来日直前! チャンス・ザ・ラッパーに関して「へぇ!」な7つのこと

今週末、とうとう、チャンス・ザ・ラッパーが初来日しますね! ということで、予習代わりに「こんな人なんだよ!」ってのを書いてみます。   題して、チャンス・ザ・ラッパーに関して「へぇ!」な7つのこと、挙げてみましょう。   1 高校生の時、停学を喰らって、その10日間のことをミックステープ『10 Day』(作品)にして世に出てきた   2 同じシカゴ出身のカニエ・ウェストに多大な影響を受けている。ものの、カニエからGOOD Music入りへ誘われたらあっさり断った   3 13才頃、オバマ元大統領に直接、「ラッパーになるんだ!」と宣言した有言実行野郎   4 ほぼ同じ顔のとーちゃんと弟がいる   5 ジェイ・ZからJコールまで同業者みーんなが心底羨むものを持っている   6 広告一つでグラミー賞のルールを変えた   7   『Coloring Book』の本質はゴスペル・ラップである   解説していきましょう。   1は有名なエピソード。学校でマリファナを吸って停学になったそう。それから、以前は精神安定剤のXanaxを摂っていたこともラップしています。アメリカで睡眠薬や精神安定剤を本来の効能以外の目的のために手を出す人は、ほんっっとうに多く、社会問題になっています。チャノ(アメリカでのニックネーム。呼びやすいので広めます)もその道は通ったわけです。娘が生まれ、父親になって神様の存在を改めて感じ、『Coloring Book』ができた、という流れ。   2 カニエとの関係。子供の頃はそれほど熱心なヒップホップ・ファンではなかったけれど、カニエのThrough The Wireを聞いて、天啓を受けてラッパーを志したそう。チャカ・カーンの同名曲を大胆に敷いた名曲で、私も2004年のベスト1に選んだ記憶が。いつ聴いてもかっこいいし、この曲がチャノの原点になっているのも納得です。 そのカニエですが、2作目『Acid Rap』後に起きたレーベル争奪戦に参戦、 彼のレーベルGOOD Music入りを勧めたそう。レコード会社による何度目の契約金競争が激しい時期で、ASAPロッキーが300万ドル(超ざっくりで3億円)もらったとか、よく話題になっていました。ここに乗らなかったあたり、チャノの強さがあります。カニエとは仲が良く、『Coloring Book』のオープニングAll We Gotはカニエから「手伝うよ」という電話があって実現したそう。美談。   3、4、5は基本的にぜーんぶ同じ話。チャノ太郎(勝手に拡げてみました)は、上院議員時代、オバマさんの元で働いていたお父さんのケンさんがいます。「お父さんのボス」だったオバマさんに会った際、将来はラッパーになりたい、と言ったところ、「ワード」と返ってきたとか。wordは、「なるほど/よく言った」といった意味で、ポジティヴな同意の時に使います。まぁ、スラングだけど。オバマさん、カッコいいです。   Summer Friendsで本人もラップしているように「俺の友達、みんなお父さんがいない」中で、人生の指針となる父親が、チャンス・ザ・ラッパーことチェンセラー・ベネットにはいます。父親がいなくても周りに頼りになる叔父さんや祖父がいることもあるし、お母さん一人できちんと育て上げるケースは多々あります。一括りするのは乱暴であるのを認めつつ、アメリカのヒップホップ・カルチャーを語るうえで、父親の不在の問題は大きいことは指摘したい。ジェイ・ZもJ.コールも50セントもそれをテーマにした曲があるし、彼らの生き方に多大な影響を与えています。   アートにしてもスポーツにしても、目指す師匠や先輩を見つけて目標にし、最終的に超えることで成長するストーリーが背景にあることが多いですよね。ヒップホップはこのサイクルが早いうえ、関係性が濃い。まぁ、この話は別の機会に深くするとして。   チャノみたいにレコード会社から契約の話が来たような大事な局面で、的確なアドバイスをしてくれるお父さんがいるのはとても珍しいし、ほかのラッパーにしてみれば、契約金の額よりもグラミー賞よりも羨ましい土台なのです。私は、彼の屈託なさ、25才とは思えない安定感もそこから来てるかな、と思っています。   弟のテイラー・ベネットも注目株のラッパーです。   6も有名な話。彼は音源に値段をつけず、フリーで売り出したため、グラミー賞の規定に外れてノミネートされない雲行きになった際に、ビルボード誌に掲載した意見広告がこれ。   「ヘイ、俺だっていいじゃん」   からの、なぞのウセイン・ボルト・ボーズ   ‥‥憎めないぃぃ。   これで、みんな「だよね、いいんじゃね?」、「ノミネートしちゃう?」からの、「ノミネートならいいよね?」で、見事に受賞(半分、想像)。   グラミー賞だってテレビ番組のひとつなので、彼みたいに直前に話題を作ってくれるアーティストは大歓迎なのです。   チャンス・ザ・ラッパーの魅力を端的にいうと、アーティストとして、人間として、頭とセンスがめちゃくちゃいいこと。   性格ははっきりしていて、相手が大巨匠の映画監督、スパイク・リーだろうが、ミックテープ時代(って、いまもある意味そうなのですが)に散々世話になった、シカゴの(元)ドン、R.ケリーだろうが、言いたいことがあったらハッキリ、ズバリ言います。   言動を見ると、わりとキツい人です。   でも、それを補ってあまりある愛嬌。   私は、個人的に顔がコミカル系でよかったな、って思っていて。これでイケメンだったり強面だったりしたら、共感指数がぐっと低くなった気がします。   彼がどんな人間か、育ちなのか。私はAngelのこのラインを聞いた時、ハッとして理解しました。   I ain’t change my number since the seventh grade   「中1から(携帯の)電話番号を変えていない」   中1から携帯を持っていたことがまずひとつ(珍しくはないけど、早いです)。00年代はアメリカも携帯会社の顧客争いがピークで、キャッシュバックとか半年だとかに惹かれてしょっちゅう番号を変える人がいました。途中で番号を持ち越すことができるようになったのですが、ほかならぬ私も「絶対に番号を変えたくない」という信念のもと、まぁまぁがんばって誘惑に打ち克ったほど。   だから、このラインで「あ、10代から頑固だったんだな」と。経済的に、精神的に安定していたんだな、と、合点が行きました。   7 私が強調するまでもなく、『Coloring Book』(塗り絵!)は大傑作です。この作品では、ラップと歌の割合が半々というのも新しかった。   ゴスペル・ラップ、というのはクワイヤー(聖歌隊)やゴスペル・アーティストの超大御所、カーク・フランクリンを投入している点ももちろん、全体に流れるテーマが「信仰」だから。Mixtapeみたいにヒップホップに対する思いや、Smoke Breakみたいにいっしょに緩もうぜーな曲もバランス良く入っていますが、全体の感触がゴスペルです。   彼が生まれ育ったシカゴは全米平均より黒人人口の割合が高く(4割近く)、教会の数も多い。カニエ・ウェストにしてもチャンス・ザ・ラッパーにしても、キリストの存在は「新発見」ではなく「原点回帰」のはず。   この二人のタッグ、実現してほしいです。... Read More

