マライア・キャリーの自伝『The Meaning of Mariah Carey』が邦訳されるべき6つの理由

「マライア・キャリーは、黒人である」。これを読んで驚く、日本のファンはまだ多いでしょうか。正確には、アフリカ系の父と、アイルランド系の母をもつ、バイレイシャル––「ハーフ」という言葉は少しネガティブな響きを含むので、私は「バイレイシャル」が定着してほしいです––つまり、ふたつの人種に属する人で、  先日、全豪オープンを制した大坂なおみ選手や、バラク・オバマ元大統領もそう。昨年の12月に発売以来、ファンの間で大反響を巻き起こしている自伝『The  Meaning of Mariah Carey』(直訳;マライア・キャリーの意味 意訳;マライア・キャリーであること)は、その前提をまず頭に叩き込んで、彼女の子ども時代の苦労も、ヒップホップ・カルチャーへの思い入れも理解できる構成になっています。... Read More

書評『NYの「食べる」を支える人々』

何を食べるか。どこで食べるか。誰と食べるか。 食事に関するあれこれを「楽しい」と感じるか、「めんどう」と感じるかで人生の捉え方そのものも変わってくるように思います。 食べることに対して雑な人は、生き方もどこか雑な気が。と言いつつ、私は準備が丁寧すぎたり、贅沢すぎたりする人もかみ合わない。その塩梅がピッタリ来る人は、貴重な存在。 1年半前、ニューヨークのレストラン・ガイド『ニューヨーク・フーディー』を出版しました。取材は、2015年の冬から2016年の春にかけて。一番、時間と手間をかけたのが、取材先の店選び。取材そのものは一気呵成にやり遂げました。その半年にも満たない時間で舌が鍛えられ、カロリーと体調の関係(肥えました)、サーヴィスと味の関係など、いろいろな角度で外食を考えた結果、たどり着いたのが「店選びは妥協してはいけない」という結論。 長く続いているお店は長く続いているだけの、人気爆発のお店は列になるだけの理由があります。例外。テレビでプッシュしたお店がいまいちなのは日本もアメリカも同じ。 少し前に、『ニューヨーク・フーディー』の似ている本を並べる、という店頭展開があり(出版社さん、ありがとうございます)、そのとき、この本に出会いました。 『NYの「食べる」を支える人々』。フィルムアート社刊行。 著者は、気鋭のノンフィクション作家、アイナ・イエロフさん。訳は、石原薫さん。綿密なリサーチと取材をもとにした、ずっしりとした本です。とはいえ、シリアスではなく、オーナー、シェフ、ウェイター、席まで案内する係(超人気店では重要なポジション)の話を掘り下げ、ニューヨークの食事情がわかる仕掛け。タイトル通り、「人」にフォーカスしています。一流どころのシェフだけではなく、刑務所で囚人のための食事を用意する人まで多岐に渡ります。前半は、世界各国から移住し、皿洗いからスタートして頂点まで上り詰めた人の話が多い。レストランの仕事は、労働時間が長く、きついです。「好きでないと続かない」という言葉がなんども出てくるように、適性がなければ続かない。 紹介されているお店(施設)は50弱。『ニューヨーク・フーディー』と重なっているのは系列も含めて5つだけ。私が行ったことがあるところは、16カ所(刑務所のカフェテリアには入れないですし)。テーマが被っているわりには、少ない感じがしますが、ニューヨーク市には1万の飲食店があるのだから、高確率かと思います。移民が持ち込んだ故郷の味をコアの部分は守りつつ、素材や料理法をアップデートして(健康的にして)広まっているのが、ニューヨークの食の醍醐味。僭越ながら、私もその部分を伝えようという意図がありました。イエロフさんのこの本は全編、その話です。 この本は、ニューヨーク好きの人はもちろん、板前さんやシェフ、飲食店の経営者の方にぜひ読んでほしいです。国や文化を超えて、すごくわかる部分があるはず。巻末の用語説明も勉強になります。 おまけ。ゴールデンウィークから夏にかけて、ニューヨーク旅行に行く方には拙著『ニューヨーク・フーディー』をおすすめします。電子書籍もあります。 本物はだれだ!  ... Read More

Give Thanks! Woofin’

