斜め読みグラミー 2020

20年代最初のグラミー賞、終わりましたね。弱冠18歳のビリー・アイリッシュが主要部門3つを含む4部門を制して大勝ち。が、ヘッドラインでしょうが、私が得意とするジャンルの人ではないので、ほかの方に分析は任せるとして、私は得意の「え? そこ???」な感想と情報をつらつらと。... Read More

18週間1位達成、リル・ナズXのOld Town Road大ヒットの理由

リル・ナズX(とビリー・レイ・サイラスの)Old Town Road Remixがビルボードホット100の18週連続1位を達成しました!  これ、すごい快挙です。 ビルボードのチャートはアーティストや曲の「すごさ」を強調するために、さまざまな計算をして使われるけれど(3つのチャートで同時トップ10入り!、とか)、シングルの売り上げ、ラジオプレイとインターネットのストリーミング回数を加算するホット100はメインのチャートで、ダイレクトに「人気の曲」を映し出すので、1位を獲ること自体、大変です。 それを、18週間連続の新記録を達成。それまではマライア・キャリーとザ・ボーイズ2メンのOne Sweet Day(1995年)と、 ルイス・フォンシ、ダディ・ヤンキー、ジャスティン・ビーバーのDeapacio(2017年)の2曲が16週間連続がタイ記録を保持していました。 リル・ナズXのOld Town Road Remixが17週に入った時点で、マライア様がすぐにツィートで祝福して、ナズXがお礼を返す、というすてきな出来事もありました。

(私のウェスタン・ブーツ。たぶん、この靴と小学生のときに初めて買ってもらったバスケットシューズが人生で思い入れのある靴です。東京ではまだ履いてないけど)... Read More

ジョン・シングルトン逝去に想う

少し前に脳卒中で倒れ、昏睡状態だったジョン・シングルトン監督が亡くなりました。享年51才。 タイリースとタラジ・P・ハンセンがお見舞いに行ったニュースがあったので持ちこたえたのかな、と思っていたのですが。生命維持装置につながれた状態で、家族がこれを外した、まだ外していないというニュースが昨夜、錯綜して私も亡くなったツィートを一旦、消して眠りにつきました。 ジョン・シングルトンの作品でもっとも有名なのが出世作のBoyz n the Hood(91年)。主演、準主演の3人、キューバ・グッディ・ジュニアとアイス・キューブ、モーリス・チェスナットもそれ以降、活躍しました。92年にロス暴動が起きて、カリフォルニア州の状況がクローズアップされた時期と重なり、現実の事件の背景を映画が補足したかたちになったように思います。監督とも映画のキャラクターとも同世代なので、衝撃的でした。スパイク・リーの映画にも影響を受けていますが、彼の作品の登場人物はキャラが立ちすぎていて、「違う世界の人たち」という印象が強くて。一方、シングルトン監督の作品は「あ、こういう人いる」と共感しやすかった。大学を舞台にしたHigher Learning(95年)はとくにそう感じたな。音楽だとア・トライヴ・コールド・クエストやデ・ラ・ソウルがでてきたときに「あ、自分たちに似ている」と思った感覚が、彼の映画にはありました。

一番、好きなのはPoetic Justice(93年)。すでに大スターだったジャネットが美容師役だったのは驚いたけど、案外、はまっていてとにかく可愛かった。相手役がトゥパック。これまた「わー、いそう!」なお兄ちゃんで。ちなみに、ジャネットの殺された元カレ役がトライヴのQティップ。ジョン・シングルトンは、アーティストに演技をさせるのが好きな監督で、それで客寄せをしている、って叩かれていたか記憶があります。こうやって書きながら、あれこれ思い出しているんですけど。脇役を演じたレジーナ・キングはいまでは大御所の演技派女優さんですね。... Read More

