大坂なおみさん BLM連携で試合棄権するも、撤回

大坂なおみさんが、地元ニューヨークに行われるウエスタン・アンド・サザン・オープンへの出場棄権を表明して半日、一転、棄権を撤回して出場することになりました。「BLMに注目してもらうという目的は達成できたから」との理由。たしかに改めてアメリカの現状を考えるきっかけになったので、これでよかったと思います。

このブログもネットから消そうかと思ったのですが、日本の反応を見て「大切なことなんだろうけど、棄権するほどなのか?」と感じた方も多かったようなので、少し書き足してこのままにします。「スポンサーもいるのに」と懸念する声もありました。アメリカのスポンサーは、契約している選手がこのような行動に出た場合、一緒に立場を表明するケースが多いです。

個人的に、日清食品は彼女の姿勢を支持する声明を出せばいいのに、と思っています。ラーメン、食べてますからね、アメリカ人。BLMを支持する層の人はとくに。公式ページで最新情報を貼っておきます。

元ツィートの和訳は機械翻訳で、ところどころわかりづらいので、訳しました。

こんにちは。ご存知のように明日、私は準決勝に出場する予定でした。しかし、私はアスリートである以前に、ひとりの黒人女性です。そして、黒人女性として私がテニスをしている姿を観てもらうよりも、注目してもらいたい切迫した重要な事柄があるように思います。私が出場しないことで、大きな変化があるとは思っていません。ただ、白人が大多数を占める競技において、対話の緒になるのなら正義への1歩だと思うのです。警察官による黒人への虐殺が続くのを目の当たりにして、本当に憤慨しています。数日おきに新しいハッシュタグが出てくるのにへとへとで、また似たような会話を何度も何度も繰り返していることにも心底、疲れ切っています。

いつになったら、おしまいになるのでしょう?

#JacobBlake #BreonnaTaylor #ElijahMcclain #GeorgeFloyd

○棄権の背景

今回の行動は、8月25日にウィスコンシン州のケノーシャで、ジェイコブ・ブレイクさんが自分の車に乗ろうとしたところ、警察官に背後から撃たれるという痛ましい事件を受けてのこと。車中には、彼の息子が乗っており、父親が撃たれる瞬間を目撃しています。一命は取り留めましたが、今後、歩行は困難になると報じられています。即座に抗議運動が起き、その最中に今度は17歳の白人少年がライフルを持ち出して乱射し、死者2人、重傷者1人を出す事件も続けておきました。めちゃくちゃです。

ケノーシャから近いところに本拠地があるNBA のミルウォーキー・バックプレイオフの試合を棄権、NBA全体が支持する姿勢が広がっています。

これは、フォロワーの方に教えていただたのですが、WNBAの選手は、背中に受けた銃弾を表す赤い点をつけたTシャツを着用して試合に臨んだそうです。

○声明のポイント解説

・「数日おきに新しいハッシュタグが出てくる」というのは、2013年から始まり、今年の5月から激化しているブラック・ライヴス・マターの抗議運動の最中にも、警察や自警団の暴力により、黒人が亡くなる事件が続き、そのたびに新しいハッシュタグが生まれることを指しています。このツィートについているハッシュタグだけ、簡単に解説します。

#BreonnaTaylor ルイビルの救急救命士ブレオナ・テイラーさん(享年26才)は、3月22日にいきなり踏み込んだ私服警官たちに撃ち殺されました。テイラーさんと一緒にいたケネス・ウォーカーさんが強盗だと思って届けてあった銃で発砲したことが発端ではありますが、警官側は22発も発砲、寝ていたテイラーさんに8発当たっています。事件が起きる前に元交際相手の身柄は確保されており、捜査するだけの根拠はなかったとして大問題になっています。

#ElijahMcclain 2019年8月にコロラドのオーロラ在住のマッサージ・セラピスト、イライジャ・マックレインさん(享年23才)が、3人の警官に絞殺された事件。警官たちは「スキーマスクをした怪しげな男が歩いている」との通報を受けて取り押さえ、驚いたマックレインさんが抵抗をしたために首を絞めました。3日後に病院で脳死を宣告された彼は武器も持っていなかったうえ、通報者本人が「なにかすぐにしでかす、という危険な感じはなかった」と証言。マックレインさんは菜食主義者のセラピストで、犯罪歴もありませんでした。

ジョージ・フロイドさんの事件は広く報道されているので、割愛します。これ以外にも多くのケースがありますが、なおみさんは手を下した警察官が起訴されていなかったり、有罪になっていなかったりするケースを選んでいるようです。

・Sick to my stomachは「胃がムカムカする」が直訳ですが、具合が悪くなるほどの強い怒りを感じたときにも使います。アスリートとして抗議を表明すると同時に、彼女が怒りに打ち震えている様子が伝わってきます。

・genocide of Black people   「民族浄化」もしくは「虐殺」を意味する「ジェノサイド」という言葉を選んでいる点に、日本にいるファンやBLMに疎いアメリカ人は「言い過ぎでは?」と感じるかもしれません。これは、警察による黒人への暴力が酷すぎること、それを許す社会構造そのものが法的な殺人を許している、という見方を端的に表しています。

○オピニオン・リーダーとしてのなおみさん

先日、フォーブスが発表したスポーツ選手の長者番付でもっとも稼いでいる女性アスリートと報じられた大坂なおみさん。日系であることと同じくらい、BLMへの積極的な発言で知られ、オピニオン・リーダーとしても一目おかれる存在です。以前から、率直な物言いでアメリカでも好感度抜群。24才の大人として、知名度を正義に使う姿勢は俳優やミュージシャンと同じで、とくに過激だとは私は思いません。また、交際中のラッパー、コーディも積極的にBLMに関わっています。23才と若いアーティストですが、昨年リリースしたデビュー・アルバム『The Lost Boy 』でグラミー賞を2つノミネートされるなど高い評価を得ています。大学生だった2016年にBLMのデモ中に逮捕されているので、政治的、社会的な事柄にどんどん声をあげ、行動するZ世代らしいアーティストだと言えるでしょう。

今年に入ってからのBLMの盛り上がりと構造的な原因については、ネットフリックスのドキュメンタリー『13thー憲法修正第13条』が的確に捉えていると思います。マーティン・ルーサー・キングの伝記映画『Selma ( グローリー 明日への行進 )』(2014)のエヴァ・デュヴァネイ監督によるこの作品は、ショッキングな告発ものでもあり、当の黒人やサポーターのアメリカ人の意識を変えた部分も多々あります。解説はまたの機会にしますが、未見の人はぜひ。

日本だと、明るい笑顔と少し拙い日本語で大人気のなおみさん。自分の信念通りに行動する姿勢はとても眩しく、立派だと思います。

#大坂なおみさんを支持します。