カニエ5作目:Teyana Taylor K.T.S.E

カニエ・ウエスト5連作の最後を飾るのは、R&B作品。テヤーナ・テイラー嬢のK.T.S.E(Keep The Same Energy/ティヤーナの方が発音近いですね)これがR&Bジャンキーには堪らない仕上がりで。1日3回服用中。一番好きなNever Would Have Made Itなんて、なんどくり返してもまぁったく飽きない。 ビヨンセ&ジェイ・ZのThe Carters、Everything is Loveより断然、こちらをよく聴いてます。レモネードは名盤、4:44も聴き込んだから、トリオロジーの締めがこれかー、って肩透かし。ベイチェラ(“ビーチェラ”じゃないよー。ビヨンセの短縮系はBeyで“ベイ”だからねー)で感動しすぎて、期待値が上がりすぎたかも(って、新作がこのタイミングで出るとは思っていませんでしたが)。まず、ジガさんの嫁自慢ヴァースがダサすぎる。ビヨンセがラップできるのはわかったけど「私のひひひひひ孫まで大金持ち」とかね、うん、知ってます。ボースティング(ほら吹き)はヒップホップの大切な要素だけど、それが事実ならただの嫌味だと思ってしまう私がひねくれているんでしょうか。夫婦漫才ならぬ夫婦ラップはDrunken in Loveがピークだったような。 一言。 ‥‥戻ってこーい、ジガさんーーーー(BK方面に向かって) by ジェイ・Z教信者。   あ、カニエ&テヤーナさんの話でした。   まず、テヤーナ・テイラーが誰か、から。カニエのGOOD Music所属で今回の連作一大プロジェクトに抜擢されたシンデレラ・ガール!!   ‥ではないです。27歳だけど、業界ヴェテラン。10代のときにMY Sweet 16というMTVのリアリティ番組でまず世に出て、それから音楽活動をしながらコリオグラファーをしたり、得意のダンスを生かしてダンス映画に出演したり、モデルをしたり。トリニダード系、ハーレム出身。すんっばらしいスタイルの持ち主(カニエのFADEのビデオ参照)。旦那はNBA選手のイマン・シャンパートで1児の母。ふつーに超超超勝ち組です、ハイ。   彼女のことは覚えていないけれど、MY Sweet 16という番組自体は覚えています。金持ちの娘が16歳の誕生日パーティーのためにわがままを言いまくって、大騒ぎする内容。ケーブルテレビ全体がリアリティTVに侵食されてから、アメリカ文化、およびアメリカ社会はおかしな方向に行った、というのが私の持論です。ちなみに、トランプ大統領が一般的な知名度を得たのだって、「お前はクビだっ」と暴れるリアリティTV。カニエとキムさんが仲良しだと知ったのも、Keeping Up Kardashiansで「お友達のカニエ・ウエストさん」という唐突なテロップとともに出てきた時でした。ちなみに、キムさんは前夫との結婚が終わっていないタイミング。まぁ、この話は別の機会に。   才能と美貌に恵まれたテヤーナさんは、「絶対有名になってやる」という決意とともに活動を続け、今回、実を結んだわけです。欲しいものは自分で手に入れるGo Getter (ゴーゲッター)タイプ。キムさんと同じなので、カニエさんが人間として好むタイプは一貫しているようです。   でもね。このアルバム、仮に、仮にね、「カニエ印」がなくても評判を取ったと思う。時間はかかったかもしれないけど。90年代、ヒップホップを吸収したR&Bが一番、元気だった時代のエッセンスを残しつつ、輪郭がくっきりと2018年という絶妙のバランスを実現した会心作。   では、サクッと曲紹介。その前に、カニエネタのブログ、たくさんの方に読んでもらえてうれしいです、ありがとうございます。それで、今回わかったことがあって。海外の著名メディアのレビューも、微妙に外すというか、「それちょっと違うんじゃ?」という箇所が必ず混ざっている。私自身を含めて、ライターひとりの見識ではカヴァーできないほど今回のプロジェクトは先を行っている、ということだと思います。   タイトル「K.T.S.E」はキープ・ザ・セイム・エナジーの略で、Yeでカニエがラップしていたヴァースです。   同じエネルギーをキープしろ=ブレるな。   了解です。   No Manners 韻を踏みながらは「(クラブ)コパカバーナに行って暴れるの。私、遠慮ないから」とラップに近い歌声でドスの効いた挨拶を入れています。テヤーナさん、アネさん系?   Gonna Love Me 大胆にデルフォニックスのFor The Love I Gave to Youを使った、一転して爽やかな曲。フォーク調の転調が入るあたり、インディア・アリーをちょっと思い出しました。インディアさんは来日してほしいアーティスト、トップ5に入ります。こういう抑え目の歌を聞かせるあたり、テヤーナさんも、かなりのヴォーカリスト。男女関係を続けていく難しさがテーマ。「自信をなくすようなことをしてしまったのなら、ごめんなさい」というラインがリアルです。旦那さんに宛てた曲かな?   Issues/Hold On ロマンティックなトラックにピコピコ音を持ってきてかなり変態なのに、歌そのものは正統派。Hold on hold on don’t let me go(私を離さないで)というフックの歌い方が最高。結婚式の二次会にかけるといいかも。   Hurry カリブ系としてのテヤーナさんの血がたぎっている傑作。これをシングルに持ってくるあたり、カニエ、完全に勝負に出ています。ふだん、レゲエやカリプソを聴いている人の耳にはスッと入るだろうし、それ以外の人は「よくわかんない」曲でしょう。アメリカのヒップホップ・メディアで低い採点をつけているところは多いけれど、私は最高だと思います。レゲエのリミックス出ないかなー。この曲だけ、カニエがラップで入っています。   3Way 「へぇ、カニエ組、こういう泣きのR&Bも作れるんだー」と驚いたら、ロドニー・ジャーキンズの名前が。納得。ブランディ&モニカ“The Boy is Mine”ほか、ここ20年の王道R&Bを作ってきた人です。ちなみに、ロドニーさん、めちゃめちゃいい人です。えー、“The Boy is Mine”みたいに女性2人と男性1人というシチュエーションですが、思いっきり下ネタ。3Pの曲。言葉がわからない方がいいタイプの曲。トーントトトーン♩で売れたシスコの歌い回しを投入していますね。絶対に結婚式でかけちゃいけない曲です。   Rose In Harlem 「ハーレム育ちだから」と、ハーレム道を説くハーコー曲。こそこそしない、ロイヤリティが大事、名指しで責めたりしない。テヤーナさん、気風がいいです。絶対、敵に回したくないタイプの女性です、ええ。   Never Would Have Made It 私のツボすぎて、この曲を聴けばマッサージもヨガも要らないと思うほど、全身がほぐれていきます。今年のベストソングかも、と思ったけど、まだ6月ですね。鳥の鳴き声からのいきなりの歌い出し、ピアノを伴奏にヴァースを歌って、いっきにゴスペルのクワイヤーを投入。ゴスペル・シンガー、マーヴィン・サップの同名曲を敷いて神様と大事な人への愛と感謝を歌っています。最後に幼いお嬢さんの声でしめる。チーム・カニエ、丁寧な仕事ぶり。今回のプロジェクトは奇襲をかけた形になっているけど、このアルバムに関しては手間暇かけている印象です。すごい完成度。これは、結婚式でかけたらとても素敵だと思います。 WTP Work this pussyって。挑発的な締めです。ナレーションを務めるのは兼ドラーグ・クィーンという異色のラッパー、ミッキ・ブランコ(彼のWavvyのヴィデオは必見)。Totalの曲を思い出すイントロから(どれか出てこないから、わかる人は教えてください)、レゲエっぽい節回しとハウス調のトラックを合わせて新鮮です。アウトロは、ハーレムでヴォーギングをするセクシャル・マイノリティーを描いたドキュメンタリー「パリは眠らない(Paris is Burning)」から引っ張っています。最後までハーレムにこだわるテヤーナさん、「誰もが知っているくらい有名になりたいの」という本音でまとめています。   あー、これで連作のすべてが終わってしまいました。毎週末、楽しみだったなー   NasのNasirは大切すぎて、またゆっくり書きます。一つだけ。「カニエのおかげでNasが復活」という捉え方も多いようですが、違いますよー。Nasはずーっと第一線。90年代のクラシックしか知られていない大御所が多い中、00年代のアルバムからもたくさんヒットあるし、2010年のダミアン・マーリーとDistant Relativesも2012年のLife is Goodも名作、ヒットも出しています。Distant Relativesはライナーを書いたけど、もう国内盤はないのかな。   話が逸れた。最後にテヤーナさんのゴシップをひとつ。彼女、出産後に減胸手術を受けています。胸が大きくなりすぎて生活に支障を来たすので、サイズダウンする人って、けっこういるんです。フィメイル・ラッパーとして先陣を切ったあと、女優に転身したクィーン・ラティーファもそう。   テヤーナさんが主演した映画のトレイラーを見つけたので貼っておきますね。今年、DVDでリリースされた映画ですが、撮影はずっと前のような気がします。もう一人の主演がテレビドラマ、エンパイアのハキームなので、お蔵入りになりそうだったのを引っ張りだしてきたような。   テヤーナさん、ダンスすごーい。観たいです。 テヤーナさんの映像、画像を見ると、腹筋をがんばりたくなります。割れてるなんてもんじゃない。... Read More