2019年にアリアナ・グランデ『thank u, next』が聴かれまくっている理由。

アリアナ・グランデの新作『thank u, next』が、もう大好きです。2月にリリースされて以来、ずっと聴いている。実は、このアルバムはアメリカほか全世界でもぶっちぎりで聴かれていて。リアーナとドレイクが持っていた最多ストリーミング回数の記録を抜き、ビルボードのホット100ではトップ3を同一アーティストが独占という、ビートルズが1964年に打ち立てた記録を半世紀ぶりに達成。     私は、「アリアネーター」と呼ばれるほどのファンではないけれど、2012年、子役上がりだったアリアナが、ほぼ子どもとその保護者のお客さんの前で歌っていたデビュー前のお披露目ライヴでその歌唱力にぶっとばされてから、ずっと応援しています。ライヴは3回、取材のつきそいで本人に会ったことは1回。ワガママだとか、ディーヴァとかよく叩かれきたアリアナですが、取材やコンサートを見ると「ザ・プロ」と呼ぶしかない、正真正銘のすごいシンガーです。うん、プロデュース能力やダンスも込みで「エンターテイナー」と呼んだ方がしっくりくるビヨンセと違って、彼女はシンプルに「歌手」なんですね。そこは大きな違い。 その彼女が、前作『Sweetener』からわずか半年で10曲入りの新作、『thank u, next』を届けてきました。『Sweetener』も良かったんだけど、そこまで相性がいいとは思えない、プロデューサーのファレルのカラーが強かったかな、と。 では、何が「アリアナらしい」のか? 私が思う3つの特徴をあげてみます。1)宝石みたいなソプラノ・ヴォイスを生かしたブロードウェイ・ミュージカル調のキラキラ曲、2)アーバン寄りのポップバラッド、そして、3)「なぜいまこの曲調?」な時代感覚がおかしい曲。 最初のふたつめまではほかのファンのみなさんからすんなり同意を得られるとして、3つめの「時代感覚がおかしい曲」が好きな人は少数派かも。たとえば、メイシー・グレイとの「Leave Me Lonely」や、ネイサン・サイクスとの「Almost Is Never Enough」、あとニッキ・ミナージュとのどレゲエ「Side to Side」とか。音の流行を無視しているためアルバムから少し浮いているのですが、「私、これだけ歌えるんです」という主張が詰まっている気がして、どれも隠れ名曲だと思っています。 それでは。愛を込めて、5作目『thank u, next』がなぜここまで聴かれているか、3つの理由をあげてみます。     1. ここ2年で知名度さらにで上がった Bad publicity is still publicity、という言葉があります。悪評も評判のうち、という意味で、どんな悪いニュースでも有名になった人が勝ちということ。私、この言葉をディアンジェロとダンスホールのヴァイブス・カーテルから取材時に言われたことがあります(無関係だけど並べるとそれなりに迫力がでる組み合わせですね)。まぁ、よく使われる言葉ですね。ネットでバズること自体に価値がある、いまの時代はさらにその傾向が強くなっている気がします。 子ども向けテレビ番組出身で最初から知名度があったアリアナは、気の毒な理由のせいでここ2年でもっともっと有名になりました。ひとつめの理由が、2017年にイギリスのマンチェスターのコンサートで自爆テロが乱入、22名のファンが亡くなる惨事に見舞われたこと。ふたつめは、昨年、ラッパーの恋人、マック・ミラーが別れてから半年後に自殺してしまったこと。コメディアンのピート・デヴィッドソンと婚約破棄したのもニュースになりましたが、マック・ミラーの件の方がショッキングでした。 あと、日本では曲の「7 rings」にちなんで「七輪」というタトゥーを彫った件で、ネット上で騒ぎになりましたね。たしかにまちがいですが、七輪自体、どの家庭にもある一般的なものでもないし、五輪までひっぱり出して大騒ぎするほどのことだったのかなぁ。 ていうか! マンチェスターのテロ事件のあと、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患ったことを公表して満身創痍だったにもかかわらず、絶対にマイクを離さず(なんなら、マイクにすがりつくように)活動を続けているアリアナを、よく音楽の話そっちのけで叩けるな! って思っていました。   おっと、興奮してしまった。落ちつきましょう。   とにかく、いまのアリアナは超がつく有名人。2016年まであまり知らなかった人は「ヒット曲くらいは知っている」、それまでふつうに知っていた人なら、「新作出たなら、クリックしてみようかな!」と、つい応援したくなる立ち位置にいます。それが、最大の強み。     2. アリちゃん、「ガール」から「ウーマン」になる デビュー時からガーリー売りだったため、女性ファンと、「心は女性」な男性ファンが多かったアリアナが、酸いも甘いも噛み分けた「ウーマン」に成長しました。結果、「アリアナも聴くけど、なにか?」な大人が増えたんじゃないかな、と。 裏づけるために、最初のシングル3曲を解説してみます。最初に断ると、この3曲は「ウーマン」を通り越して「ビ○ッチ」モードです。すがすがしいほどに、ダークサイド全開。 「thank u, next」は、元彼たちの実名を出して話題になりました。恋多き女のアリアナは基本的に同業者やエンタメ関係者とつきあうため、すべての恋愛がハイプロファイルになってしまうのですが、かれらとの関係を振り返りつつ、   「ありがとね、はい、次の方!」   と言い切ってしまった潔さ。あ、この「ネクスト!」は銀行や病院で順番がきたときの呼ばれ方です。特定の相手への感情を曲にするのはテイラー・スウィフトという大先輩がいますが、この曲の後半はたんなる失恋ソングではない展開を見せます。 「友だちと一緒に過ごす時間を増やしたから/なんの心配もない/それに新しい人にもう会ったの/ずっといい話し合いができる人/切り替えが早すぎるって言われるけど/今回の人は永遠/だって彼女の名前はアリだから」 そう。結局、自分自身が一番の味方、という自分への愛を歌った曲なんですね。ちなみに、名前を出した元カレたちには事前に連絡して了承をもらったそうです。案外、気をつかうタイプ。 それから、この曲はプロモーション・ヴィデオが秀逸です。「ミーン・ガールズ」や「キューティー・ブロンド」、「ブリング・イット・オン」、「13ラブ30」など90年代の有名な青春映画がこれでもか、って出てきてアメリカ映画が好きな人は最高に楽しめるので、ぜひ。「ミーン・ガールズ」は主人公ではなくていじめっ子ボスのレイチェルに扮しているあたり、コメディエンヌとしてのセンスを炸裂させています。キム・カダーシアンのお母さん(カニエ・ウエストの義母)クリスさんを母親役に配しているのも笑えるし、「キューティー・ブロンド」の超有名なネイルサロンのシーンはほぼ忠実に再現していて、本気度がちがいます。 問題の「 7rings」は、トラックがもっとも複雑でおもしろく、「お金を使いまくって悲しみを吹き飛ばす」というコンセプトがとってもヒップホップ的。映画『サウンド・オブ・ミュージック』の「My Favoraite Things」をコーラスで引用したと思ったら、ビギーの「Gimme The Loot」のヴァースまでひとっ飛び。