書評『NYの「食べる」を支える人々』

何を食べるか。どこで食べるか。誰と食べるか。

食事に関するあれこれを「楽しい」と感じるか、「めんどう」と感じるかで人生の捉え方そのものも変わってくるように思います。

食べることに対して雑な人は、生き方もどこか雑な気が。と言いつつ、私は準備が丁寧すぎたり、贅沢すぎたりする人もかみ合わない。その塩梅がピッタリ来る人は、貴重な存在。

1年半前、ニューヨークのレストラン・ガイド『ニューヨーク・フーディー』を出版しました。取材は、2015年の冬から2016年の春にかけて。一番、時間と手間をかけたのが、取材先の店選び。取材そのものは一気呵成にやり遂げました。その半年にも満たない時間で舌が鍛えられ、カロリーと体調の関係(肥えました)、サーヴィスと味の関係など、いろいろな角度で外食を考えた結果、たどり着いたのが「店選びは妥協してはいけない」という結論。

長く続いているお店は長く続いているだけの、人気爆発のお店は列になるだけの理由があります。例外。テレビでプッシュしたお店がいまいちなのは日本もアメリカも同じ。

少し前に、『ニューヨーク・フーディー』の似ている本を並べる、という店頭展開があり(出版社さん、ありがとうございます)、そのとき、この本に出会いました。

『NYの「食べる」を支える人々』。フィルムアート社刊行。

著者は、気鋭のノンフィクション作家、アイナ・イエロフさん。訳は、石原薫さん。綿密なリサーチと取材をもとにした、ずっしりとした本です。とはいえ、シリアスではなく、オーナー、シェフ、ウェイター、席まで案内する係(超人気店では重要なポジション)の話を掘り下げ、ニューヨークの食事情がわかる仕掛け。タイトル通り、「人」にフォーカスしています。一流どころのシェフだけではなく、刑務所で囚人のための食事を用意する人まで多岐に渡ります。前半は、世界各国から移住し、皿洗いからスタートして頂点まで上り詰めた人の話が多い。レストランの仕事は、労働時間が長く、きついです。「好きでないと続かない」という言葉がなんども出てくるように、適性がなければ続かない。

紹介されているお店(施設)は50弱。『ニューヨーク・フーディー』と重なっているのは系列も含めて5つだけ。私が行ったことがあるところは、16カ所(刑務所のカフェテリアには入れないですし)。テーマが被っているわりには、少ない感じがしますが、ニューヨーク市には1万の飲食店があるのだから、高確率かと思います。移民が持ち込んだ故郷の味をコアの部分は守りつつ、素材や料理法をアップデートして(健康的にして)広まっているのが、ニューヨークの食の醍醐味。僭越ながら、私もその部分を伝えようという意図がありました。イエロフさんのこの本は全編、その話です。

この本は、ニューヨーク好きの人はもちろん、板前さんやシェフ、飲食店の経営者の方にぜひ読んでほしいです。国や文化を超えて、すごくわかる部分があるはず。巻末の用語説明も勉強になります。

おまけ。ゴールデンウィークから夏にかけて、ニューヨーク旅行に行く方には拙著『ニューヨーク・フーディー』をおすすめします。電子書籍もあります。

本物はだれだ!