Kid Cudiって知ってる? –Kids See Ghosts

Kids See Ghosts おばけが見える子どもたち=カニエ・ウエスト&キッド・カディ
村上隆さんとカニエ、再コラボのジャケット。最高です。
  Yeの全曲解説とは趣を変え、私がひたすらキッド・カディをほめそやすブログです。アルバムのことも書くけれども、大枠は

キッド・カディが大好きだーーーーーーっ

  という気持ちを、積極的に発露していこうかと。   カニエさんの知名度というか、お騒がせ度がずば抜けて高いため、影に隠れていていますが、キッド・カディも大した才能の持ち主です。09年、デビュー直前にインタビューしたとき、   「ヒップホップのアルバムを3枚だけ出して、あとは俳優に専念する」   と言い放ち、私は私で「何を言ってるのかな、このガキンチョは」と思いつつ、まぁ、そのチャーミングさにもだいぶやられてしまい。ちなみに、今作は7枚目です。続けてくれて良かった。   カニエのG.O.O.D. Musicから『Man on the Moon: The End of Day』でデビュー。抽象的なリリックと歌うようなメロウなラップで、スヌープやウィズ・カリファとは一味ちがう、ストーナー系ヒップホップで出てきた人です。2作目までその路線を続けて、まだそのイメージが残っていますが、本人はしばらく前にマリファナはやめたそう。   マチズモを強調しない、内省的なライムが特徴。カニエの『808s Heartbreak』に客演とソングライティングで大きく貢献しています。このアルバムではHeartlessとRoboCopがとくに好きだったのですが、どちらもカディ君もペンを取っているし、メロディーを作ったのも彼かな、と思っています。   ドレイクとほぼ同期。彼とともに、「俺って、俺って」なグズグズラップが受け入れられ、拡まる土台を作った気がします。実際、Pursuit  of Happinessのヴィデオはドレイクが全面的にカメオ出演しているし。それ以前も感情を語るラップはあったのですが、この二人、基本的にずっとその話。恋愛や物欲を絡めながらも、伝えたいのは、孤独な気持ち、理解されない俺。そう、だれもが持っている感情です。2010年代のヒップホップって、クラブやコンサート会場で一斉に「お前らなんか友達じゃねー」って歌うのが「主流」です。横並びの孤独。一緒に歌っているから仲間、ではないし、ステージから語りかけられるのをありがたく拝聴するのもウザい。とってもSNS的だと感じます。   音楽的には、Born Thugs-N-Harmonyの影響を語っているように、カディは歌うようにラップするスタイルが特徴。この流れは、髪を派手な色に染めたLIL 系が多い、日本でいうところのエモ系(すみません、ざっくりで)に、ゆるくつながっています。カニエが、XXXテンタシオンの死に際し、「直接言えなかったけど、インスパイアーされたよ」とつぶやいたのは、本心だと思います。XXXを聴いていると、私は肘から先がゾワゾワしてさすってしまう。リリックとその間にある感情が剥き出しすぎて、目の前で泣かれているようで辛かった。彼は、本物の表現者でした。キッド・カディはダークですが、比喩やユーモアに長けているので、救いがあるし聴きやすい。そういう意味では、オーソドックスなヒップホップ・アーティストです。   それから、カディはとってもおしゃれ。クリーブランドからニューヨークに出てきたとき、SOHOのBAPEの店員をしていたのは有名な話です。デザイナーの名前ではなく、オープニング・セレモニーなどセレクト・ショップの店名を出すあたりも新しかった。腰から下が細い、ロッカーみたいな体型の持ち主。黒人は筋肉で服を着こなす人が多いですが、カディさんは骨格で服を着る印象があります。   いつだって半歩先を歩いて、結果、功績が見えづらい人です。   俳優としても、演技力抜群。映画はまだ作品に恵まれていないようですが、テレビドラマではHow To Make It Americaというカルト作品が秀逸で、主役を喰う存在感でした。ちなみに、俳優業はScott Mescudi(スコット・メスカディ)の本名でクレジットされていることが多い。   そろそろ、Kids See Ghostsの話を。カディはカニエに見出されたというより、A&Rの人がカディをデビューさせる際に紹介して、いい距離感を保ってきたふたりが、ここまでがっつり組んだのは初めて。   前回のブログで「舎弟感」と書きましたが、弟分であり、アイディアを喚起するミューズのような存在なのでは? 男性ですけど。誰よりも早く、公然と「がっかりした」と文句をいう形でカニエを心配し、そこから仲直りをして、この作品ができた、という流れ。   もうひとつ、ふたりに重要な共通点があります。キッド・カディは2016年に自殺願望が強いうつ病で、自分からリハビリテーション・センターに入ったことを発表しています。先日のケイト・スペードさんの自殺もそうですが、世間的に成功してすべてを持っているように見えても、本人は生きづらく感じているケースはあるんですね。カディは、その後、積極的に精神疾患に関する理解を促す活動をしています。   Yeで「(躁鬱病は)スーパーパワーだ」と叫んだカニエだって、開き直っているわけじゃないんですよ。アートワークに書かれた言葉が“I don’ like being bi-polar”でも、“It’s hard being bi-polarでもなく、“I HATE being bi-polar”だったんですから。「ヘイト」はとても強い言葉で、たとえば、“I hate BBQ”(BBQは大嫌い)”と言ってしまったら、「もう絶対に誘わないでくれよ」くらいの意味になります。有名人であるキッド・カディとカニエ・ウエストだって、精神疾患を公表することで今後、ある種の烙印がついて回る覚悟はあったはず。メロウに響くアルバムですが、Ye同様、根底に流れるものはヘヴィです。   Freeee(解放) や Reborn(再生)などの曲のテーマ、そしてふたりに見えているお化けは、自分が抱える闇。それを受け入れつつ、救いを神(キリスト教)に見出したと、どの曲でも言っています。ヒップホップのオールドスクール・アーティストにはイスラム教に傾倒する人もいたのですが、やはりアメリカ人の大多数はクリスチャンだし共感されやすい。This Is America で話題になったチャイルディッシュ・ガンビーノにいたっては、エホバの証人を信仰する家庭で育っています(宗教に詳しい人が、その観点も踏まえてあのヴィデオを分析したら、また面白いでしょうね)。   話があっちこっち行ってますね。私のカディへの愛情、集中力がないようです。目立ったリリックを訳出しようと試みたのですが、過去と現在、弱気と強気の間で行ったり来たりして、前後を落とすと誤解を招きそうなのでやめます。言葉数も少ないし、とてもシンプルなのでリリックに興味がある人は読んでみたらいいと思います。   マーカス・ガーヴェイ(黒人解放運動の指導者)とルイス・プリマ(ジャズ・ミュージシャン)をサンプリング。ゲスト参加は、今回のカニエ組以外では、ヤシーン・ベイ、ミスター・ハドソン、アンソニー・ハミルトンと考え抜いた布陣。そしてまさかのアンドレ3000がFIREにクレジットされています(ラップはしていません)。   アンドレのカニエ・プロデュースの曲、聴きたいですねぇ。   キッド・カディに関して、過去のブログにちょこちょこ書いています(日記の間に出てくる感じ)。お時間があったら、覗いてみてください。一番、力を入れたErase Meの解説はなぜか消えているんですけど。   お化けの仕業かな。  ... Read More