で、その間は02年のキーアさんの一発屋ソング「My Neck, My Back」を引っ張っているように聞こえるのですが、私以外に指摘している人がいないから、思い過ごしかなぁ。それから。「私の髪が素敵ですって? ありがと、買ったばかりなの」という、ウィーヴ(つけ毛)をあっさり認めるラインが面白すぎます。 「Break up with your girlfriend, I’m bored」はビ○ッチ度が高すぎて、クラクラします。「ねぇ、彼女と別れてよ、私、退屈なの」ですって。自分が退屈しているから目をつけた男性を彼女と別れさせるって、どれだけ高飛車。別れたら明日の朝、相手をしてあげる、と歌っているのですが、そのあと、あっさり彼を捨てそう。こんなとんでもないコンセプト、だれが思いついたんだろうと思ったら、TLCの「No Scrub」(車も持っていないくせに話しかけるな、ていう曲)、ビヨンセがいたデスティニーズ・チャイルドの「Bills Bills Bills」(ねぇ、ちゃんと支払いはできるの?、というサビ)という90年代の2大ビ○ッチ・ソングを書いた元エクスケイプのキャンディーさんとシェイクスピアさんコンビでした! はは〜。このふたりの話はあと1000字くらい展開できますが、アリアナと関係ないので自粛します。そうそう、「 7rings」のヴィデオのファッションも90’sだし、このアルバムの隠れテーマはアリアナの90年代への憧憬みたいですね。   まとめると、「めそめそしていると思った? 私は大丈夫よ」と強気モードで攻めているのが、このシングル3枚です。     3. しかし、『thank u, next』は本質的に鎮魂歌(レクイエム)のアルバムである 最初にカットした3枚こそ強気モードですが、このアルバム全体を支配しているのは亡くなった魂と、その悲しみを背負った自分の魂を慰めるムードです。はっきりとマック・ミラーの死で泣いた、と歌っているのは「ghostin」だけですが、それ以外の曲も行間や単語ひとつに彼の死が影を落としています。 たとえば、1曲めの「imagine」は、得意のキラキラ曲に響くけれど、「あなたの胸で眠りに落ちる、そんな世界を想像して」とのコーラスでハッとします。恋人同士だったら当たり前の状況を「想像してみて」と歌うのは、相手がもうこの世にいないから。 「私、いくらでもかまってちゃんになれるのよ」と歌う「needy」や、一転して「自分のスペースと時間がないと好きな気持ちも続かない」と歌う「N.A.S.A」も相手は特定していないけれど、元彼の中で「天使だった」と歌うミラーとの関係をどうしても思い起こしてしまう。 「N.A.S.A」の後半はポップレゲエというか、少し前に流行ったトロピカル・ハウスっぽい音が入り、そのあとの「blood line 」はマックス・マーティンが作ったストレートなレゲエ。「もう作り笑いは無理」と歌う「fake smile」もレゲエ調、続く「bad idea」に至ってはダブに展開します(ええ、だからこのアルバムが好きなんです)。ポップ畑のプロデューサーでも、本腰を入れるといいレゲエを作りますね。「fake smile」はPTSDのときの心情が聞き取れて辛く、ポップアルバムには珍しいダブのインストが入るのも、必要性があって間を取っているように思います。 浮気心を歌った「bad idea」には合いの手で、なんと、日本語の「アリちゃん!」が入ります。周りに人がいないときは、ぜひ一緒に歌ってみましょう。くせになりますよ。「make up」は「仲直りする」メイクアップと、化粧のメイクアップをかけている曲。ここで、アリアナのパフォーマンスを客席で見ているときに爆笑したリアーナのコスメライン、Fenti Beautyが出てくるんですよー、アリちゃんからのラヴコールでしょうか。リアーナは賢いので、シンガーとしての実力でかなわないことがわかっているアリアナには近づかない気がするんですけど。   さて、問題の「ghostin」について。このアルバムのハイライトにして、インスタント・クラシック=即、名曲認定。歌詞の美しさ、もの哀しさをアリアナの歌唱力が包み込むさまは見事です。感情を持って行かれるので、慣れるまで移動中には聴けませんでした。状況としては、いなくなった昔の恋人(マック・ミラー)を想って泣いてしまう自分を、いまの恋人(元婚約者のピート・デヴィッドソン)に謝っている、という。マック・ミラーが朝ドラのサキ姉ちゃん状態(あ、わかりづらい?)で夢枕に立ったりするようで、「私はたくさんの過去がある女なの」というラインもヘヴィ。「私たち、きっと乗り切れるよね」と歌っていますが、ピートとは結局、別れてしまいました。   個人的な内容ですが、これ、いまのアメリカの若い人たちにすごく響く曲なんだろうな、と思いました。理由を書きますね。3月7日付のニューヨーク・タイムズに、55才以下のアメリカ人の死因として、お酒やドラッグの大量摂取、そして自殺がここ20年で激増しているニュースが出ていました。私は薄々感じていましたが、それでもショックで。とくに、合成ドラッグで亡くなるケースがここ5年でものすごく増えているそうで、20年前は年間1000人ほどだったのが、いまは2万8000人、2週間で1000人も亡くなっている計算になります。ピエール瀧さんの件で日本もコカインの話題でもちきりですが、コカインは原材料のコカが必要なので、アメリカでも南米から入ってこなくなるとバカ高くなり、お金を持っていないとできません(それでも、記事の死因には入っています)。若い人はエクスタシーと呼ばれるMDMAのほか、処方箋があれば手に入る抗うつ剤のXanax、鎮痛剤や強い風邪薬を多量に摂る人が増えています。つまり、製薬会社が儲けるためにたくさん流通させた薬が、本来の目的とはまったく違う方法で使われて命を落とす、という病んだシステムができている。うつに関係して銃や首吊り自殺も増えていて、各州で銃や処方箋の必要な強い薬の管理を厳しくする方向になっているそう。 最近、若くして亡くなるラッパーが多いのは、ヒップホップだけの問題ではなく、アメリカ全体の状況を反映しているわけです。以前に増して、死が身近になっているアリアナに近い世代の人たちが、この曲に自分の体験を重ね合せるのは想像に難くない。 図らずとも、優れたシンガーは時代の声をすくい上げることがあります。 「ghostin」で、アリアナはそれをやってのけました。トラウマになりそうな体験からの立ち直り方、もがき方を等身大で見せているアルバムが、『thank u, next』だと思うのです。けっこうキツイ歌詞が多いのに、彼女の歌声にセラピューティック(癒し)な効果があるのは、前へ進もうという祈りにも似た想いをのせて歌っているからではないでしょうか。 暗いオチになってしまって申し訳ないです。でも、日本でも私みたいにこのアルバムを聴いて元気が出る人たちがいるような気がしたので、書きました。そんなバックグラウンドを心に留めながら、『thank u, next』、ぜひ聴いてみてください。... 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21サヴェージ vsトランプのアメリカ

