ネイオの3rd 『And Then Life Was Beautiful』がすばらしい

秋はR&Bが似合います。最近リリースされたアルバムのうち、スーパーヘヴィロテで聴いているのがNao『And Then Life Was Beautiful』。字面だけで「ナオちゃん❤」と呼びたくなるけど、「ネイオ」です。本国イギリスでは2016年のファースト『For All We Know』からずっと話題になっているシンガー。一度聴いたら忘れられない、鼻にかかった高い歌声が何とも言えずすてき。声自体が甘いから、少し辛辣な歌詞を歌うと自動的に「甘辛ミックス」になって最高なのです。もしかしたら、日本では「アニメ声」と言われる類なのかな? ちがうか(←わかってない)。

こんな曲がどんどん生まれているなら、ロンドン行きたいな。

ファーストの『For All We Know』はR&Bよりエレクトロのカラーが強かったのが、2018年の『Saturn』でぐっとジャズが入ったR&Bに寄って、今回の『And Then Life Was Beautiful』ははっきりくっきりとネオソウル。どんどん、私好みに変化している感じ。その分、音楽的に新しく感じないかもしれないけれど、クオリティがすばらしく高い。

それにしても、ここ数年の90年代の終わりに起きたネオ・クラシックの再評価と、その文脈を強く意識している新世代の台頭はちょっとすごいですね。ネオ・クラシックって当時は渦中にいたアーティストは口を揃えて「一緒くたにしないでほしい」と言っていたんです。でも、20年のうちに数周回って「そこが音楽を聴く/奏でる緒(いとぐち)になるなら、ま、いいか」みたいな流れになりました。昨年5月のエリカ・バドゥとジル・スコットのVerzuz対決なんて完全に受け入れた(開き直った)上で成り立った企画だし。「どーぞ、一緒にまとめてください(でも、きちんと音楽性の違いもそのうち気づいてね)」みたいな。

ネイオの話でした。前作『Saturn』は去年のグラミー賞でベスト・プログレッシヴ・R&B部門でノミネートもされています。「ベスト・プログレッシヴ・R&B」ってなに? と思いますよね。これ、2013年に新設された「アーバン・コンテンポラリー・R&B」を2020年に改名した部門。アーバン・コンテンポラリーは要するにヒップホップを指すので、「ヒップホップ寄りのR&B」のつもりだったのが、「アーバン」の響きが「ブラック」の言い換えではないか、と物議をかもしてさらに改名する羽目に。実際、いままでノミネートされた人を含め、白人はバンドのフリー・ナショナルズのメンバーくらい。オーソドックスなR&B(様式美R&B)にあてはまらない音楽性をもつアーティストのためのカテゴリーという意図はわかるけど、ちょっと線引きが難しい。00年に取ったリゾはほとんどポップだし、01年のサンダーキャットも「R&B…と言えなくもない」な人ですよね。

それを考えると、『And Then Life Was Beautiful』は、ふつうに最優秀R&Bアルバムにノミネートされそうな仕上がり。タイトル曲のパフォーマンスです。

再来日してほしいですね

3曲めの「Glad That You’re Gone」のメロディラインは最初に聴いたとき、「あれ、カヴァー?」と思ったくらい似ている曲があるはずなのですが、思い出せなくてここ最近なんだか気持ち悪いのです。ミュージック・ソウルチャイルドかなー、と思ってチェックしたけど見つからなくて。気がついた方がいたら、教えてください。ちなみに、ネイオは母方がジャマイカ系でグライムの洗礼も受けている人だけれど、ナイジェリアのアデクンレ・ゴールドを招いた「Antidote」はレゲエではなくてアフロビーツ。同じくジャマイカ系のお母さんをもつリアン・ラ・ハヴァスとの「Woman」もいいし、やはりネオ・クラシックの香りが強いラッキー・デイとの「Good Luck」のかけ合いも、これぞR&Bな曲でで最高。

あと!! ブルックリンのサーペントウィズフィートとの「Postcards」の歌い出しは「正当化するつもりはないけど 京都旅行で私たちの人生変わったよね」なんです。ちなみに、どちらも2018年に来日しているけれど時期がちがう。「葉書」というタイトルだし、パッと聴いた感じは遠距離恋愛の話みたいなのに、サーペントウィズフィートは自分のヴァースで恋愛の相手を「He」と呼んでいます。彼はクィア・アーティストなので自然ではあるけれど、ネイオのヴァースと噛み合わない。そうしたらですねー、さすがgenius、最後にネイオ本人が解説していました。

In ‘POSTCARDS’ serpentwithfeet and I are telling parallel relationship stories with him welcoming someone into his life and me waving goodbye. It’s about the cycles of love and how it can render in so many different ways, not all of them in the traditional shape.

「サーペントウィズフィートと私はパラレルな恋愛の話をしているの。彼は新しい彼氏と出会って、私はさよならを告げている。恋愛関係のサイクルは得て様々な形になり、必ずしもいままで通り(男女)ではないってこと」

なるほど。仲良くなった男性がバイ・セクシュアルだったとも取れるし、たまたま同じ街に住んでいるふた組の話かもしれない。うん、視点が新しくてとってもいいです。

ネイオはもちろん、リアン・ラ・ハヴァスの去年のセルフタイトル・アルバム、サーペントウィズフィートの『DEACON』とそれぞれの最新作もぜひチェックを。このなかで一番先に売れているのがラッキー・デイかな。彼は最近、アース・ウィンド&ファイアーのおじさまとこんなおもしろい曲を作っています。

Can’t Hide Loveのセルフジャックですね(笑)

ついでにラッキー・デイの新曲も。この「Over」はミュージック・ソウルチャイルドの「Halfcrazy」をサンプリングしています。曲の雰囲気、コンセプトは引き継いでいます。

ストーリー性のあるヴィデオがいい感じ。

元ネタも貼っておきましょう。

この手のファッション、日本でも流行りましたね。取材のときもわりといい人でしたよ。

ね、ネオ・ソウル再興はあながちハイプじゃないでしょ。聴いてみてくださいねー。