Ye 全曲解説。

『DAYTONA』と『Testing』で諸手を上げて、嬉しさのあまり、そのまま左右に振ってしまうようなヒップホップ・ウィークを過ごしたあと、カニエ・ウエストからド級ストライクな『Ye』が届きました。両手を上げて油断していたから、お腹のあたりでまともに受け止めちゃった。痛いってば。カニエ、まっすぐすぎる。 『DAYTONA』が出たところで、本題に入る前にプッシャ・Tとドレイクの件。ビーフの戦法が姑息だからプッシャ君に腹を立てたけど、それと作品は別。アルバムは好きでよく聴いています。大体、アルバム・リリース前後のビーフとか、ただの炎上商法でしょう。いちいち反応したくないんだけど、ドレイクと近いプロデューサー、Noah40が患っている多発性硬化症をディスソング「The Story of Adidon」で挙げているから。北米ではよく聞く病気で、「MS」だけで通じるほど。闘病している人、周りの人の気持ちを考えたら、これはアウトだと思う。全米多発性硬化症協会がプッシャ君に正式に抗議したから、反省してくれますように。ハイ、この話はおわり。 って、昨日ここまで書いたら、今朝になってニューヨークのフェス、ガバナーズ・ボウルでプッシャのパフォーム中に観客がリリックと関係なく「fxxk ドレイク」とチャントし始めて、プッシャが堪りかねて止める映像が回ってきました。ドレイクって定期的に笑いものにされるから、今回もその延長だとは思うけど、「叩いていい」という流れになると一斉に叩く傾向って世界共通なんですね。いやな世の中です。そこまでファンじゃないけど、今回ばかりはドレイクと一緒に嗤われた方がましだな。   さて、『Ye』。最初に聴くとき、新しいアルバムを聴く楽しみより、「大丈夫かな? またヤバいこと言ってないかな?」と不安が先にきたのは私だけではないのでは。いま、私たちはカニエを失うわけにはいかない。戯言は全部忘れるから、また超絶かっこいいヒップホップを聴かせてほしい。私を含む勝手な消費者、ヒップホップ・ファンの本音はそこでしょう。 そして、蟹江西大先生、ちゃんとわかっていました。 アートワークの文字。   I hate being Bi-Polar, it’s awesome(躁鬱でいるのは辛く、最高だ)   ‥‥‥‥最高なら、いいか! (ムリしてます)   安定の超絶トラックに、いつも通り(精神的に)不安定なカニエ節を載せていて、たしかに最高です。ところどころ出てくる不穏な言葉さえ、エンターテイメントとして昇華していて、天才すぎます。   解説しますね。   1.I Thought About Killing You 1曲目は、スポークン・ワードとモノローグの中間みたいな曲です。 “Today I seriously thought about killing you/I contemplated, premeditated murder/And I think about killing myself, and I love myself way more than I love you, so「今日本気でお前を殺すことを考えたんだ/よくよく考えた 謀殺について/それから自殺も/でも お前を愛する以上に自分が大事だから」 いきなり自殺願望があったことを告白。このヘヴィーさが、アルバム全体の底に流れています。「お前」が誰を指すのか。世間なのか。味方になってくれなかった仲間たちか。それとも、その「お前」も彼自身なのか。 私は、自分との対話だと思いました。後半はメロディアスで酔っているようなラップに展開。 How you gon’ hate? Nigga, we go way back to when I had the braids and you had the wave cap” 「なんで嫌うんだよ/ニガ 古い付き合いなのに 俺がまだブレイズをしていておまえはウェイヴ・キャップを被っていた」 うーん、またジガさんことジェイ・Zのことかなぁ、って深読みしたら歌詞サイトのジニアス(本稿の英語詞はここから引っ張ってます)も同じこと書いてました。みんな気づくんですね。ウェイヴ・キャップってドゥーラグのことか。シカゴあたりはウェイヴ・キャップって呼ぶのかな? 短くても絡まりやすい縮れ毛を、枕との摩擦から守るために被るもの。黒人女性はスカーフやナイトキャップを被りますね。 「自分を愛せないからおかしくなったんじゃない、俺は自分が大好きだから それは当たらない」とも。うん、知ってた。彼ほど自己愛が強い人は珍しいと思います。 最後の「お前らカニエの話ばかりじゃないか」は事実ですね。その通り。   2.Yikes 00年代後半のカニエを思い出す、ちょっと懐かしいタイプのトラックです。「ヤイクス」は「オェッ」とか「ゲッ」とかネガティヴな反応をするときに出る言葉。カニエの「オェッ」案件を並べているのかと思ったら「自分自身が怖い」というコーラスから始まって、とにかくショッキングな内容を畳み掛けています。 「北朝鮮に行ってもいいし、ウィズ・カリファと一緒に吸ってもいいし」。カリファは元カノ、アンバー・ローズを巡って喧嘩した間柄。ウィズ・カリファの方がずっとクールに対応していた記憶がありますが、もう別れちゃったし、いまは仲良しなのかな。 「俺が何人に胸を買ってやったか知ってるか?」とも。いいえ、知りません、興味もありません。「尻も入れたら50ポップずつ」って。「ポップ」を単位に使うのは初めて聞きました。50グランの言い換えが妥当だとしたら550万円ずつですね。いや55万くらいで豊胸も豊尻もできる世の中なのかな。詳しい人、教えてください。そうそう、奥さんのキムさんは美しさを保つために、人件費を入れて美容代を1カ月に5万ドル(550万円)使う、という記事が少し前、Elleに出てました。桁が違います。 米英のメディアがよく取り上げているラインが、 “Russell Simmons wanna pray for me too/I’ma pray for him ’cause he got #MeToo’d” 「ラッセル・シモンズが俺のためにも祈ってくれるって/#MeTooでやられているから俺も祈っていてあげよう」 デフ・ジャム創始者のラッセル・シモンズが昨今のセクハラ糾弾ムーヴメント、MeTooで槍玉に上がっているのを受け、「人のこと心配している場合じゃないだろ」と。正論ですね。続く「俺もやられちゃうかな/そうしたらE!ニュースに出るね」というのが、カニエらしい茶化し方だなぁ、と。この人、なんでも茶化すし、揚げ足を取る。まじめに反論したらバカを見るけど、無視したら無視したでいじけるのでめんどうです。アウトロがそれを証明します。 “You see? You see? 
That’s what I’m talkin’ ‘bout
  That’s why I fuck with Ye 
That’s my third person
That’s my bipolar shit, nigga what?
 That’s my superpower, nigga ain’t no disability
I’m a superhero! I’m a superhero!” ほらね? ほらね? こういうことなんだよ。だから俺はイェと付き合っているんだ。3人目の人格。躁鬱ってこういうことなんだ。これが俺のスーパーパワー/障害とかじゃないんだ 俺はスーパーヒーローなんだ! スーパーヒーローなんだ! ウギャーーーー」 最後の「ウギャーーーー」はイケシロ追加訳。そう聞こえるから。   3.All Mine タイ・ダラー・サインとカニエのGOODミュージックにいるヴァリーを迎え、女性というか、性愛をテーマにした曲です。タイ君のヴァースが飛び抜けて下品ですが、カニエも面白い。 “If I pull up with a Kerry Washington
That’s gon’ be an enormous scandal, I could have Naomi Campbell
And still might want me a Stormy Daniels「ケリー・ワシントンと撮られたら大スキャンダルだよな/ナオミ・キャンベルとだってつき合えるしストーミー・ダニエルズだってイケるかも」 ケリー・ワシントンは人気の黒人女優、ナオミさんは説明不要のスーパーモデルでカニエとも仲良しのはず。そして、ストーミー・ダニエルズは現在、トランプ大統領の足を引っ張るポルノ女優さんです。ストーミーさんは06年にトランプさんと関係を持ち、大統領選前に口止め料をもらったものの身の危険を感じたとかで、メディアに出てきました。口止め料の出所が選挙資金だった可能性があるため、大騒ぎになっています。 彼女の名前をカジュアルに出してしまうあたり、カニエ、全然トランプさんの味方になっていません。このアルバムのあちこちで「発言を撤回しない」「言いたいことは言う」という強気の姿勢を見せるものの、このライン一つで暗に「そこまでトランプさんを支持していないよ」と伝えていて、なかなかの策士。 ところで、ケリーさんは41歳、ナオミさんは48歳、ストーミーさんは37歳。カニエ、同年代以上の女性が好きなのかな。そういえば、しばらく執心していたロカフェラの元ボス、デーモン・ダッシュの従姉妹でもある女優、ステーシー・ダッシュ(映画『クルーレス』が有名です)がケリーさんと同じ系統の顔ですね。ステーシーさんはみんながオバマさんに心酔していた08年に共和党支持を表明して物議をかもしたので、カニエの先輩だな、と思い出しました。いまでも崇拝していたりして。 それから、この曲には義妹、クロエの子供の父親であるNBA選手のトリスタン・トンプソンが妊娠中に浮気をしたゴシップを受け、口撃するラインがあります。カダーシアン家のこととなると、まぁまぁマスオさん状態になるカニエ・ウエスト、嫌いじゃないです。   4.Wouldn’t Leave パーティー・ネクスト・ドアーと、お久しぶり!のジェレマイ、タイ・ダラー・サインをゲストに、妻のキムさんへの愛を歌っています。 「奴隷制は選択だった」発言の際、息ができないほどパニックになったキムさんに怒られたこと。カニエは「出て行ってもいいよ」と言ったこと。でも、キムさんがそばから離れないとわかっていたこと。 アウトロで、 「奥さんや彼女に恥をかかせるようなことを言ったりやったりしてもいいんだ/そのエネルギーを失うな/それで彼女の忠誠心が試せるから」 という、独自の超上から目線の結婚観を披露。キツい。キムさん、えらいですね。もう、それしか言えない。あ、とてもいい曲です。   5.No Mistakes カニエが大好きなスリック・リックの声から始まるこの曲、スリックさんの“Hey Young World”を敷いています。ケリ・ヒルソンの大ヒット“Knock You Down”で「I’m the new Slick Rick(俺が新しいスリック・リック)」と宣言して、「いや、違う」と方々(とくに私)から突っ込まれたカニエさん、ずっとスリックさん好きなのですね。 キッド・カディとギャップ・バンドのチャーリー・ウィルソン叔父がコーラスを歌い、「それでもみんなのこと愛しているよ!」というメッセージと「自分より成功してない奴のアドバイスは聞かない」という「ごもっとも」な開き直りが共存する、カニエ節全開チューン。 私は、「Oh, I got dirt on my name, I got white on my beard/名前に泥がついちまった/ヒゲに白髪が混じってきた」という、なにげないラインが詩的でとてもいいな、と思いました。40代突入ですものね、蟹江さんも。 あ。白髪は「グレイヘア」の方がふつうか。文面通り「白いものがついている」かもしれません。だとしたら、いやだなぁ。   6.Ghost Town モゴモゴとジョン・レジェンドがイントロを歌い、キッド・カディが「愛されたかっただけなのに/頑張るほど君は離れて行く」とパンチラインを歌う、友情に溢れた曲です。ジョンがカニエやカディのオフビートな歌声に合わせて、いつもの美声を響かせないのも、キッドが蟹江の本音を代わりに熱唱してハンパない舎弟感を醸し出しているのも、すべて友情の賜物。カニエは本作のテーマは「愛」と騒動の途中から言っていましたが、個人的にこの曲に一番の愛を感じました。 後半を担当する070 ShakeはGOOD Music所属のフィメイル・ラッパー。好きなタイプの声だわー。もっと聴きたい。 私は、カニエの新作よりキッド・カディの新作が楽しみという、日本にもう一人いるかいないかの変わり者なので、この曲を一番よく聴いています。カディ愛はまた別の機会に書きますね。長くなるから。
写真がないので、ヴィンテージのGOOD MUSIC Tシャツをさりげなく自慢。隣はビヨンセのペプシTシャツ。アメリカで売ったら高いだろうけど、絶対売らないの。
  7.Violent Crime 「暴力的な犯罪」というタイトルなのに、ちゃんと聞くと娘二人(主に長女のノースちゃん)への愛をテーマにしている曲。デジ・ローフちゃんが、キュートなコーラスで「あまり早く成長しないでね」と歌い、カニエは「ニガーは残忍/ニガーはモンスター/ニガーはピンプでニガーは遊び人/自分の娘を持つまでは」という秀逸なラインを書いています。娘が彼氏を連れてきたら「ぶっ叩く」と言っちゃってるし、カニエ、ここではふつうのお父さんです。 ただ、「ニッキ(・ミナージュ)みたいになってほしい」は凡人には解釈が難しい。最後に出てくるニッキ本人が「わかった、彼女をモンスターにしてあげる」と約束しています。   ノースちゃんの将来、モンスターに決定。   以上、簡単に解説してみました。   プロデュースは、全曲カニエ。GOOD ミュージック所属のベテラン、マイク・ディーン、話題の新人、フランシス&ザ・ライツ、そしてエド・シーランやジャスティン・ビーバーと仕事をしているトップ中のトップ、ベニー・ブランコが助っ人に入っています。 この人選を見ても、『Ye』は、衝動的に作ったようで、完全に勝ちを取りに行っているアルバム。双極性障害を含め、「このままの俺を受け止めてくれ」と全身全霊、全曲全ラインでカニエ・ウエストが訴えています。 そんなに訴えてこなくても、みんな、カニエ・ウエストが大好きなのにね。なんでわからないかな。   We DO love Kanye, don’t we?   おかえりなさい、カニエ& Ye。  ... Read More