2月3日の日曜日、アトランタでNFLの決勝、スーパーボールで全米が盛り上がっている最中、21サヴェージがICE(移民・関税執行局)に捕まる、という衝撃的なニュースが走りました。実はイギリス国籍の不法移民だった」というヘッドラインで、日本のヒップホップ・ファンでニュースが届いたわけですが。 日本語にすると「不法移民」という言葉の響きのせいで完全アウトみたいに見えるでしょう? でも、違うんです。移民国家、アメリカは「在留許可を取る途中である」のが証明できれば、グレーゾーンにいるまま、留まることができます。法律はそれなりに厳しいですが、「アメリカ人は多ければ多いほどいい」というのが基本的な姿勢で、たとえばアメリカで生まれた子どもの親だと、成人になるまでの間はそのまま働ける(働けた)のです。   私は、「21サヴェージは、時間はかかるだろうけど、強制送還はされず済むだろう」という見解です。外れたら、ごめんなさいね。   「元・非移民就労ヴィザ保有者が語る、21サヴェージはどうなるのか問題」、 または「21サヴェージ vsトランプのアメリカ」 行ってみましょう。   21サヴェージの現状 2月13日、保釈金を払って拘置所から釈放された、というニュースがありました。朗報ですが、このままアメリカにいられるわけではなく、これから弁護士を立てて闘っていく、という状況です。 そもそも21サヴェージってだれ? アトランタのラッパーで、大人気プロデューサーのメトロブーミンに見出されたことから、ここ2、3年で急浮上しました。今年のグラミー賞にはポスト・マローンとの「ロックスター」でノミネーションを受け、捕まらなければパフォーマンスをする可能性が高かった。少しかったるそうな滑舌で畳みかけるスタイルで、それがカッコイイ。ちょっとファボラスを彷彿とさせますね。感情表現の幅がすばらしく、とにかくカリスマ性がすごい人です。 なぜイケジローが語るのか 私はながーいこと、就労ビザ(在留許可)を取得してアメリカにいました。学生ビザのF1でまず入国、学校は半年だけ行ってから就職して専門職ビザのH1、フリーランスになるためにアーティストビザのO、それからジャーナリストビザのIの4種類を取ったので、ビザコレクターと友だちに呼ばれていました。アメリカの外国人にたいするニュースには敏感で、はっきり言って得意な話題です。ちなみに、ビザをキープするために使った弁護士費用や更新料の合計額は、中古マンションの頭金くらいになると思う。賢くはないけど、楽しい人生でした(まだ、生きてる)。   さて、サヴェージさん。この人は両親の離婚後、7歳のときにお母さんと一緒にイギリスに渡ってビザが切れてもそのままにアメリカに住んでいたんですね。私、このニュースを聞いたときに真っ先に思ったのが、「この人、やっぱりジャマイカ系なんじゃ?」ってこと。「やっぱり」の理由。出てきたとき、レゲエのスパナー・バナーの若い頃にそっくりで驚いたから。 これがサヴェージさん。   これがスパナーさん。   ほら、そっくりでしょう。スパナーさんはおじさんラスタになってますが。シンガーのリッチー・スパイスのお兄さんね。 いきなり脱線しました、ごめんなさい。 サヴェージさんは、いろんな意味で「ホンモノ」です。10人兄弟で弟を一人殺されています(眉間の短剣タトゥーは彼を追悼するもの)、日本の中1にあたる7年生のときに、銃を持って登校しそのまま退学(当たり前)、ほかの学校にも受け入れてもらえない、というエピソードの持ち主。10代で少年院に入っているし、出たあとはギャングと関わったり、ドラッグを売ったりしていました。名前の21もギャングの名前から来ているそう。 で、こうなると逆に「なんでいままで国外追放されなかったの?」って思うでしょう? グラミー賞にノミネートされたタイミングでの逮捕とか、見せしめっぽい。 それでも、最終的に合法的にアメリカにいられるだろう、と思う理由を3つ挙げます。   <理由 1>21サヴェージはいわゆる「ドリーマー」のひとりである。 「ドリーマー」とは、親の都合でアメリカに連れてこられ、在留許可(わかりやすくするため、ビザでまとめます)を持たないまま生活をしている子どもたち、もしくはそのまま大人になったヤングアダルトを指し、トランプさんの強硬な移民政策の犠牲者として注目を集めている存在です。立場的に外国人ですが、アメリカで育っているわけで、英語以外話せない人も多い。 外国人がアメリカに住んでいいかどうかを決める移民局はいつも仕事をたくさん抱えているため、手続きに時間がかかります。更新の途中でビザが切れたり、必要書類の不備でペンディングになったりするグレー期間はお咎めなしで、最終的に許可が取れればOK。ただし、入国するときの空港の審査があるので、待っている間は国外に出ると入れなくなります。今回、動いたICEは移民局のなかで、ひたすら不法に滞在している人を探し出して、追い出す役所らしい。怖い。 で、サヴェージさんは昨年になんと「U」ビザを申請していたんですね。これは比較的新しい種類で、「不法滞在中に警官に暴力を受けた場合にその1件が片づくまで居ていいビザ」。宗教関係者のためなど、珍しいビザがあるのは知っていましたが、さすがにこの設定があること自体、驚きです。これを作る必要があるあたり、いまのアメリカの問題が凝縮されています。 つまり、21サヴェージの状況は彼ひとりの問題ではなくて、大げさに書けば今後のアメリカのあり方を争う問題になってきている。ジェイ・Zが弁護士を紹介して費用も出してあげる、とオファーしているのは、ええかっこしいとか目立ちたがりではなく、トランプに対する自分の姿勢をはっきり示したわけです。   <理由 2>先輩のスリック・リックは大丈夫だった。 この1件でスリック・リックを思い出した人は、年季の入ったヒップホップ・ファンですね。ストーリーテリング系ヒップホップの祖として、80年代に活躍した人ですがゴロツキみたいなボディーガードと揉めて、殺人未遂で有罪になります。イギリスからの移民であることから、強制送還されて、2度とアメリカには入れなくなりそうだったのですが、デフ・ジャムのラッセル・シモンズを始め、ヒップホップ・コミュニティーが全力でサポートして食い止めました。この例があるので、すでにサポーターが続々出てきている21も大丈夫じゃないかな、と。相手が悪かったとはいえ、法的にはスリック・リックのほうがまずいことをしていますし。   <理由 3>サヴェージには子どもが3人いる。 まだ26歳ですが、サヴェージさんはすでにアメリカで子どもを3人作っています。最近、一緒にA Lot(名曲!)を作ったJ.コールがツィッターで   「Praying for 21 savage let that man be with and provide for his kids.」 「21サヴェージが子どもたちと一緒に過ごし、養えるように祈っている」   とつぶやいたのは、アメリカ人を生んだ外国人は優遇される背景があるのをやんわり指摘しているわけ。あいかわらず、賢い。外国人が合法的にアメリカに住むためには、アメリカ人と結婚するなど「家族」になるのが一番、早くて確実です。偽装結婚も多いため、それが認められるかはまた別の話ですが。   まとめ 先に書いたように、不法移民と「ビザを待っている」状態の移民の線引きはとてもあいまいで、移民政策が厳しいのが売りのトランプ大統領は、見せしめのために締めつけを厳しくするのが大好き。いまもメキシコとの国境に壁を作る費用で国会が麻痺したままになっています。トランプ大統領「前」だったら国外退去は免れたはずの21サヴェージを、無理やり追い出したらすごい反発を食らうのは必至で、さすがにそれは避けるんじゃないかな、と思うわけです。   とりあえず、ラッパーとしても人間としても覚醒した感がすごい、『 I am > I was』(意訳:昔の俺より今の俺)を聴きながら、続報を待ちましょう。... Read More

