The Weeknd 『After Hours』のヴィデオ観た?

The Weeknd の4年ぶり4作目『After Hours』の快進撃が止まりません。ビルボードのHot100にアルバムの収録曲ぜーんぶ(!)14曲がチャートインしている異常事態。アルバムチャートも当然、1位。日に日にサバイバル・モードが強まる今日この頃、彼の美声はとてもありがたい癒しだから、納得です。同じ3月21日にリリースされたChildish Gambinoの新作は全曲解説をきちんと書いたので、このブログは軽くThe Weekndが昨年の12月から順番に公開している連作ヴィデオをナヴィゲートしますね。これが、よくできたホラーなコメディ。そうそう、4月17日に発売される日本盤で、先行リリースされた3曲以外の歌詞対訳を担当しました。だから、まぁまぁ詳しいですよ。

アルバム全体のテーマはシンプル。「終わりそうで終わらない恋愛と、止めそうで止められないドラッグ中心の以前のライフスタイルのどちらを選ぶか困ったぞ、俺」です。ドラッグに手を出す=ほかの女性の誘惑に負けてしまうらしいので、本命の彼女を泣かせてしまうらしい。それで、彼女に向かって「生きるのを怖がないで(Scared to Live)」とか、「もう泣かないで(Save Your Tears)」って歌うのかい‥とも思いますが、まぁ彼女自身がいいのであれば、外野はつべこべ言わなくていいか。非常にプライヴェートな内容ですが、「誘惑と自分」は普遍的なテーマなので、みんな惹かれるのだと思います。

The Weekndことエイベル・テスファイがくっついたり離れたりをくり返しているガールフレンドは、モデルのベラ・ハディッドというのは、「世界が知っている」状態。けっこうモテるんですよね、エイベル。元カノにはアイドル的な人気があるセレーナ・ゴメスもいます。そのセレーナの元カレはジャスティン・ビーバーなので、セレーナはカナダ人×歌声高めの男性が好みなのかな。ちなみにジャスティンの嫁、ヘイリーとベラはモデル仲間で顔のタイプがよく似ています(どうでもいい)。

さて、ヴィデオのナビをしましょう。Escape From LAで、豪邸があるロスが嫌いだ、と歌い、「ツアーに出ている方が休める」とまで言っているのですが、遊ぶのはSin City、ラスヴェガスらしい。ということで、連作の舞台はヴェガスです。ちなみにLAからヴェガスは車で4時間ほど。泊りがけなら余裕で遊びにいけます。

第1弾は昨年の12月に公開になったHeartless。アルバムのなかでも「悪エイベル」がかなり強い曲。赤いジャケットを羽織って、トラックを作ったメトロ・ブーミンと一緒に、酒をあおり、ドラッグを採りながら、ラスベガスの目抜き通りのザ・ストリップや、映画『ハングオーバー!』を思わせるホテルの屋上、ショッピングモールなどで暴れています。速度を遅くしてトリップしている様を表す手法はおもしろいですね。トノサマガエルを舐めるシーンがあるので、両生類が苦手な人は要注意。私は、パラノって走る様子がコミカルで好きです。シャツもパンツもネクタイも黒でジャケットだけ赤って元ネタがありそうだけど、私はルパン3世しか思い出せませんでした(さすがに違うと思う)。声質をよく比較される、マイケル・ジャクソンへのオマージととるのが一番、妥当かな。

第2弾は1月に公開されたBliding Lights。現在、各国で1位を獲得している曲です。このヴィデオから時系列の激しいシャッフルが始まります。『After Hours』は彼が好きな80’sのシンセポップの影響が強いアルバムで、この曲もストレートにそのタイプ。イントロだけ聞くと、A-HaのTake On Meにちらっと似ていますよね。ヴィデオの撮り方やロケーションもレトロ。ホテルのラウンジでアジア人のシンガーと出会い、心を奪われるところで、デヴィッド・ボウイのChina Girlを思い出しました。ちなみに、この女性はハマノミキさんとクレジットされているので、日本人もしくは日系の人でしょう。眩いネオンのなかを車で疾走し、踊り、悪者に追いかけられて殴られ、また走るエイベル。歌詞もラスヴェガスでネオンに幻惑されながら過ごす夜の話です。ひとつだけ、レトロではなく最新型なのが車。The Weekndはメルセデスの初EVのイメージキャラクターに抜擢されたので、2020 EQC SUVをぶっ飛ばしています 。この曲を最初に披露したのも、昨年の11月にCMでした。ちなみに、お値段は一番安いタイプで1千万越えです。ほほ。