ASAPファーグ&ティファニーのすてきな企て

日曜日にMacBookのデスクトップの整理をしたらー。書きかけのブログが11もあったぜ! その中から比較的、新しくて前向きな話を。 私はチキン派なので(ダブルミーニング)、ビーフとか食傷気味です。 まずは、こちらをご覧いただきましょう。 ティファニーの新しいキャンペーンにASAP ファーグと女優のエル・ファニングが起用されて、不朽の名曲「ムーン・リヴァー」をカヴァー&リミックス。 「ムーン・リヴァー」は言わずもがな、1961年の映画「ティファニーで朝食を」で、オードリー・ヘップバーン扮するホーリーが歌った曲。映画のテーマソングとしてオスカーを獲得しただけでなく、翌年のグラミー賞のレコード・オブ・ジ・イヤーとソング・オブ・ジ・イヤーをダブル受賞。56年(!)の間に何百回とカヴァーされています。今年に入って、フランク・オーシャンもカヴァーしていますね。曲の雰囲気と儚げな彼の歌声がマッチしてすてきです。 エルちゃんも負けてない。オードリーと同じ、女優さんらしい表現力でグッときます。このヴィデオの冒頭も、イエロー・キャブが映った後でティアラをつけたヒロインが登場、手にコーヒーを持っているあたりが、映画へのオマージュになっています。さすがに、ジバンシィのリトル・ブラックドレスは着ていませんが。ヘップバーンの代表作のひとつに「ファニー・フェイス」(邦題「パリの恋人」)がありますが、彼女は正統派美人で、エルちゃんこそファニー・フェイス系。表情がころころ変わって愛くるしい。 これ、ティファニーの新しいデザイナー、リード・クラッコフの新しいシリーズ「ペーパー・フラワーズ」シリーズのキャンペーンCM。エル・ファニングがひらひらと見せびらかしているのが、それです。 NYタイムズの記事によると、ASAPファミリーから一番有名なロッキーではなく、ファーグに白羽の矢が立った理由がすてき。「ハーレム出身でティファニーの本店があるニューヨークのイメージに合うこと、そしてお父さんが服飾関係の仕事をしていたこと」だそうで。 つまり、ティファニー側は、ハーレムのファッション文化に敬意を表したんですね。ティファニー本店がある5番街の真ん中から、ハーレムの目抜き通り125丁目まで地下鉄の快速に乗れば10分くらい。でも、その間にはなかなか越せないふかーい溝があります。
ファーグさんもパリッとしてます、彼女さん?奥さんがすっごい美人ですね。
ファーグも「ミッドタウンの高校に通っていたから、毎日のようにティファニーの前を通っていたけど、別世界だと思っていたから足を踏み入れたことはなかった」、とコメント。お披露目パーティーにはナオミ・キャンベルやゼンデイヤのほか、ダッパー・ダンも顔を見せたそう(彼に関しては、友人のエドウィン・スタッツのQの記事がめでたく訳されたのでリンクを貼りました。エドはかなりのレゲエ・ヘッドです、ちなみに)。 ティファニーといえば、最近、ちょっとおもしろいことがありました。叔母から生前形見分け? という理由でもらったエメラルドとダイヤのブレスレット、金具が古いタイプだったため外し方がわからず、ネットで調べたら、なーんとティファニー!!! のコピー商品だったんです。いやー、笑った。ティファニーのコピーとか、めっちゃヒップホップ。石は本物だし、ガンガンつけようと思います。気が向いたら、そのうち写真をアップしましょう。 ところで。ASAPロッキーの新作「Testing」、本人&ヒップホップ全体の新境地に到達していて素晴らしい。いまも聞きながら、これを書いてます。ロキ太郎への愛もそのうち、記したいと思います。たぶん。... Read More