ラッパーの語彙力を数値化したすてきなグラフが登場しました

USのサイト、The Puddingでマット・ダニエルさんがラッパーの語彙力を数値化し、グラフ化するという偉業を見せてくれました。 なんて、なんてすてきな試み。FBでセレクターのあっちゃん ( @selectorArts )がリンクを紹介してくれて、それを開いて企画の意図を理解し、ラッパーの顔をクリックするたびに数字が出てくることを発見したときのカタルシス。これだけで、何時間でも遊べそうです。 でね、Twitterで紹介したらバズったのはいいんだけど、私、unique wordsをふつーに「珍しい言葉」、って解釈したんだけど(3万5千字のうち、独自の単語を入れた回数)、よくよく読んだらシンプルに「単語数」って話なのね。解析ソフトを使ってひたすら数えたらしい。マットさんすごい。   ごめん、ごめんなさーい。   ただ、結果的には珍しい言葉を使っている方が語彙数は上がるわけで、最初の解釈でグラフを見て結果は同じです。でも、まぁ罪滅ぼしをします。英語のサイトなので、より理解できるようにポイントだけ訳しますね。ガイド代わりにどうぞ。   ・最初の公開は2014年。今回、リル・ウージー・ヴァート、リル・ヨッティ、ミーゴス、21サヴェージら、75人の新しいアーティストを加えて再公開。   ・ルールは各ラッパーの35000語(アルバム3〜5枚分)の語彙数をひらすら数える、というもの。ビギーやチャンス・ザ・ラッパーみたいに35,000語分のマテリアルがない人は入っていない。   ・最近のアーティストは語彙が少ないけれど、ヒップホップがバカになったのではなく、ちゃんと進化はしていて、複雑なリリシズムを追求するより、従来のポップミュージックにより近くなっている。例としてはリル・ウージー・ヴァートの2556語はビヨンセの2433語に近い。また、チャイルディッシュ・ガンビーノみたいにヒップホップに収まりきらない曲を作るアーティストと、言葉詰め込みまくりのウータンのアルバムを比べるのもあまり意味がない。   ‥なるほど。その後はエイソップ・ロックやバスドライバーといった異常な語彙力の人や、ウータンのメンバーはやっぱりすごいねー、とか、アウトキャストとE-40は造語や流行語を作った達人なんだよー、みたいな話が続きます。   で、最後ジェイ-Zのリリックを引用。   I dumbed down for my audience to double my dollars They criticized me for it, yet they all yell “holla” If skills sold, truth be told, I’d probably be Lyrically Talib Kweli Truthfully I wanna rhyme like Common Sense But I did 5 mil – I ain’t been rhyming like Common since   俺は聴き手のためにわかりやすくやって稼ぎを2倍にした/それで批判されたけど、みんな「ホラ!」って叫んでたじゃん/もしスキルで売れるなら、正直タリブ・クウェリみたいなリリックを書くし 本気でコモン・センスみたいにライムしたいよ/でも500万枚も売って以来/コモンみたいにはライムしていない(池城訳)     ‥タリブさんとコモンさんをほめてんだかディスってるんだかわからないですが、このふたりに対する憧れみたいな引け目は、あの世代のMCは多いようです。私も50セントに面と向かって「俺だって、コンシャスな面があるからコンシャス・ラッパーなんだ」って暗にタリブさんたちを意識した発言をされたことがあります。   あ。話が逸れた。   ヒップホップにの変容についても、「語彙数が少ない=ラッパーとしてはダメ」ではない、という主張も、私は賛成です。言葉がシンプルでも、組み合わせで深いリリックを書く人もいるし。でも、面白い言葉を詰め込んだ言葉多めのヒップホップの方が好きかな。 The Puddingのグラフを楽しくクリックしつつ、今週も乗り切っていきましょう。... Read More