Woofin’が休刊になりました。   創刊号は1999年。メソッド・マンが表紙でした。黒系音楽誌のbmrとFront(かBlast)が売れていた時代で、記事もどんどん濃くなる中、ファッションを中心にした軽やかな誌面で、ヒップホップ・カルチャーにつま先から入りかけた10代はずいぶん間口が広く感じたのではないでしょうか。   Woofin’は、初心者には敷居が高かった専門誌より、ぐんと身近で手に取りやすかった。その一方で、音楽の出版社が出しているだけあって、短くてもシッカリした信頼できる記事が掲載されていました。   夏以外はほとんどの商業誌に半無視されていた(ええ。ホントに)レゲエにも積極的でした。私が書き始めたのは、02年か03年。ショーン・ポールやエレファント・マンが売れて、ダンスホール・レゲエが大流行りした時期ですね。   連載の『Minako Ikeshiro Labba Labba Train』は05年の5月から。Mighty CrownのSami-TやRyo The Skywalker、Murasakiさんなどすでにレゲエ寄りの連載があるなかで、海外発のレゲエ情報があってもいいのでは、と里帰りのときに私が声をかけたのが実現しました。   実は、夏季限定で「とりあえず3か月やりましょう」という話だったのです。それが、案外好評だったそうで、今年の6月まで11年にわたって走り続けました。あとの118回はおまけだったのかも。タイトルにMinako Ikeshiroと入れていただいてとてもうれしかったのですが、ほかの連載同様、顔出しをせず客観的に書いていたのが、結果的に男性向けの雑誌で浮かずに続けられた理由かもしれません。顔を出さなかったのは、SNS時代になじんでいるようでそうでもない、古いタイプのライターであるのも大きいのですが。   そうそう。デザインがリニューアルされるまで、スプレー缶のグラフィティで、タイトルと列車の絵がが入ったキャップの写真を掲載していました。あれ、King JamのHajiの作品です。その頃、ハーレムでTシャツやキャップに絵を描いて学費を稼ぐくらい、上手だったのです。   Jay-Z、ダミアン・マーリー&ナズの巻頭インタビューができたのもうれしかったなぁ。私はR&Bとヒップホップの記事はbmrに書くことが多くて、そのあたりをWoofin’で担当していた石川愛子ちゃんと取材や出張でよく一緒になりました。アトランタでP・ディディによる市内引きずり回しの刑にあったり、R・ケリーinラスベガスで思いっきり迷子になったりしたのもいい思い出。愛子ちゃんとは、「女性アーティストの話し方を毎回“〜よね”、“〜だわ”、“〜かしら”と訳するのはおかしい」と大マジメに話し合ったっけ。エリカ・バドゥやリアーナなんか、軽くべらんめぇ口調ですし。   『Labba Labba Train』は、私の連載では、bmrの『Oh! My Bad』の次に長く続きました。歴代担当者の井口さん、茂木さん、竹脇さん、編集長の上木さん、瀧さん、大変、お世話になりました。「クラッシュの話は濃すぎるのでは」とか、「読者さんと年齢が離れて、実像がよく見えてないな」などと悩んだことも。Woofin’編集部はとにかく優しくて、そのたびに「大丈夫です、濃い方がいいんです」となだめてもらっていました。 11年間で一度だけ、「もう降りますね!」とブチ切れたことがあります。なんて書くと、激しい人みたいですが、海外だと取材の設定やフォトパスの入手もライター自身で行うケースがあり、その苦労が伝わらなくて困ったのです。似たような事件がほかの雑誌でも2回あったから、「海外在住ライターあるある」かもしれません。それだけ腹を割ってやり取りができたのは、ありがたかったです。