Ye VS the People、訳しました。結論。I♡T.I.

2018年、4月最終週は怒涛のリリース・ラッシュ&ニュース・ラッシュでした。ジャネール・モネイ、アンドロイドから生身に戻ってからの、カミングアウト/NAS元嫁ケリースからDV疑惑/J・コールの鋭すぎるラップ。チャートの頂点取りつつ、敵が増えること確実/もろフランク・オーシャンな曲を含め、小袋成彬という奇跡。そして、またしてもカニエ・ウエスト大暴れon line。 スーパー仕事モードで、われながら気の毒なGWを過ごしている私を爆笑させてくれた『Ye VS The People 』訳してみますね。緊急リリースされただけあり、フリースタイルの応酬に聞こえます。 まず、基本情報。 過日、お騒がせ天才ラッパー、カニエ・ウエストが“MAKE AMERICA GREAT AGAIN”というトランプ大統領のスローガンが入った、通称MEGAキャップを被ってSNSに登場。四方八方から飛んでくる矢をはね除けるように弁護ツイートを連打して、事態はさらに大ごとに。Hot 97のプログラム・ディレクターのEbroと言い合いになるわ、チャンス・ザ・ラッパー、ジョン・レジェンド、カーディー・Bは巻き込み事故に遭うわ。正直、いくらなんでも騒ぎすぎ、と思いました。だって、これってカニエがカニエらしくしているだけの話じゃない。まぁ、トランプさん本人も応えちゃったからね(大統領、もうちょっと重要任務があるでしょうに)。海外の新聞や大手サイトもかなりの字数を費やして分析しているので、僭越ながら私の頭によぎった、いくつかの憶測を。 1. キムエ夫妻お得意の炎上商法が、効果が出すぎたケース。狙いは6月新作への話題作り 2. 2009年に酔っ払ってテイラー・スウィフトのVMAの受賞スピーチを乱入&邪魔をした翌日、記者に「カニエ・ウエストの振る舞いをどう思いますか?」と聞かれたオバマ元大統領が「He is a jackass(奴はクズだ)」と瞬殺したことをまだ根に持っている。そして、同じくオバマ・コンプレックスが強いトランプさんに共感している。まぁ、カニエとオバマさんは、仲直りしていますが。「自分も大統領になりたい」と直訴したカニエに対して、オバマ先輩は「アメリカは変わった名前の黒人男性をふたりも大統領にするほど進んでないんじゃないか」という、ウィットに富んだ返答をしています 3.  虚言癖があり、派手で目立つことが大好き、メディアは大嫌い、と共通点が多そうなトランプさんがどうしても嫌いになれない 4.単に、酔っ払っていたかハイになっていた この写真を見た時、私が「これ、ただの趣味の悪いシャレでしょ」と思ったのは、笑顔で隣に写っている白人男性がリオ・コーエン(Lyor Cohen)だったから。盟友ケヴィン・ライルスと一緒に、デフ・ジャム〜ワーナーを渡り歩き、いまは300エンターテイメントを回し、16年からYouTubeの音楽部門のトップも兼任。ジェイ・Zあたりも頭が上がらない超大物です。デフ・ジャム時代のオフィスに奈良美智の絵が飾られていたのは有名。ユダヤ系アメリカ人としてヒップホップ・カルチャーにものすごーく貢献した人で、つまり、トランプさんの支持者層に多い白人至上主義の正反対の位置にいます。その人が本気にしなかったのだから、シャレなのかな、と。コーエンさんもこんなに騒ぎになると思ってなかったみたいで、「カニエは絶対にサポートするアーティストだけど、帽子が意味することと私は無関係」とEbroに電話したそう。 さて。サクッと訳しましょうか。   KW :I know Obama was Heaven-sent But ever since Trump won, it proved that I could be President オバマは神様の使いだったのはわかってる でもトランプが勝ったのは 俺だって大統領になれるってことなんだ T.I.Yeah you can, at what cost though?  Don’t that go against the teachings that Ye taught for? そうだ なれるかもね でも何のために? それっていままでのカニエ学の真逆に行ってない? KWYo T.I.P., I hear your side and everybody talk though  But ain’t goin’ against the grain everything I fought for? ああ TIP そっち側の意見は聞いたよ でも それってむしろ俺が闘って得たことに反するんだ T.I. :Prolly so, Ye, but where you tryna go with this? It’s some shit you just don’t align with and don’t go against そうなのかもしれないけど カニエ お前どこに向かってるんだ? (政治って)簡単に迎合したり反対したりするものでもないだろうよ KWYou just readin’ the headlines, you don’t see the fine print  You on some choosin’-side shit, I’m on some unified shit 見出ししか読んでないからだよ 細部まで見ていない お前はどっち側につくかの話をしている 俺は統一する話をしている T.I.  It’s bigger than your selfish agenda If your election ain’t gon’ stop police from murderin’ niggas おまえの個人的な目標なんかよりデカイ話なんだよ お前が選挙に勝ったって警官は黒人殺しをやめないだろうし KW  Bruh, I never ever stopped fightin’ for the people  Actually wearin’ the hat’ll show people that we equal 兄弟 俺は人々のために闘い続けてるよ 事実 あの帽子を被るのは俺らが対等ってことを示すためだ T.I.  You gotta see the vantage point of the people What makes you feel equal makes them feel evil 大半の人にそうは見えてないって気づけよ お前が対等だと思ってしていることで みんな嫌な思いをしている KW : See that’s the problem with this damn nation  All Blacks gotta be Democrats, man, we ain’t made it off the plantation それがこのダメな国の問題なんだ 黒人全員が民主党支持者とかって 奴隷時代から変わってないじゃないか T.I.  Fuck what you choose as your political party  You representin’ dudes who seem crude and cold-hearted  With blatant disregard for the people who put you in position  Don’t you feel an obligation to them? 支持政党の話はどうでもいい お前が支持を表明した男は 粗野で冷血 お前をいまのポジションに押し上げてくれた人たちを露骨に無視している そういう人たちに責任を感じないのかよ? KW:I feel an obligation to show people new ideas And if you wanna hear ’em, here go two right here Make America Great Again had a negative perception I took it, wore it, rocked it, gave it a new direction Added empathy, care and love and affection And y’all simply questionin’ my methods 俺は新しいアイディアを示す方に責任を感じてる それを聞きたいなら いまここでふたつ示してやる 「アメリカを再び偉大に」はネガティヴに捉えられている 俺は受け入れて 身につけて ばっちりキメて 新しい方向性を与えた 共感と思いやり 愛と優しさを加えたんだ それなのにお前ら全員 俺のやり方だけにケチをつける T.I. What you willin’ to lose for the point to be proved?  This shit is stubborn, selfish, bullheaded, even for you  You wore a dusty ass hat to represent the same views  As white supremacy, man, we expect better from you  All them times you sounded crazy, we defended you, homie  Not just to be let down when we depend on you, homie  That’s why it’s important to know what direction you’re goin’ now  ‘Cause everything that you built can be destroyed and torn down  それを証明するために お前が何を失うかわかってる? 今回のことはいくらお前でも 強情だしわがままだし無茶苦茶だ お前が被ったあの埃っぽい帽子が示している見解は 白人至上主義者のものだぞ みんなお前にはガッカリだ お前がトチ狂ったことを言ったときも俺ら味方になったじゃないか ホーミー こういうときに頼りになるどころかガッカリさせられるなんて ホーミー だから お前がどこに向かっているかを知るのは大事なんだ これでお前が築いてきたものすべて 粉々に破壊されるかもしれないから KW:You think I ain’t concerned about how I affect the past? I mean, that hat stayed in my closet about a year and a half Then one day I was like, “Fuck it, I’ma do me” I was in the sunken place and then I found the new me Not worried ’bout some image that I gotta keep up Lot of people agree with me, but they’re too scared to speak up 俺が自分の功績を気にしていないとでも思ってる? あの帽子は1年半くらいクローゼットにしまっていた それである日 「構わねぇ 俺は俺らしくする」って思い立った 俺はひどく沈んだ場所にいて 新しい自分を見つけたんだ もういままでの自分のイメージなんて気にしない 俺と同意見の人は多いと思うよ 怖くて言えないだけで T.I.:The greater good of the people is first Have you considered all the damage and the people you hurt? You had a bad idea, and you’re makin’ it worse Shit’s just as bad as Catholic preachers rapin’ in church 人々ファーストが大義ってか マジでどれくらいダメージがあるか みんなが傷つくか考えてるのかよ お前はまずいアイディアを思いついて それを悪化させている 教会でレイプするカトリック神父並みだ KW :Y’all been leadin’ with hate, see I just approach it different Like a gang truce, the first Blood to shake the Crip’s hand  I know everybody emotional Is it better if I rap about crack? Huh? ‘Cause it’s cultural? Or how about I’ma shoot you, or fuck your bitch? Or how about all this Gucci, ’cause I’m fuckin’ rich ほら お前らは憎しみに導かれている 俺のアプローチは違う ギャングの停戦みたいに 最初にクリップスと握手したブラッズのメンバーみたいに みんな感情的になっているのはわかっている 俺がクラックのことをラップした方がいいのか? ハァ? その方がカルチュラルだって? それとも「お前を撃ってやる」とか「お前の女をヤッてやる」とか? それとも「このグッチ全部みろよ だって俺は金持ちだから」とか?  T.I.:You’ll deal with God for the lack of respect Startin’ to make it seem like Donnie cut you a check  Now you toyin’ with hot lava, better be careful with that What’s it mean to gain the world if you ain’t standin’ for shit? Okay I gotta say it, Ye, you sound high as a bitch Yeah, genocide and slavery, we should just try and forget All that free thought shit, find a better defense But if Ye’s just stuck in his way, he can leave it at that Fuck it お前 リスペクトがなさすぎて天罰下るぞ もうドナルドから小切手もらってるように見えてきた お前は燃え盛る溶岩で遊んでいるんだ 気をつけな 自分が何を代表しているか見失ったら天下を取っても意味ないだろ わかった ずばり言う カニエ お前はラリっているようにしか聞こえない 民族浄化に奴隷制度 俺たちが水に流せばいいんだろ 信条の自由だと もっとマシな言い訳考えろ もし カニエの主張を変えないんだったら そうすればいいさ 関係ねぇし KW :Alright T.I.P., we could be rappin’ about this all day, man, why don’t we just cut the beat off and let the people talk? わかったT.I.P 俺ら日が暮れるまでラップし続けられるけど とりあえずビートを止めて みんなにあれこれ言わせようや   えー、ということで、みんなで、あれこれ言ってほしいみたいです。部分的にカニエが正しく響く箇所もあるでしょう。ただし、論理のすり替えが多すぎ。ああ言えばこう言う、で論理の一貫性がない。ギャングの和解は全然違う話だし。共和党支持者の黒人はもちろんいるし、なんなら議員さんだっています。カニエが共和党支持者なら、それはそれでいい。問題は、カニエがトランプさんの何に共鳴し、どの政策を支持しているのか一つも出てこないこと。メキシコの国境沿いに壁を作った方がいいのか。保護主義がいいのか(彼みたいに国外の売り上げが多い人はマイナスだと思うけど)。銃規制を支持するマーチに参加していたけれど、トランプさんを説得するつもりはあるのか。 私は お花畑蟹江 VS まともなおっさん代表T.I. だと思いました。 久々に、T.I.愛炸裂。『Paper Trail』聞いちゃったし。もう、Q−Tipに気を使わないでTipを名乗ってほしい。少しくらいまぎらわしくてもみんな区別つくよ。「Trapは自分が始めた」とか、ちょっと痛い発言も忘れます。I❤T.I. [caption id="attachment_2572" align="aligncenter" width="300"] T.I. circa 2004 この頃はふつーにワルそうでした。ジェイ・Zのクラブ、40/40のジャケットを着てますね。 Photo By Minako[/caption] カニエが言うように、愛を以ってトランプさんのスローガンに新しい方向性を持たせられたらすばらしいけれど、ふつうにニュース追っていたら、そうは思えないよなぁ。Sunken Placeが深すぎて、カニエさんの耳には入らなかったのでしょうか。... Read More