『サバイビング・R.ケリー』を観て。

『サバイビング・R.ケリー』、観ました。6回シリーズ全部。哀しくて辛くて、エピソード5では号泣して、どっと疲れたけれど観てよかったです。フライング気味で予測すると、9月に発表されるエミー賞(テレビ/配信版アカデミー賞)のドキュメンタリー部門は、制するんじゃないかな。 アメリカのアマゾン・ビデオではストリーミングで販売していますが、日本はまだです。私はDaily Motionで観ました。ほめられた鑑賞法ではないけれど、先に見て、ここで案内をすることに意義があると考えたので。 R.ケリーは極度の飛行機恐怖症のため、来日公演も、プロモ来日もしたことがありません。ラスベガスのプレス・ジャンケットでも、シカゴから側近と一緒にバスを貸し切ってやってくるレベル(おまけに、途中で引き返してまたUターンしたので、ニューヨークから飛んだ私はめちゃくちゃ振り回されました)。それもあって、ほとんどの日本の人にとっては「曲は知っているけれど、歌っているところや話しているところは見たことがない」アーティストでしょう。90年代から00年代前半までが全盛期なので、ここ数年で洋楽、R&Bを聴き始めた人は、代表曲以外、ほとんどピンとこない存在かもしれません。 このブログは3つに分けて書きますね。   <R.ケリーの功績> あまり馴染みのない人のために、超ざっくりとR. ケリーのアーティスト性と音楽性について(長年のファンの方は次に行ってください)。R.ケリーはシカゴ出身のシンガー・ソングライター/プロデューサーで、ニュージャック・スウィングの流行が終わりかけた頃にR.ケリー&ザ・パブリックアナウンスメントでデビュー。93年にはとっととソロになって『12 Play』でデビューし、R&Bの流れを変えました。以来、ヒップホップといい距離感と関係を保ちつつ、14枚のスタジオ・アルバムをリリース、数々のヒット曲を放ちました。ジェイ・Zとは『The Best of The Both Worlds』を2枚作っていますが、ジョイント・ツアーの頭、マディソン・スクエア・ガーデンの公演でジェイ・Zの側近がR.ケリーを襲う、という事件があって、二人の関係は良好とは程遠いです。巨大なMSG全体が妙な空気に包まれる、変なコンサートだったことはよく覚えています。 R.ケリーは95年、マイケル・ジャクソンに「You Are Not Alone」を書いて、人気復活に力を貸したほどのソングライター、プロデューサーです。マイケルは特別な存在だったようで、ふたりが一緒の車に乗っている映像をコンサートで流していました。 メロディーの作り方と作詞力において、彼は天才です。それは、まちがいない。歌唱力はあとからついてきた感じ。ライヴでもすばらしい歌唱を聞かせるときと、大味なときがありました。曲のタイプは大まかにふたつ。『12 Play』でぶち上げたストレートに性的な音楽と、「I Believe I Can Fly」や「I Wish」、「The World Greatest」 に代表されるゴスペルを取り入れたインスピレーショナルな曲ですね。セクシュアルなR&Bは、ベビー・メイキング・ソングスという呼び方もあります。冗談ぬきで、R.ケリーはアメリカの出生率の0.001%くらいは影響を与えていると思う。 映画の主題歌などのインスピレーショナルな曲でのクロスオーヴァー・ヒットで、彼はアメリカを代表するアーティストになりますが、持ち味としてはブラック・コミュニティーに根ざした、非常に「黒い音楽」を作る人です。「Step In The Name of Love」など、結婚式など人生の節目でかかりやすい曲も多く作っているので、自分の人生のBGMとして彼の音楽に思い入れがある人は多い。今回のドキュメンタリーが放映されて、「それ、犯罪でしょ」な私生活が暴かれても、にわかに受け入れがたいファンが一定数いて、それは今後も変わらないように思います。 それにしても。R.ケリー、カニエ・ウエスト、そしてオバマ大統領を生み出したシカゴって濃い街ですね。   <番組の構成> 『サバイビング・R.ケリー』の話を。あくまで「字幕をつけて日本で観られるようにしてほしい」がこのブログの趣旨なので、詳細は避けて、放映された暁に参考になることを念頭に置いて箇条書きにします。 ・エグゼクティヴ・プロデューサー陣の筆頭はドリーム・ハンプトン。ヒップホップのライターとして出発して、最近は本や映像の分野も手がけています。とても優秀な人で、私も彼女の文章が大好きです。ジェイ・Zの本、『Decoded』を共著した人でもあり。刑務所全廃論者で、少し極端ですが、このシリーズに関しては同じ女性として被害者の女性たちを励ましたことが成功した大きな要因でしょう。 ・コメントしている人たち:元妻のアンドレアさん、シンガーのスパークル、ジョン・レジェンド、チャンス・ザ・ラッパー、有名テレビホストのウェンディ・ウィリアムス、過去に交際した女性たち、現在カルトとのような生活をしている女性の親御さん3組、元取り巻き/スタッフの男性、R.ケリーのお兄さんと弟さん、『リズム&ブルース』の死を書いたネルソン・ジョージ大先生、トゥレなどの音楽ジャーナリスト、#MuteRKelly の運動を組織した女性たち、心理学者など50名以上。R.ケリーが、亡くなった母親の次に慕っていた恩師である音楽の先生も出てきます。余談ですが、レゲエのブジュ・バントンが刑務所に入るまでマネージャーを務めていた、私もよく知っているトレイシー・マクレガーが出てきてびっくりしました。ブジュとは離れたみたいですが、ずっと音楽業界で活躍しているのですね。 ・6つのエピソードを3晩に分けて放映したので、途中から見た人も話についていけるように、続けて見ると同じコメントや映像が繰り返されるので、わかりやすいです。完全な時系列ではなく、取材に応じた女性たちの話と、それを裏付ける写真を見せるセクションと、#MuteRKelly 運動の広がり方とセクションが巧みに配されています。 ・2002年から未成年に手を出していることが問題になり、セックスビデオが出回り、裁判沙汰にまでなったのになぜ捕まらなかったのか、ここ数年でさらに過激な暮らし方をしているのが暴露されても、なぜ、コンサートなど音楽活動にしばらく支障がなかったのか。私たち一般人の感覚では不思議な点の解答を一つずつピンポイントで用意。「被害者が黒人女性だから、見過ごされてきた。白人女性だったら大騒ぎになっていた」というコメントがとても重かったです。 ・音楽家としては天才ですが、ロバート・ケリーは典型的な超浮気者のDV男です。大人の女性と普通の(もしくは、そう見える)恋愛をしている影で、10代の女の子にも近づく。相手の自由を奪い、言うことを聞かなかった手をあげて、食事もさせないなどゾッとするエピソードが繰り返されます。示談金を積んで被害届を出させないようにしたため、罪状はChild Pornography(児童ポルノの所有)止まりでしたが、この番組の主題は、Sexual Predator(性的搾取者/性犯罪者)ではないかであり、今後はその線で捜査されるでしょう。 ・詳細は避ける、と書きましたが、私が号泣したシーンについてだけ。洗脳され、軟禁状態でR.ケリーと暮らしている娘(R.ケリーの意向で男の子の格好をさせられていました)がホテルにいることを突き止め、カメラ班と救出に向かったお母さんの再会シーン。すぐには一緒に出られなかったのですが、お母さんは戻った車の中で、うれし泣きをするんですね、2年以上会えなかった娘が無事だったことに。淡々としながら、すごい映像でした。
一緒に写っている写真をアップするのは違う気がするので、インタビューテープで。カセットにMDってめちゃ古いですね。
  <反響、洗脳事件の行方/考えたいこと> 3人いるR.ケリーのお子さんのうち、長女が「父はモンスターだ」とコメントしたり、彼と「Do What U Want (With My Body)」を作ったレディ-・ガガが「浅はかな決断だった」と謝罪したり、なによりも警察が動き出したりと、反響は大きいです。R.ケリーは女性たちと国外脱出を試みた、とか、シカゴのトランプ・タワー・ホテルにこもっている(すごい場所のチョイス)というニュースも飛び交っています。 一方で、数年前のインタビューで、彼自身が子供の頃に親戚の大人からレイプされている、と告白しているので同情的な見方をする人もいます。R.ケリーの性癖についてのニュースは、15年前から続いているため、慣れてしまって受け手が麻痺している面もあるようです。私自身、10年以上その状態だったこともあり、ほかの人の反応についてジャッジしたくない、と思っています。 R.ケリーはずっと前からPied Piper in R&B「R&B界のハーメルンの笛吹き」(ハーメルンの笛吹きは、どこからともなく現れた笛吹きの音に合わせて、村から子供がいなくなってしまった中世の事件です)と言っていて、それを実行してしまったわけです。アリーヤの出世曲、「Age is Nothing But Number(年齢なんてただの数字)」もいい曲ですが、彼女が実際、どんな経験をしたのか考えると恐ろしい曲です。 一方、R.ケリーが形作った音楽の潮流を完全に無視できないし、影響を受けたアーティストの活躍はそのまま応援するつもりです。ただ、彼本人は「罪を憎んで人は憎まず」を適用するには、あまりにも罪状がひどい。今度こそ裁かれて償ってほしい。これは、彼がモンスターから人間に戻る唯一のチャンスだと思います。 私自身が取材したときの話はそのうち書くかもしれないし、書かないかもしれない。番組に出てくる赤レンガのスタジオ、チョコレート・ファクトリーの中で何時間も待たされたのは辛かったけれど、それどころじゃない、怖い場所だったんだな、と番組を見ながら思いました。R.ケリーがあまり文字を読めないことは、取材のときに気がつきました。ドキュメンタリーに出てこなかった、彼を発見して契約にこぎつけたジャイヴ・レコーズのウェイン・ウィリアムスには、音楽ライターとして親切にしてもらいました。彼の「(R.ケリーは)街角で歌って小銭を稼ぐような生活をしていたんだよ」という言葉は忘れられません。   この番組でもっとも印象的だったのは、実際にR.ケリーと交際した女性たちが自分の弱さを認めながら(泣き出す場面も多いです)、どういう心理状態だったのか振り返って話していること。すごい勇気だと思いました。   世界的なスターと恋愛することはめったにないけれど、立場が自分より上だったり、好かれたいと思っていたりする相手に、不本意なことをさせられたり、不利な条件を飲まされたりするケースはだれでもあると思います。#MeToo(私もやられた)や#TimesUp(はい、そこまで/もうおしまいにしよう)のムーブメント、日本の「忖度」という言葉の流行などもぜんぶ繋がっているように感じます。 SNSの時代は、身近なアイドル、憧れの対象がどんどん増える時代です。その対象のイメージに近づきたい、という目標を持つのは素敵ですが、それで無駄なお金を使ったり、自分の価値を下げたり、気持ちを削ったりするところまで行くのはおかしいです。この番組は極端な例であるものの、被害者の心理を理解することは、自分を守るために役立つのではないでしょうか。「R.ケリーに言われれば、ノーとは言えない」という言葉が、事件の元凶を物語っていました。不祥事が起きたときに、役人や大企業の人が上司の罪をかばって自殺してしまうケースを、私はずっと理解できないでいたのですが、ふだんから抑圧されると、逃げられなくなる心理をこの番組で少しわかった気がします。私たちは、そんなに強くない。そういう意味でも、いま作られるべき、話題になるべきドキュメンタリーでした。 蛇足ながら、このニュースの波紋が大きくなるにつれ、R&Bそのものにネガティブなイメージがつくのは避けたい。たしかにR.ケリーはものすごい大物ですが、彼の音楽を避けても、まったく支障ないです(私調べ)。2月はエリック・ベネイが、3月はジャネット・ジャクソンが来日するので、楽しみにしています。   『サバイビング・R.ケリー』、日本で字幕付きで観られる日が早くきますように。  ... Read More

