一昨年から攻めの姿勢を崩さないダベイビーの新作『Blame It On』を聴きながら、ある種の敗北感に苛まれている。新しさは、ない。どこにも、ない。強気なリリックはあるにしても、「いま、なんて言った?」なギョッとする類のラインはない。フロウはワンパターンとまでは言わないが(いままでの曲よりも、速度も発音も変えている)、引き出しは少ない。絶妙にバウンスするトラックに、人気者の客演を揃えて聞き取りやすい言葉を的確に載せているだけ。
でも、これがいいのよ。とりあえず3回くり返し聴いてみて、いまのところ飽きない。次から次へと、「えーと、これはヒップホップに入るのかな?」というギリギリの線をついてくる曲に疲れた耳には、真っ当に響くし、非常に気持ち良い。そう。ダベイビーの『Blame It On』は、出先で弁当を出されるなら唐揚げ弁当が安心だし(自分で作るなら鮭弁派だけど)、ケーキはなんだかんだショートケーキだと嬉しいし、5月になる前に桜餅をもう1回食べておきたいよね、的な作品なのだ。要するに、奇を衒わず、原材料となるリリックとライム、トラックをしっかり整合性を持って配している。
仕事ぶりは丁寧だ。レペゼン・シャーロットの28才は、しっかり計算できるアーティストである。ダベイビーは、あれこれ分析して、深読みするタイプのオーディエンスを相手にしていないのだと思う。その証拠に、大物のリリースがあるとすぐにネットに書き込むタイプの本国のヒップホップ好きは、新作をこき下ろしまくりだ。でも、Sportifyでもyoutubeでも大人気。ダ・ベイビーは、このご時世にあえて楽しませてほしいと願う大多数のファンに向けてアルバムを作り、そのミッションをきちんと成し遂げた。これ、実際にやるとなったら、難易度が高いと思う。アートワークは、青い背景にダベイビーがマスクを着けて立っているという、見た瞬間に2020年の4月だとわかるデザイン。今年は、ドレイクやケンドリック・ラマーなど超大物のリリースが期待されている。どうせ年度末に埋もれるなら、いまはしっかり爪痕を残したいと考えている、と読むのは穿ちすぎだろうか。
書きたいことを書き切ったので800字で止めてもいいのだが、せっかくクリックしてくれた人に申し訳ないので、おすすめを3曲だけ。
Rockstar ft. Roddy Ricch
大人気ロディ・リッチを招いたメロディアスな曲。ダベイビーは決して歌がうまくはないけれど、感情の込め方うまいので聴けてしまう。この曲から次のJumpの流れはとても気持ちいいので、ワークアウトの時にヘヴィロテになりそう。
Blame It On Baby
このタイトル曲で、彼はラッパーとしてのスキルを全力で出しきっていて見事だ。速度ががんがん変わるトラックに合わせ、フロウを変えていくところが聴きどころ。「それも〇〇のせいだよ(Blame it on〜)」は、ジェイミー・フォックスft T-ペインのBlame It(09年)以来、よく出てくるようになった言い回し。大音量で聴きたい曲。
Nasty feat. Ashanty & Megan Thee Stallion
仲良しのミーガン・ジー・スタリオン(大好き)を招いて、アシャンティの名曲(その名も、Baby!)をサンプリングするあざとさが最高だ。プロデュースのロンドン・オン・ダ・トラックの音の継接ぎがすばらしい。
以上、USで話題のダベイビーの『Blame It On』の簡単な感想でした。敗北感に苛まれたのは過剰反応だったけれど、何事も丁寧に、しかし考えすぎず、狙わず、という姿勢を学べる作品だ。
聴いてみてねー。