、同性婚の合法化。暗黙の了解で同性愛をおおっぴらに認めて来なかったヒップホップ界から“Same Love”のリリックを歌うアーティストが出て来て、メッセージ性の高いヴィデオを作ったのが認められたのだなぁと。

もちろん、M&RLはそれだけでなく、高価な服や靴は自分自身の価値とは関係ないよ、とか、ドラッグ中毒から立ち直った過去を振り返って、君だってできるよ、とか、いいことをたくさん言っています。

でも、リリックのディープさではラマ男だって負けていないわけで。トラックの洗練度から言ったら、『good kid, m.A.A.d city』の方が上かなぁと思うわけで。

治安の悪いコンプトンで、良心を失わずに大人になる大変さを訴えたケンドリック・ラマーの言葉は、M&RLの全く正しい、わかりやすいメッセージにかき消されてしまった……。

勝手にそう取って、勝手にオチていました。

音楽に色をつけてはいけない、と頭でわかっていても、ヒップホップはブラック・カルチャーの域に留まって欲しいという本音もあります。

でも。

一昨日、ホームパーティーをしたとき、お母さんは日本人だけど、基本的にブルックリンで元気に黒人少年としての毎日を過ごしている、10才のカイ君に「マックルモア知っている?」と聞いたら、呆れたように「Of Course(あったりまえでしょ)」と言われ、いろんな枠を作って分けてしまう私の感じ方、考え方が 「過去」なのを思い知りました。

ふつうの歌詞の何倍も多い言葉を、広く深く伝えるのがヒップホップの醍醐味、使命だとしたら、M&RLは、本当にいい仕事をしたのです。

結論のない文章でごめんなさい。

自分の中にある思い込みを含めて、いろんなことを考えさせてくれた『good kid, m.A.A.d city』も『The Heist』も、アメリカの「いま」を象徴するアルバムです。未聴の人はぜひ。

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