さよなら、R.ケリー

恐れていたことが、いや、心の中でわかっていたことが現実になりました。 アメリカのケーブルテレビ局、LifeTimeで<Surviving R.Kelly>が放映されました。ずっと問題になっている、R&Bシンガー、R.Kellyの女性関係に焦点を当てたドキュメンタリー。元妻などを含む女性のインタビューが目玉らしい。日本では見られませんが、1時間番組が6回ですから、けっこうなボリュームです。これまでもちょくちょく出ていた話ではあるものの、現役のアーティストの過去と現在の素行について、大々的なドキュメンタリーが作られるのはかなり特殊な事態です。ケーブルテレビとはいえ、LifeTimeはディズニー/ABC/ハースト/A&E傘下のしっかりした局で、北米ではネットや携帯など、この系列と契約している人ならまず観られます。 ドキュメンタリーの体裁を取っていますが、客観的に「どう思う?」という問いを投げかける内容ではなく、告発が目的。今日になって、実際に警察が家宅捜査に乗り出したようです。 元嫁のアンドレアさん、90年代にR&Bを聴いていた人なら覚えているスパークルなどもインタビューを受けています。youtubeで宣伝の映像と、アンドレアさんがほかの番組に出演した映像は見られます。キング・オブ・R&Bとまで呼ばれたR・ケリーが多くの女性たちに肉体的に、精神的にどう痛めつけてきたか、彼女たちの口から語られています。 番組の内容は、27歳のときに、まだ15歳だったアリーヤ(2001年に飛行機の事故で夭折したシンガーです。ドレイクの憧れの人)と極秘結婚していたあたりから始まって、00年代の未成年の女子と肉体関係を持って裁判沙汰になったこと、そして、現在は複数の女性と監禁&洗脳状態で一緒に住んでいることあたりが取り上げられています。   3つ目の話は私もブログで書きました。 数年前、アンドレアさんがプリンスの元嫁のマイテさんとリアリティTVに出たときの話はこちら。 番組名を意訳すると「R.ケリーとの日々を生き抜いて」。R.ケリー側は放映を差し止めようと動き、それに失敗したいまは訴訟を起こす、とコメントしました。 でも、しないと思う。というか、できないでしょう。 相手は成人女性だし、本人が「自分の意志だ」とビデオでコメントしている以上、違法性はないと主張していました。でも、いまでもR・ケリーと一緒に住んでいる女性の親御さんが本気で闘っていて、家宅捜査も彼女たちをとりあえずR.ケリーから引き離すためらしい。   以前も書きましたが、私は3作前あたりからR.ケリーの音楽を聴けなくなってしまいました。それでも、おとといから胃のあたりが重いのです。 90年代から彼の音楽は、私の人生のとても大事な部分にありました。伊藤弥住子さんと並んで、日本人で一番多くインタビューをしているはずだし、記者会見やパーティー、試写会などで、ほぼ毎年会っている時期もありました。なによりも、いちR&Bファンとして彼の音楽が大好きでした。コンサートにも足繁く通いました。 未成年とのセックスビデオ流出事件のときも、ビデオを観ないことに決め、取材の依頼があれば「私の仕事は彼の音楽について伝えることで、私生活を裁くことではない」というスタンスで、事件について触れつつ、基本的にアルバムに出来とアメリカでの受け入れられ方について書きました。これを、思考停止状態と謗られるのなら、その通りです。 いま、それについて反省や謝罪があるか、と問われれば、正直、自分でもよくわからないのです。おかしい人なのは、わかっていました。取材に使うはずのホテルのスイートをぐっちゃぐちゃにして使い物にならなくしたり、周りにイエスマンしかいなかったりする状況を目の当たりにしました。それでも。裁判になりそうになっても、全部、示談金を支払って済ませてしまったので、アメリカのレーベルの人に「お金目当てでふっかけてくる人でも、イメージの問題ですぐ払ってしまうようだ」と言われれば、そんなものなのか、と。 仮にいま、目の前にタイムマシンがあったとして、張り切って取材やパーティーに向かっている当時の私に会いに行けたとします。それで、昔の自分に「その人、本物の性犯罪者だよ」と注意するチャンスがあったとしても、未来からきた自分の老け具合にげんなりはしても、その言葉を真に受けて「わかった、関わるのやめる。仕事も断る」とは、言わなかったと思うのです。だって、舞い上がっていたから。だれよりも早く新作の音を聴ける、大好きなアーティストに会える、という状況に。 SNS時代は、事件に対する姿勢、コメントのお手本が示され、それに追随するのが正しいです。今回のお手本は、一緒に曲を作ったことを公に謝罪したチャンス・ザ・ラッパーと、番組内で「偽善者だ」とコメントしたジョン・レジェンドです。 このふたりの反応はまったく正しい。正しいけれど、みんなが同じ反応でなくてもいいように思います。予想以上に深刻な状況に、ショックを受けている人もいるでしょう。R.ケリーに曲を書いてもらったR&Bシンガーはたっくさんいるし、コラボしてヒットを生み出したラッパーもたくさん。その人たちが一斉にR.ケリーを糾弾して指をさしても、その指先に自分がいるような気になるでしょう。実際、私はそういう気分です。 度重なる示談で、法の目をかいくぐることを覚えてしまったことが、とにかく残念です。00年代のどこかの時点で有罪になっていれば、R.ケリー自身も事の重大さがわかったかもしれない。 いまのR&Bや、R&Bのフレーバーを取り入れたポップで、R.ケリーのサウンドとつながっているものはあまりにも多いのです。クリス・ブラウンやトレイ・ソングスあたりは、R.ケリーに対する憧憬をそのまま曲にしているし、全く関係なさそうなザ・ウィークエンドでさえ、Die For Youのメロディーは完全にケルズ印です。 #MuteRKelly のハッシュタグをつけて、彼自身の音楽を聞くのをやめても、彼の影響をミュートするのはとても難しい。ぬぐいきれないR.ケリーのDNAが入った音楽を享受しながら、ハッとして苦い思いをする。これからは、そのくり返しになるかもしれません。 番組放映後、R.ケリーの作品のストリーミングでの再生回数が爆発的に増えたそうです。そういう時代なのですね。 R.ケリーの曲を聴いたら、どんな気持ちになるか。試してみたところ、「ムリ!」と拒否反応が出ました。ドネル・ジョーンズやジョーを代わりに聴いて、落ち着きましたが、翌朝には頭の中を“Ignition”のリミックスがガンガンかかっていて。やっぱり染みついている、とがっかりしました。 元ファンとして、今度こそ捕まってほしいです。 着地点がない文章を読んでいただき、ありがとうございました。          ... Read More

マライア様 さいこう

再考&最高 のダブルミーニングでいきます。 マライア・キャリーの来日まであと数日。説明不要のスーパー・ディーヴァ(久々にこの言葉使ったわ)、48歳になっても超高音のソプラノ・ヴォイスを轟かせているとか、やはり超一流です。おっと、一文に「超」を3回も使っちゃった。反則。 高い声って、ふつう出辛くなるんです、年齢を重ねると。  

