ジョン・シングルトン逝去に想う

少し前に脳卒中で倒れ、昏睡状態だったジョン・シングルトン監督が亡くなりました。享年51才。タイリースとタラジ・P・ハンセンがお見舞いに行ったニュースがあったので持ちこたえたのかな、と思っていたのですが。生命維持装置につながれた状態で、家族がこれを外した、まだ外していないというニュースが昨夜、錯綜して私も亡くなったツィートを一旦、消して眠りにつきました。

ジョン・シングルトンの作品でもっとも有名なのが出世作のBoyz n the Hood(91年)。主演、準主演の3人、キューバ・グッディ・ジュニアとアイス・キューブ、モーリス・チェスナットもそれ以降、活躍しました。92年にロス暴動が起きて、カリフォルニア州の状況がクローズアップされた時期と重なり、現実の事件の背景を映画が補足したかたちになったように思います。監督とも映画のキャラクターとも同世代なので、衝撃的でした。スパイク・リーの映画にも影響を受けていますが、彼の作品の登場人物はキャラが立ちすぎていて、「違う世界の人たち」という印象が強くて。一方、シングルトン監督の作品は「あ、こういう人いる」と共感しやすかった。大学を舞台にしたHigher Learning(95年)はとくにそう感じたな。音楽だとア・トライヴ・コールド・クエストやデ・ラ・ソウルがでてきたときに「あ、自分たちに似ている」と思った感覚が、彼の映画にはありました。

一番、好きなのはPoetic Justice(93年)。すでに大スターだったジャネットが美容師役だったのは驚いたけど、案外、はまっていてとにかく可愛かった。相手役がトゥパック。これまた「わー、いそう!」なお兄ちゃんで。ちなみに、ジャネットの殺された元カレ役がトライヴのQティップ。ジョン・シングルトンは、アーティストに演技をさせるのが好きな監督で、それで客寄せをしている、って叩かれていたか記憶があります。こうやって書きながら、あれこれ思い出しているんですけど。脇役を演じたレジーナ・キングはいまでは大御所の演技派女優さんですね。

ジョン・シングルトンの作品って、ストーリーの展開が読めるし、ハッピーエンディングが多いので「軽く」見られがちだったんですけど、セリフ(脚本)がとにかく良かった。「ハイヤー・ラーニング」や「ポエティック・ジャスティス」は、よくヒップホップのリリックに出てきます。Poetic Justiceに出演したあと、トゥパックはどんどん荒れていくわけですが、彼の伝記映画、All Eyez on Meはもともとシングルトン監督が手がける予定だったのがプロデューサー陣ともめ、降板しちゃったんですよね。私はあの作品が好きではないので、シングルトン版が見たかったな。

監督と外見が似ている、R&Bシンガーのタイリースを抜擢したBaby Boy(2001)もよかった。車社会のロスで、自転車で移動する情けない主人公を好演、切り口の違うComing of Ageもの(成長譚)として秀逸でした。タイリースはそのあと2 Fast 2 Furious(ワイルド・スピード)でもタッグを組んでいます。

アウトキャストのアンドレ3000がでたFour Brothers(2001)もありました。アンドレと主演をつとめたマーク・ウォールバーグの演技力の差が激しくて話題になりましたが、作品自体は楽しめました。ストーリーを忘れているので、連休中に見ようと思います。

シングルトン監督は最近はテレビ・ドラマを監督したり、プロデュースしたりするほうが多かったようです。アマゾン・プライムビデオやネットフリックスですぐに見られる作品は多くないのですが、機会があったらぜひ観てください。

そうそう。『ユリイカ』最新号のスパイク・リー特集で、私は「ポップ・アイコンとしてのスパイク・リー」を寄稿しています。特集のなかでは軽いほう。深刻な話題でも、ことさらヘヴィな文章を描きたくないあたり、私はシングルトン派なのかな(って図々しいですね)。