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寅さんと、『コンビニ人間』

『ニューヨーク・フーディー』の発刊準備で鬼のようにメールを打ちながら(いよいよ明日です)、歯医者さんに行ったり、ダイソーの品揃えにクラクラしたり、変な日本人として楽しく生きています。   アメリカにも99セント・ショップあるけど、品物の7割が「安かろう悪かろう」だから、決まったものにしか手を出せません。   その間、先の芥川賞受賞作『コンビニ人間』を読み、『男はつらいよ〜柴又慕情』を母と観ながら大笑いしました。   どちらも、社会の「ふつう」からはみ出した異端の存在が主人公。 結婚しない(できない)、家族に半分諦められている、でも基本的に自分を肯定している、との共通項はあるものの、40年もの月日で日本を代表する「はみ出し者」はこうも変わったか、とびっくりするくらい正反対。 一番大きな違いは、『コンビニ人間』の古倉さんは他人に興味がない。すべてに醒めているけれど、彼女の関心ごとは自分がどう見られるかだけ。自分、自分、自分。   一方の寅さんは、頼まれもしないのに人の世話ばかり焼いています。そして、自分の気持ちを押し殺して、おきまりの失恋パターン。   車寅次郎ワールドはザ・昭和だから、わかるかわからないかは世代差の問題だけれど(寅さんで大笑いできる10〜20代っていいな、とは思います)、『コンビニ人間』は、世代問わずほとんどの人が「現代を鋭くえぐり出している/現実的」との論評。   どうしよう。   私は、それがわからないのです。カリカチュアというか寓話だと捉えて読んでしまった。   小説としては、おもしろく読みました。「何がふつうなの?」という問いかけと、ふつうから外れた場合の息苦しさも伝わってきた。でも、あんなに紋切り型の「ふつう」な人たちって、それほど多いかな? ほかの人の生き方に口を出す人ってそれほどいないような。主人公が感じるプレッシャーは、「世間の常識」にこだわる自分自身がかけている気がしました。   作者の伝えたいことをはっきりさせるためだけに出てくる人々が多いのが、寓話っぽいと思った理由。   それより、極端なケースとはいえ、古倉さんみたいにマニュアル通りに動ける人の方がずっとたくさんいると思う。感じ方が少数派なだけで、彼女はいたってふつうだと私は思いました。内面と言動のズレも、多かれ少なかれ、みんな抱えている。どこに出かけても、歯医者さんの椅子に座っていても、私は「マニュアル通りの言葉」にしか出会わない。それが、いまの日本の「正しさ」であり、「ふつう」だもの。   フーテンの寅さんは、昔の不良のステレオタイプではあるけれど、マニュアルが全く通用しない自由人。時代が交差したとして、古倉さんと寅次郎で会話が成り立つか不思議です。  

 過度なマニュアル化が、日本人を100均の品物みたいに均してしまった。‥って月並みな結論だけれど、まぁ、そういうことなのでしょう。... Read More

『ニューヨーク・フーディー』発刊になります。

『NEW YORK FOODIE-ニューヨーク・フーディー〜マンハッタン&ブルックリン・レストラン・ガイド』
  を8月19日に出します。 詳細は、こちら。 『まるごとジャマイカ体感ガイド』を書いたあと、激選区ニューヨークにも挑むかー、と思ってから、1年半以上経ってしまいました。 うん、大変だったの。自分で言うのもなんだけど。 食べ物に特化したのは、出版社さんの意向です。最初は、音楽ライター目線のガイドブックを考えていたので、そこでまず1ヶ月悩みました。迷いながら、とりあえずリサーチしている最中に、 「とにかく流行っているお店に集中しよう! まだ日本にあまり紹介されていない店、スポット、食べ物ばかり集めよう!」 という方向性がはっきり見えたので、自分の中でゴーサイン。伝えたいポイントがあるのは、道標みたいなもの。ないと、進めないのです。 ここ数年、ニューヨークの食べ物事情がずいぶんと良くなっている、という実感があったので、それを伝えればいいのだ、という思いが道標になりました。 100軒以上行きました。 楽しくも、緊張感あふれる日々でした。取材先は人気店ばかり。混んでいるから、基本、お店の人は強気。もともと強気なニューヨーカーがさらに強気。 半分以上のお店に、友達が同行してくれて、助かりました(アズちゃん、みえちゃん、ステファニーありがとう)。 巻頭の写真ページは、柳川詩乃さんの素敵な写真を借りています。 中の写真は自分で撮りました(プロの方、お手柔らかにお願いします)。 実は、TWITTERで出版社さん(KANZENさんです)とつながった縁という点が、いまっぽい気がします。エリアで括らない作りにしたので、時差13時間の東京にいる女性担当者さんとあーでもない、こーでもないと試行錯誤で編集しました。 「いい本を作った」という自負はあります。 ニューヨークに行く人、住んでいる人はもちろん、食べ物に関するお仕事をしている人にもヒントになる内容かな、と思います。 なにとぞ、よろしくお願いします。... Read More

