Weekly Recap 〜5.5.2021

まったく黄金感のなかったゴールデン・ウィークだったけれど、それでも終わるのは少し悲しい2021年5月5日です。GW前はけっこう締め切りが詰まっていたので、休みに入ってメールが減ったらヘロヘロと崩れるようにゴロゴロして、いっぱい読み物(本とは限らない)をしました。幸せ。そのなかで、アメリカのGQのジュース・ワールドの記事がとても良かったので、要点を箇条書きにします。GQジャパンで翻訳される可能性もあるので、そこは気を遣いつつ(ぜひ、訳してください)。5月3日付、ダン・ハイマンさんが書いた記事はかなりの長文。ちなみに、ハイマンはユダヤ系アメリカ人の名前ですね。お母さんのカーメラさん、プロデューサーのベニー・ブランコ、ニック・ミラ、ラッパーのG・ハーボら、エンジニアのマックス・ロードに話を聞いて事実を丁寧に並べているだけなんだけど、それでもかなり応えます。

写真もGQの特集から借りています。元の記事をぜひ。

・もっともショックな情報は2019年の12月、シカゴのオマハ空港で亡くなる3週間前に身内の人がインターベンションを行い、リハビリ入りが決まっていた事実。医療用語でもあるinterventionは「介入」という意味。具体的には、問題を抱えている人に面と向かって一人か数人で「説得」することです。アメリカのドラマにたまに出てくるので、ピンとくる人もいるかも。明らかにまずい決断を思い留めさせる(仕事を急にやめる、逆に怪しい商売に手を出すなど)、ドラッグやアルコールの過剰摂取をやめさせるなど、目的はいろいろありますが、失敗すると逆効果なので準備が必要です。

・ジュース・ワールドのリリックの2大テーマは、「ドラッグ」と「彼女」。依存症を隠してはいなかったのですが、2019年には周りの人が心配して忠告するようほど使用量が増えていたので、本人はごまかしたり、新しい友人を作ったりして「そこまでひどくはない」フリをしていたそう。私は、亡くなったあとにリリースされ『Legend Never Die』の対訳を担当しました。たしかに、彼はくり返しドラッグに飲み込まれそうな不安を曲にしていて、そこが切なかった。 12月2日の誕生日にはお母さんに数週間、リハビリに入ると言っていたそう。彼は、プリスクリプション・ドラッグといって処方箋があれば手に入る薬を故意に多く摂るタイプ。アメリカではコカインなどの違法ドラッグよりも、入手する方法がたくさんあるのが問題、とお母さんが指摘しています。

・ジュース・ワールドはフリースタイルの才能の凄さで知られています。プロデューサーのコメントもだいたい、それを裏付けるエピソードが多い。未発表曲はまだまだありそうなので、今後、整理されて新たにアルバムがリリースされる可能性は高いな、と思いました。インスタで彼を見つけてすぐさま連絡を取ったという、ベニー・ブランコの発言を引用しましょう。

「ビートを1秒聴いただけでラップを始めて、リリックだけでなメロディもつけてワンテイクで仕上げてしまう。それを3回続けて、ひとつのビートで3曲分のヒット曲を吐き出すんだ。それで、“一番いいと思ったパートを使ってよ”って言われた」

にわかに信じがたい話ですが、たしかに彼のリリックにはこねくり回したところがなく、そこが隣で語りかけているような、愚痴をこぼしているような生々しさになっている。私は、いまだに「Empty」 や「Robbery」を聴くときには心の準備が必要です。隣で号泣している人を無視できないように、何かをしながらは、聴けない。

・ほかは「いい奴だった」エピソードが続きます。ロサンゼルスに家を買った以外は派手な買い物には興味はなく、車は1台も持っていないのにバイクは好きでダートバイクを10台、ATVを4台持っていたとか、遊戯王カードを集めていたとか、古いプレイステーションが好きだったとか、微笑ましい。まだ、少年と青年の狭間にいた人だったんだな、との思いを新たにしました。「たられば」の話をしてもしかたないですが、若くして天下を取ったラッパーの早世はもういやだなぁ。

・ほかのヒップホップ・ニュースも。先週の金曜日、ブラック・ロブのお葬式がハーレムで行われました。ディディのリボルトTVで1時間53分のヴィデオが公開されているので、興味がある方は。前回のRecapでも書きましたが、彼はホームレスではなかったし、周りの人に見捨てられていたわけではないのは、強調しておきます。

・ラップのうまい下手でファン同士がツィッターで論争になったのがビッグ・ショーン。絡んでくるファンをブロックしたのが問題視されたのですが、そりゃブロックするでしょう。それよりも、自分が鬱を患った経験から、お母さんと一緒にその問題に取り組むビデオ・シリーズを始めるニュースが前向きでいいな、と思いました。ヒップホップと鬱の問題は、そのうち深く掘り下げたいと思います。

・GW明けに公開される仕事の宣伝もしておきましょう。田中宗一郎さんと三原勇希さんのポッドキャスト『Poplife』にゲスト出演しました。4回70分ずつ。1回目と2回目の公開が5月8日かな。「21世紀のレゲエ」との壮大なテーマを掲げてのレゲエ回ですが、脱線しまくってレゲエ以外の話をしている時間が長いです。タナソーさんは博識だし、三原さんは声も存在も凛として素敵だったし、楽しい収録でした。私は、「いつどこで」を整理して話せない、という弱点がわかったので、克服していこうと思います(キリッ)。

・ほかは、リル・ナズ・Xの「モンテロ」のヴィデオは歴史学者に絶賛されているんだよ、とか、ディズニー・プリンセスのキャンペーン曲にブランディが抜擢されたから、改めて彼女のキャリアを振り返ってみるよ、とか、アメリカのホームスクーリングってこんな感じ、とかの記事が公開されます。あとミュージック・マガジンでアレサ・フランクリンのフィルム・コンサート『アメイジング・グレイス』の評を書きました。このドキュメンタリーは本気でおすすめ。予告編を貼っておきます。

・ここで、お詫びがあります。昨年、新しいニュースレターのプラットフォーム『The Letter』に誘っていただいて、くせ毛の手入れ法のニュースレターを1回だけ書いて止まってしまっています。登録してくださった方、本当に申し訳ありませんでした。これ、理由があるんです。昨冬、いいドライヤーを買ったら、びっくりするくらいまっすぐ乾かせるようになってしまって。日本のドライヤー、すごーい。とか喜んでいる場合ではない。デフューザーを使って、またくせ毛を生かした髪型にはしているのですが、ニュースレターで続くほどのネタはないかな、と考え始めています。サムネ用にイラストを用意していただいたのに申し訳なく思っているので、音楽のニュースレターに切り替えようかな、と考えているところです。