来日記念ベスト盤。胸元がザ・マライアさんです)... Read More

来日直前! チャンス・ザ・ラッパーに関して「へぇ!」な7つのこと

今週末、とうとう、チャンス・ザ・ラッパーが初来日しますね! ということで、予習代わりに「こんな人なんだよ!」ってのを書いてみます。   題して、チャンス・ザ・ラッパーに関して「へぇ!」な7つのこと、挙げてみましょう。   1 高校生の時、停学を喰らって、その10日間のことをミックステープ『10 Day』(作品)にして世に出てきた   2 同じシカゴ出身のカニエ・ウェストに多大な影響を受けている。ものの、カニエからGOOD Music入りへ誘われたらあっさり断った   3 13才頃、オバマ元大統領に直接、「ラッパーになるんだ!」と宣言した有言実行野郎   4 ほぼ同じ顔のとーちゃんと弟がいる   5 ジェイ・ZからJコールまで同業者みーんなが心底羨むものを持っている   6 広告一つでグラミー賞のルールを変えた   7   『Coloring Book』の本質はゴスペル・ラップである   解説していきましょう。   1は有名なエピソード。学校でマリファナを吸って停学になったそう。それから、以前は精神安定剤のXanaxを摂っていたこともラップしています。アメリカで睡眠薬や精神安定剤を本来の効能以外の目的のために手を出す人は、ほんっっとうに多く、社会問題になっています。チャノ(アメリカでのニックネーム。呼びやすいので広めます)もその道は通ったわけです。娘が生まれ、父親になって神様の存在を改めて感じ、『Coloring Book』ができた、という流れ。   2 カニエとの関係。子供の頃はそれほど熱心なヒップホップ・ファンではなかったけれど、カニエのThrough The Wireを聞いて、天啓を受けてラッパーを志したそう。チャカ・カーンの同名曲を大胆に敷いた名曲で、私も2004年のベスト1に選んだ記憶が。いつ聴いてもかっこいいし、この曲がチャノの原点になっているのも納得です。 そのカニエですが、2作目『Acid Rap』後に起きたレーベル争奪戦に参戦、 彼のレーベルGOOD Music入りを勧めたそう。レコード会社による何度目の契約金競争が激しい時期で、ASAPロッキーが300万ドル(超ざっくりで3億円)もらったとか、よく話題になっていました。ここに乗らなかったあたり、チャノの強さがあります。カニエとは仲が良く、『Coloring Book』のオープニングAll We Gotはカニエから「手伝うよ」という電話があって実現したそう。美談。   3、4、5は基本的にぜーんぶ同じ話。チャノ太郎(勝手に拡げてみました)は、上院議員時代、オバマさんの元で働いていたお父さんのケンさんがいます。「お父さんのボス」だったオバマさんに会った際、将来はラッパーになりたい、と言ったところ、「ワード」と返ってきたとか。wordは、「なるほど/よく言った」といった意味で、ポジティヴな同意の時に使います。まぁ、スラングだけど。オバマさん、カッコいいです。   Summer Friendsで本人もラップしているように「俺の友達、みんなお父さんがいない」中で、人生の指針となる父親が、チャンス・ザ・ラッパーことチェンセラー・ベネットにはいます。父親がいなくても周りに頼りになる叔父さんや祖父がいることもあるし、お母さん一人できちんと育て上げるケースは多々あります。一括りするのは乱暴であるのを認めつつ、アメリカのヒップホップ・カルチャーを語るうえで、父親の不在の問題は大きいことは指摘したい。ジェイ・ZもJ.コールも50セントもそれをテーマにした曲があるし、彼らの生き方に多大な影響を与えています。   アートにしてもスポーツにしても、目指す師匠や先輩を見つけて目標にし、最終的に超えることで成長するストーリーが背景にあることが多いですよね。ヒップホップはこのサイクルが早いうえ、関係性が濃い。まぁ、この話は別の機会に深くするとして。   チャノみたいにレコード会社から契約の話が来たような大事な局面で、的確なアドバイスをしてくれるお父さんがいるのはとても珍しいし、ほかのラッパーにしてみれば、契約金の額よりもグラミー賞よりも羨ましい土台なのです。私は、彼の屈託なさ、25才とは思えない安定感もそこから来てるかな、と思っています。   弟のテイラー・ベネットも注目株のラッパーです。   6も有名な話。彼は音源に値段をつけず、フリーで売り出したため、グラミー賞の規定に外れてノミネートされない雲行きになった際に、ビルボード誌に掲載した意見広告がこれ。   「ヘイ、俺だっていいじゃん」   からの、なぞのウセイン・ボルト・ボーズ   ‥‥憎めないぃぃ。   これで、みんな「だよね、いいんじゃね?」、「ノミネートしちゃう?」からの、「ノミネートならいいよね?」で、見事に受賞(半分、想像)。   グラミー賞だってテレビ番組のひとつなので、彼みたいに直前に話題を作ってくれるアーティストは大歓迎なのです。   チャンス・ザ・ラッパーの魅力を端的にいうと、アーティストとして、人間として、頭とセンスがめちゃくちゃいいこと。   性格ははっきりしていて、相手が大巨匠の映画監督、スパイク・リーだろうが、ミックテープ時代(って、いまもある意味そうなのですが)に散々世話になった、シカゴの(元)ドン、R.ケリーだろうが、言いたいことがあったらハッキリ、ズバリ言います。   言動を見ると、わりとキツい人です。   でも、それを補ってあまりある愛嬌。   私は、個人的に顔がコミカル系でよかったな、って思っていて。これでイケメンだったり強面だったりしたら、共感指数がぐっと低くなった気がします。   彼がどんな人間か、育ちなのか。私はAngelのこのラインを聞いた時、ハッとして理解しました。   I ain’t change my number since the seventh grade   「中1から(携帯の)電話番号を変えていない」   中1から携帯を持っていたことがまずひとつ(珍しくはないけど、早いです)。00年代はアメリカも携帯会社の顧客争いがピークで、キャッシュバックとか半年だとかに惹かれてしょっちゅう番号を変える人がいました。途中で番号を持ち越すことができるようになったのですが、ほかならぬ私も「絶対に番号を変えたくない」という信念のもと、まぁまぁがんばって誘惑に打ち克ったほど。   だから、このラインで「あ、10代から頑固だったんだな」と。経済的に、精神的に安定していたんだな、と、合点が行きました。   7 私が強調するまでもなく、『Coloring Book』(塗り絵!)は大傑作です。この作品では、ラップと歌の割合が半々というのも新しかった。   ゴスペル・ラップ、というのはクワイヤー(聖歌隊)やゴスペル・アーティストの超大御所、カーク・フランクリンを投入している点ももちろん、全体に流れるテーマが「信仰」だから。Mixtapeみたいにヒップホップに対する思いや、Smoke Breakみたいにいっしょに緩もうぜーな曲もバランス良く入っていますが、全体の感触がゴスペルです。   彼が生まれ育ったシカゴは全米平均より黒人人口の割合が高く(4割近く)、教会の数も多い。カニエ・ウェストにしてもチャンス・ザ・ラッパーにしても、キリストの存在は「新発見」ではなく「原点回帰」のはず。   この二人のタッグ、実現してほしいです。... Read More