ロメイン・ヴァーゴのLovesick、語ってみます。

恋煩い(こい わずらい)。レゲエの若手シンガーの中でも圧倒的な歌唱力を誇る、ロメイン・ヴァーゴの新作のタイトルです。

デビュー初期の“Can’t Sleep”や“System”などレゲエらしい、社会派のリリックを歌っても説得力のある人ですが、今回は全編、恋愛。ただし、楽しいキラキラした恋愛ではなく、激しい喧嘩したり(Day In Day Out)、浮気されたり(Sweet Liar)と生活感と人生の重みを感じるタイプのラヴソング集。17歳でデビューしてから11年。前作『 System』から6年半。20代でそんなにたくさん気苦労の多い、ヘヴィな恋をしたんかーい、と心配になりますが、28歳でこれだけ説得力のある歌声を得たのなら、シンガーとして大切な経験だったはず。

ロメインは、ジャマイカのカントリーサイド(田舎)育ち。タレント発掘番組「ライジング・スター」で優勝し、そのまま一線を走り続け、レゲエ・コミュニティに愛されている人です。彼の曲を知らないレゲエ好きはいないだろうし、いい奴オーラしか出ていないので、嫌っている人は「むしろお前が変わり者」認定します(←言い過ぎ)。さて、アルバムの聴きどころを。既発の “Stay With Me”あたりはもうなじんでいるので、解説はいらないとして、ジャー・イケジロー的に強く、強くお勧めしたい2曲から。

まずは、6曲目の“ Can’t Close My Eyes”。

初期はアルトン・エリスらのロックステデイ・カヴァーで知られているロメインですが、アメリカのソウル、たとえばパーシー・スレッジの「男が女を愛するとき」などのカヴァーもめちゃくちゃ上手。その本領が発揮されているのが、この曲。アツくて、こってりと、大甘。 R&Bファンにもぜひ聴いてほしい、王道ソウル。本家のアメリカのR&Bシーンがフランク・オーシャンやダニエル・シーザーといった内省的でふわっとした空気をまとった曲が主流になっている中(そちらも好きですが)、時流を全く読まずにドシッと行くロメイン、最高です。彼女の帰りを待って先に眠りたくない、というシンプルな内容。ベッドルームの窓際とベッドを行ったり来たりしている感じが、絞り出すような歌唱からにじみ出ています。

次のおすすめ曲は、7曲目の“ Sweet Liar”。

「そう来たかー」と思ったセレクターやレゲエ・オタクも多いはず。端的に言って、ロメイン・ヴァーゴがベレス・ハモンドに憑依した曲です。曲調、テーマ、節回し。まんまベレス。前奏なしでいきなり歌い出すところは、 ふたりとも通過した名門レーベル、ペントハウスの名曲でよく聞かれるスタイル。テーマは、以前ブログで取り上げた“Sweet Lies”とほぼ同じです。タイトルも酷似しているし、狙っているでしょう。これを聴いたベレスが山頂の邸宅でフォホッホと笑っている図が浮かびます。

「You’re not good for me/ but you’re everything to me(害しかない君だけど/僕にとってすべてだったんだ)って。なんて切ない。レゲエは、腹黒美人に泣かされるシチュエーションがほかのジャンルより多い気がします。ヒップホップも「金目当てだろ」「ほかの男にも擦り寄ってるだろ」というリリックが頻出しますが、被害妄想もちらほらあって「モテなかったのに、売れたらたらモテて戸惑ってる俺」が透けて見えます。

 

レゲエには(ジャマイカには)もっとはっきり「すてきな悪女像」があって、「うん、それ手を出しちゃいけないやつ」にきっちり手を出して返り討ちにあって、血を流しながら歌っている名曲がたくさんあります。15年のビッグヒット、デクスタ・ダップスの“7Eleven ”なんて「ほかに男が6人いてもいいの。順番が回ってくるなら11番目でもいいの 」がパンチライン。どんなメンタリティーなんでしょう。破滅型の恋愛は、最中はジェットコースターよりアドレナリンが出るから、一生に一度くらい経験してもいいけど、後遺症がキツいですよね。とくに20代でやってしまうと、それが自分の恋愛の「型」だと勘違いして、次から次へと同じタイプにひっかかる。‥しまった、熱が入ってしまった。

後半は、トロピカルハウスの流行に目配せした“Will You Be There”、ソカ寄りの“Now”、ラジオ・フレンドリーな“Still ”などが続きます。このアルバム、あえて欠点を探せば、曲順が惜しい。最初にこのあたりを配置した方が、あまりロメインに馴染みがない人は入りやすいのに。それから、ヘヴィなダブが展開される“ Day In Day Out” のあとに“ Can’t Close My Eyes”が来るのも、ビーフシチューのあとに間髪いれずにショートケーキを出されたような重さがあります。「おーい、ニール! 胸焼け寸前だぞー!!」とニューヨークのクィーンズの方向へ叫びたい気分。ニール・エドワーズはVPレコーズの名A&Rです。彼の面倒見の良さがこのアルバムの成功要因のひとつ。ナフ・リスペクト。

プロデューサー陣の話も。名プロデューサー、デニー・ブラウニーの息子ニコ・ブラウニーが大活躍。最近は、クロニクスとの仕事でも名前を聞く人です。ほかにクライヴ・ハントやスティング・インターナショナルなどの大物も丁寧な仕事ぶりで飽きない作品に仕上がっています。

あとは来日ですねー。できればフルバンドで音響のいい会場で観たいなー。

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