第3弾のAfter Hourはショートムーヴィー仕立てになっていて、曲はきちんと流れません。youtube上にある曲が全部流れるヴァージョンはほかのPVのシーンをつないでいるだけで、オフィシャルではないので注意。鼻に絆創膏を貼ったままテレビのナイトショウ番組に出演したあと、だんだん何が起きたか思い出す、という筋書き。アルバムの音をあちこちでコラージュしながら、ドラッグでぶっ飛ぶ前のエイベルの記憶を逆回しになります。駅のエレベーターに乗り合わせたスキンヘッズ風の白人男性と、娼婦っぽいいでたちの黒人女性の絶叫が扉の向こうから聞こえるところで、終わり。けっこう怖い。ステージで拍手を浴びたあと、凶行に走るあたり、昨年大ヒットした映画『ジョーカー』をほうふつとさせます。曲の雰囲気が昔に戻っているように、歌詞では悪癖がまた出てしまった、と言いながら、ベッドでずっと彼女を想っています。

第4弾は先週公開されたばかりのIn Your Eyes。最初に、注意を喚起する文章が出てきます。まず、さっきのヴィデオでエレベーターの中で、男性を刺し殺したらしいエイベルが生き残った女性を追いかけています。ヴェガスに遊びにきたと思っていたんですが、ちがうみたいです第2弾の最後でヘラヘラ笑い出していたので、あのあたりで発狂したらしい。金髪のウィッグをつけた女性を演じているのは、Zaina Mucciaという人気モデルさん。生命力が強い女性で、地下室で非常用の斧を見つけ出し、ナイフVS 斧の闘いを秒で決めます。非常用にあるのはふつう消火器くらいだと思うし、いくらなんでもスパッと切れ味よすぎですよね。最後は彼女と生首になったエイベルとダンスしていてシュール。けっこう笑える。さすがに、主人公が亡くなったらこの連作も終わりだと思いますが、幽霊になって戻ってくる可能性はありますね。歌詞は「瞳をみたら本心がわかる」という内容で、ヴィデオとは合っていません。

この連作、Heartless(冷血)で始まって、 Headless(首なし)になって終わっています。自分勝手に心のない振る舞いをすると、最後は死んじゃうよ、というのが、4曲使って、赤ジャケのエイベルが残しがダイイング・メッセージでしょうか。

タイトルの「アフター・アワーズ」の意味をちらっと。after hoursは閉店後とか勤務時間終了後という意味の、「終わった」感が強いワード。アルバム・タイトル自体に深い寂寥感が漂っているんですね。ほかに、夜遊び好きならご存知、クラブの通常パーティーが終わったあとの早朝のパーティーも指します。遊び足りない人と、それまでほかの店で働いていた人と、ふつうに起きてノンアルコールで音楽だけ楽しみたい人が混ざっている、ちょっと不思議な空間。このアルバムも、恋愛が終わった先とかパーティーの余韻の、「1回盛り上がった、さてここからどうしようか」みたいな空気があります。

ただし、「祭りの後」感があるのは、彼の気分とリリックだけで、アルバムの音はちがいます。安定してさらに高まった歌唱力(2回ライヴで観ていますが、彼は録音よりもっと歌えるタイプの恐ろしい歌い手です)が、『Starboy』以降のよりダンサブルな曲に載っていて、シンガーとしては「祭りど真ん中」な作品です。マックス・マーティンらの売れっ子を揃え、シンプルなようで、細部までめちゃくちゃ丁寧に仕上げられた作品だから、最初から最後までずっと気持ち良く聴けるのでしょう。Snowchildのリリックが面白いですが、注釈は日本盤につけたのでよかったらそちらを見てください。

私、ラスヴェガスは3回ほど行ったことがあります。旅行は1回であと2回は仕事。昼間はかなりハリボテ感のあるペラペラな街が、夜になると燦然と輝くのが不思議でした。ゴールドラッシュが起きた昔から、欲望が渦巻く土地なのでしょうね。郊外に少し行くと、グランドキャニオンやザイオン国立公園などの大自然が広がっていて、そのバランスが奇妙だといつも思います。最後に、メイキングのヴィデオもあるので貼っておきます。熱心に演じていて、めんこいです。エイベル、俳優業も興味あるのかな。