Kid Cudiって知ってる? –Kids See Ghosts

Kids See Ghosts

おばけが見える子どもたち=カニエ・ウエスト&キッド・カディ

村上隆さんとカニエ、再コラボのジャケット。最高です。

 

Yeの全曲解説とは趣を変え、私がひたすらキッド・カディをほめそやすブログです。アルバムのことも書くけれども、大枠は

キッド・カディが大好きだーーーーーーっ

 

という気持ちを、積極的に発露していこうかと。

 

カニエさんの知名度というか、お騒がせ度がずば抜けて高いため、影に隠れていていますが、キッド・カディも大した才能の持ち主です。09年、デビュー直前にインタビューしたとき、

 

「ヒップホップのアルバムを3枚だけ出して、あとは俳優に専念する」

 

と言い放ち、私は私で「何を言ってるのかな、このガキンチョは」と思いつつ、まぁ、そのチャーミングさにもだいぶやられてしまい。ちなみに、今作は7枚目です。続けてくれて良かった。

 

カニエのG.O.O.D. Musicから『Man on the Moon: The End of Day』でデビュー。抽象的なリリックと歌うようなメロウなラップで、スヌープやウィズ・カリファとは一味ちがう、ストーナー系ヒップホップで出てきた人です。2作目までその路線を続けて、まだそのイメージが残っていますが、本人はしばらく前にマリファナはやめたそう。

 

マチズモを強調しない、内省的なライムが特徴。カニエの『808s Heartbreak』に客演とソングライティングで大きく貢献しています。このアルバムではHeartlessとRoboCopがとくに好きだったのですが、どちらもカディ君もペンを取っているし、メロディーを作ったのも彼かな、と思っています。

 

ドレイクとほぼ同期。彼とともに、「俺って、俺って」なグズグズラップが受け入れられ、拡まる土台を作った気がします。実際、Pursuit  of Happinessのヴィデオはドレイクが全面的にカメオ出演しているし。それ以前も感情を語るラップはあったのですが、この二人、基本的にずっとその話。恋愛や物欲を絡めながらも、伝えたいのは、孤独な気持ち、理解されない俺。そう、だれもが持っている感情です。2010年代のヒップホップって、クラブやコンサート会場で一斉に「お前らなんか友達じゃねー」って歌うのが「主流」です。横並びの孤独。一緒に歌っているから仲間、ではないし、ステージから語りかけられるのをありがたく拝聴するのもウザい。とってもSNS的だと感じます。

 

音楽的には、Born Thugs-N-Harmonyの影響を語っているように、カディは歌うようにラップするスタイルが特徴。この流れは、髪を派手な色に染めたLIL 系が多い、日本でいうところのエモ系(すみません、ざっくりで)に、ゆるくつながっています。カニエが、XXXテンタシオンの死に際し、「直接言えなかったけど、インスパイアーされたよ」とつぶやいたのは、本心だと思います。XXXを聴いていると、私は肘から先がゾワゾワしてさすってしまう。リリックとその間にある感情が剥き出しすぎて、目の前で泣かれているようで辛かった。彼は、本物の表現者でした。キッド・カディはダークですが、比喩やユーモアに長けているので、救いがあるし聴きやすい。そういう意味では、オーソドックスなヒップホップ・アーティストです。

 

それから、カディはとってもおしゃれ。クリーブランドからニューヨークに出てきたとき、SOHOのBAPEの店員をしていたのは有名な話です。デザイナーの名前ではなく、オープニング・セレモニーなどセレクト・ショップの店名を出すあたりも新しかった。腰から下が細い、ロッカーみたいな体型の持ち主。黒人は筋肉で服を着こなす人が多いですが、カディさんは骨格で服を着る印象があります。

 

いつだって半歩先を歩いて、結果、功績が見えづらい人です。

 

俳優としても、演技力抜群。映画はまだ作品に恵まれていないようですが、テレビドラマではHow To Make It Americaというカルト作品が秀逸で、主役を喰う存在感でした。ちなみに、俳優業はScott Mescudi(スコット・メスカディ)の本名でクレジットされていることが多い。

 

そろそろ、Kids See Ghostsの話を。カディはカニエに見出されたというより、A&Rの人がカディをデビューさせる際に紹介して、いい距離感を保ってきたふたりが、ここまでがっつり組んだのは初めて。

 

前回のブログで「舎弟感」と書きましたが、弟分であり、アイディアを喚起するミューズのような存在なのでは? 男性ですけど。誰よりも早く、公然と「がっかりした」と文句をいう形でカニエを心配し、そこから仲直りをして、この作品ができた、という流れ。

 

もうひとつ、ふたりに重要な共通点があります。キッド・カディは2016年に自殺願望が強いうつ病で、自分からリハビリテーション・センターに入ったことを発表しています。先日のケイト・スペードさんの自殺もそうですが、世間的に成功してすべてを持っているように見えても、本人は生きづらく感じているケースはあるんですね。カディは、その後、積極的に精神疾患に関する理解を促す活動をしています。

 

Yeで「(躁鬱病は)スーパーパワーだ」と叫んだカニエだって、開き直っているわけじゃないんですよ。アートワークに書かれた言葉が“I don’ like being bi-polar”でも、“It’s hard being bi-polarでもなく、“I HATE being bi-polar”だったんですから。「ヘイト」はとても強い言葉で、たとえば、“I hate BBQ”(BBQは大嫌い)”と言ってしまったら、「もう絶対に誘わないでくれよ」くらいの意味になります。有名人であるキッド・カディとカニエ・ウエストだって、精神疾患を公表することで今後、ある種の烙印がついて回る覚悟はあったはず。メロウに響くアルバムですが、Ye同様、根底に流れるものはヘヴィです。

 

Freeee(解放) や Reborn(再生)などの曲のテーマ、そしてふたりに見えているお化けは、自分が抱える闇。それを受け入れつつ、救いを神(キリスト教)に見出したと、どの曲でも言っています。ヒップホップのオールドスクール・アーティストにはイスラム教に傾倒する人もいたのですが、やはりアメリカ人の大多数はクリスチャンだし共感されやすい。This Is America で話題になったチャイルディッシュ・ガンビーノにいたっては、エホバの証人を信仰する家庭で育っています(宗教に詳しい人が、その観点も踏まえてあのヴィデオを分析したら、また面白いでしょうね)。

 

話があっちこっち行ってますね。私のカディへの愛情、集中力がないようです。目立ったリリックを訳出しようと試みたのですが、過去と現在、弱気と強気の間で行ったり来たりして、前後を落とすと誤解を招きそうなのでやめます。言葉数も少ないし、とてもシンプルなのでリリックに興味がある人は読んでみたらいいと思います。

 

マーカス・ガーヴェイ(黒人解放運動の指導者)とルイス・プリマ(ジャズ・ミュージシャン)をサンプリング。ゲスト参加は、今回のカニエ組以外では、ヤシーン・ベイ、ミスター・ハドソン、アンソニー・ハミルトンと考え抜いた布陣。そしてまさかのアンドレ3000がFIREにクレジットされています(ラップはしていません)。

 

アンドレのカニエ・プロデュースの曲、聴きたいですねぇ。

 

キッド・カディに関して、過去のブログにちょこちょこ書いています(日記の間に出てくる感じ)。お時間があったら、覗いてみてください。一番、力を入れたErase Meの解説はなぜか消えているんですけど。

 

お化けの仕業かな。