書評『NYの「食べる」を支える人々』

何を食べるか。どこで食べるか。誰と食べるか。 食事に関するあれこれを「楽しい」と感じるか、「めんどう」と感じるかで人生の捉え方そのものも変わってくるように思います。 食べることに対して雑な人は、生き方もどこか雑な気が。と言いつつ、私は準備が丁寧すぎたり、贅沢すぎたりする人もかみ合わない。その塩梅がピッタリ来る人は、貴重な存在。 1年半前、ニューヨークのレストラン・ガイド『ニューヨーク・フーディー』を出版しました。取材は、2015年の冬から2016年の春にかけて。一番、時間と手間をかけたのが、取材先の店選び。取材そのものは一気呵成にやり遂げました。その半年にも満たない時間で舌が鍛えられ、カロリーと体調の関係(肥えました)、サーヴィスと味の関係など、いろいろな角度で外食を考えた結果、たどり着いたのが「店選びは妥協してはいけない」という結論。 長く続いているお店は長く続いているだけの、人気爆発のお店は列になるだけの理由があります。例外。テレビでプッシュしたお店がいまいちなのは日本もアメリカも同じ。 少し前に、『ニューヨーク・フーディー』の似ている本を並べる、という店頭展開があり(出版社さん、ありがとうございます)、そのとき、この本に出会いました。 『NYの「食べる」を支える人々』。フィルムアート社刊行。 著者は、気鋭のノンフィクション作家、アイナ・イエロフさん。訳は、石原薫さん。綿密なリサーチと取材をもとにした、ずっしりとした本です。とはいえ、シリアスではなく、オーナー、シェフ、ウェイター、席まで案内する係(超人気店では重要なポジション)の話を掘り下げ、ニューヨークの食事情がわかる仕掛け。タイトル通り、「人」にフォーカスしています。一流どころのシェフだけではなく、刑務所で囚人のための食事を用意する人まで多岐に渡ります。前半は、世界各国から移住し、皿洗いからスタートして頂点まで上り詰めた人の話が多い。レストランの仕事は、労働時間が長く、きついです。「好きでないと続かない」という言葉がなんども出てくるように、適性がなければ続かない。 紹介されているお店(施設)は50弱。『ニューヨーク・フーディー』と重なっているのは系列も含めて5つだけ。私が行ったことがあるところは、16カ所(刑務所のカフェテリアには入れないですし)。テーマが被っているわりには、少ない感じがしますが、ニューヨーク市には1万の飲食店があるのだから、高確率かと思います。移民が持ち込んだ故郷の味をコアの部分は守りつつ、素材や料理法をアップデートして(健康的にして)広まっているのが、ニューヨークの食の醍醐味。僭越ながら、私もその部分を伝えようという意図がありました。イエロフさんのこの本は全編、その話です。 この本は、ニューヨーク好きの人はもちろん、板前さんやシェフ、飲食店の経営者の方にぜひ読んでほしいです。国や文化を超えて、すごくわかる部分があるはず。巻末の用語説明も勉強になります。 おまけ。ゴールデンウィークから夏にかけて、ニューヨーク旅行に行く方には拙著『ニューヨーク・フーディー』をおすすめします。電子書籍もあります。 本物はだれだ!  ... Read More

2018年ブルーノ・マーズ&ビヨンセ観察記

「仮に、1曲も知らなくても絶対に楽しめるステージを見せるアーティストが、ビヨンセとブルーノ・マーズ」と私は常々、言ってきました。そのふたりのパフォーマンスをライヴとストリーミングで見られた2018年4月第2週末、贅沢でした。 4月14日、人生3回目のブルーノ・マーズのコンサート。日本で観るのは初めて。チケットを取るまでが大騒ぎで、初めて乗った電車が大幅に遅れて車内が殺伐となったこともあり、さいたまアリーナに到着したときには、すでにぐったり。でも。ベースボール・シャツに身を包んだブルーノが“Finesse”と歌い始めたときに、疲れもぼっち参戦のつまらなさも吹っ飛びました。私は『Unorthodox Jukebox』の方が『24 K Magic』より4割り増しで好きなので、前回、ブルックリンで観たときの方がわれを忘れる感じがありましたが、それでも、踊るは歌うわ大騒ぎ。最初に、不満をふたつだけ。ミュージシャンのNBAのユニフォームのサイズ感がおかしい。あのピッタリ感は、選手に見えてしまう。90年代ファッション(街着)をイメージしているなら、オーバーサイズ気味にしてほしかったわー。それから、相棒のフィリップ・ローレンスがいなかった。なぜ。なんで。アリーナ後方から目を凝らして探しちゃったじゃないか、フィリップ。
(左からふたりめがフィリップさん。2016年のスーパーボウルのハーフタイム・ショウ。iPadで思わず撮った間抜けな写真)
  『24 K Magic』は1ミリの隙もない、シームレスなアルバムです。初めて聴いたとき、80年代後期〜90年代初期のR&B、テディ・ライリー/キース・スウェット/ボビー・ブラウン/ベイビーフェイス+α全体をジャックしていて「そう来たか!」と驚愕しつつ、あ、これはあの時代に衝撃的だった、ディスコではなくヒップホップもかかるクラブ向きのR&Bをそのままそっくりステージに持っていくための作品だな、と合点が行きました。 もともと、古い音楽の要素を取り入れるのが上手なブルーノが、さらにわかりやすい形で特定の年代のスーパーヒット曲の要素をリメイクしたのが、セカンドからのシングル、“ Locked Out of Heaven”でした。80年代のニューウェイヴをもっと黒くしたような音で、ブルーノ本人は「ポリスを意識した」と言ってましたね。私はザ・パワー・ステーションぽいな、と思いました(調べてねー)。それから、マーク・ロンソン名義の“Uptown Funk”で70年代に遡って爆発。「俺らの“Oops Upside Your Head”に似ている!」とチャーリー・ウィルソンさん率いるギャップ・バンドの面々に怒られてクレジットを直す1件はあったものの、見事に2016年のグラミー賞のレコード・オブ・ジ・イヤーを受賞。 思い返せば、この辺りでサードアルバムの方向性が固まっていた可能性が高い。でも、私はボケーっとセカンドアルバムを聴き込んでいました。それもあって、ライヴで圧巻の歌声を着替えた“Treasure ”と、バラッドの“When I Was Your Man”が一番、響きました。“When I Was Your Man”みたいなストレートすぎる本音を、そのまま歌うブルーノが好きなのです。「俺が君にしてあげるべきだったこと、新しい彼氏がちゃんとしてくれているといいけど」って。 失恋して男を上げる稀有なタイプ、ブルーノ・マーズ。 ああ。セカンドとサードで は音楽性よりも描いている男性像が変わっているのが、大きいかもしれません。『24 K Magic』に出てくる男性は上から目線でモテモテイケイケで、ええ、こうやって書いても気恥かしいほどの、ちゃらい人。セカンドまでは、一途な恋愛ソングが多かったのにね。「変わっちまったな!ブルーノ!!」と内心。そういえば、アリーナのスタンディングにはそういうタイプがちらほらいたかな。最後はピュア時代の“Just Way You Are”で締め。なんだかんだアメリカも整形美人が勝ち上がっている昨今、「どこも変えないで/そのままで完璧だから」と歌うこの曲は、シンプルなようで勇気と男気に満ちています。 映像中継のビヨンセ・イン・コーチェラ、ハッシュタグ的にベイチェラについてもちらっと。同時中継で見たのは半分だけ。それでも「世紀のパフォーマンス」 であるのは、登場時にすっと了解できました。ヌビアン・クィーンやブラックパンサー風といった今まで何度か見た出で立ちに加え、「黒人大学のチアリーダーかと思いきや実は学長」という新たな設定が加わって、2016年『Lemonade』以来、ひたむきに黒人性をより強調してきた方向性が、ひとつの完結を迎えて、すばらしかった。
(これもスーパーボウルのとき。実はコールドプレイの時間だったんですけど。クリス・マーティンさんへの好感度が上がりしました↑ エゴがない人だわー。コーチェラでビヨンセの応援をしているようで、結果的に邪魔をしたリアーナちゃんは見習ってほしい)
  歌唱力、ダンスの切れ、美貌、計算され尽くした衣装。 ビヨンセは、ここ2年でマイケル・ジャクソンと肩を並べました(当社比)。 『Off The Wall』や『Thriller』ほどの超絶傑作、ゲーム・チェンジャーとなる作品は、まだ作っていません。一方、マイケルのようなスキャンダルも、整形依存のような弱点もない。ビヨンセに必要なのは、クィンシー・ジョーンズみたいに総合力のあるプロデューサーかも。Don’t get me wrong、『4』も『Lemonade』もすごいアルバムですよ。ただ、『Off The Wall』と『Thriller』は、万里の長城みたいな、ピラミッドのような、「どうやって作ったの、それ 」と見上げるしかないアルバムなので。作品の真の偉大さは時間が証明するので、ビヨンセにはまだ時間があります。 ビヨンセは、旦那のジェイ・Zとともに「Bay-Z大会社」とも呼べる鉄板のビジネス形態を築き上げ、おそらく、テレビ局やグラミー賞よりも重要で力のある存在です。無敵。ものすごーく頭のいい人たちだから、大金持ちで天才、すべてを持っている姿を見せるだけでは反感を買うのはわかっていて、ちょいちょいリリックやドキュメンタリーで「悩んでいる、フツーの私たち」を伝えてきます。その悩みは、本物でしょう。ただ、存在としてすでに「超人」の域に達している。共感したり反論を唱えたりする相手ではなく、ひれ伏すのみ。 私が大好きだった、怖いくらい美人で太ももが立派すぎる、冗談が通じないところがおちゃめなデスチャのビヨンセは、もういない。それがよくわかったパフォーマンスでした。畏敬の念を覚えながら、興奮しながら、どこか寂しさを感じる時間でもありました。いまのビヨンセには、ブラック・パワーと歌の力で世界を少しでもまともな方向へ揺り戻す、という使命があり、本人もそのために全身全霊でパフォームしています。もう、世界を救うのはワカンダ人かビヨンセか、というレベル。 超人でありスーパーヒーローであり、その分、現実味もない存在なのです。 これからは、ブルーノとビヨンセの両巨頭を素直に見上げて生きていくことにしましょう。いや、それしか残された道はない。ラーメンをすすって曲を書いていたブルーノと、2回もメジャーデビューをつぶされて必死だったビヨンセ(とディステニーズ・チャイルド)の若かりし面影を心の片隅に抱きながら。... Read More