レゲエの勉強に役立つ本、ベスト5

先週は、ターラス・ライリーのインタビュー記事を書いて、改めて「ロックステディとは」とか、ずーっと考えていました。楽しくも、出口が見えない時間でした。本棚から、レゲエ本コレクションを引っ張り出してもみたり。 ドーン。
  大型本はうまく重ねられなかったので、写っていません。 「いけしろ、こんなに読んでいるんだぜー」が、主旨ではないです。 白状すると、英語の本の2冊は未読です。いわゆる、積ん読。最近は、ダウンロードするだけして、そのままになっている本もあって、「ダウンロー読」という言葉を考えついたり。 ここでおすすめ本を紹介しつつ、自分自身にも「途中になっている本をマジメに読みたまえ」と喝を入れようかな、と。今年は、リー・ペリーの本を読了したいです。 はーい。レゲエの勉強に役立つ本、勝手にベスト5、行ってみます。 第5位 『ダンスホール・レゲエ・スタンダーズ』(Tokyo FM出版)
  大石始さんが監修した、ダンスホールの入門書です。多角的な切り口で、レゲエの概要、アーティストと代表作の紹介などが掲載されています。 第4位『ルーツ・ロック・レゲエ』(シンコー・ミュージック)
  こちらは、鈴木孝弥さんが監修した、ルーツ・レゲエにフォーカスした本です。500枚以上を一気に紹介。ジャケ写を眺めていると、90年代の西新宿のレコード屋さんにタイムスリップした気になれます。 第3位『定本スクラッチ・ペリー』(リットー・ミュージック)
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  これも鈴木孝弥さんの監修。世界でも稀に見る、丸ごと1冊リー・ペリーという、ムチャクチャな本です(こういう資料本を作るのは、イギリス人かドイツ人か、日本人です)。ムチャなのですが、それで成立するのがリー・ペリーがリー・ペリーたる所以。私も参加させてもらい、アルバムの割り振りから細かくて、孝弥さんと担当編集者の服部さんのヤル気というか、鬼気を感じまじた。根がテキトーなイケジローは、編集サイドからの激しい突っ込みに途中で「もうムリ」と音を上げそうになったりも。ジャマイカでマックス・ロメオを見た翌日に、『War Inna Babylon』の原稿を書いたのは、いい思い出です。ペリー爺の作品に星をつけるという大胆不敵な役割を担ったせいか、ライター陣も鬼気と嬉々が入り交じったハイ・テンションな原稿が多い。エラい濃い本なので、体調のいいときに読んで下さい。 第2位『ベース・カルチャー レゲエ~ジャマイカン・ミュージック』(シンコー・ミュージック)
  1位と2位はだいぶ迷いました。イギリスのロイド・ブラッドベリーの著作で、翻訳は『レゲエ・マガジン』のメーン・ライターだった高橋瑞穂さん。ちなみに、アメリカではタイトルが変わって『This Is Reggae Music』になります(最初の写真の一番下)。たぶん、いま出ているレゲエの歴史を追った本の最高峰でしょう。丁寧で、偏りが少ない。この本の日本版があるのは、ほとんど奇跡なのです。あとで出て来る『ディ・レゲエ・ブック』の話をしたとき、出版社さんから翻訳の相談があったのですが、原文が装飾の多い、クセのある文体で、ゆっくり読み進めたくらいだったので、「そうですねー」と言ったまま逃げました。この難行を高橋さんがやってくれて、本当に良かったです。ぜひ、手に取ってみて下さい。 第1位『ルーツ・ロック・レゲエ』』(シンコー・ミュージック)
  これも鈴木孝弥さんの監修。「ほかにレゲエの本をまとめる人はいないのか?」という感じですが、孝弥さんは文章力、洞察力、編集能力すべてにおいて高水準なので、「それでいいのだ」とバカボン・パパみたいなオチになります。きちんとした本を1冊作るのは、気が遠くなるような作業で、それをやり抜く根気も必要。この本は、アルバムではなく、重要人物と重要事項を網羅していて、資料価値が高い。私も原稿を書く時に「あれ、どうだったっけ」と参照にしています。『レゲエ・マガジン』のインタビューの再録もあり。私はコラムでちらっとだけ参加しています。 おまけの番外編。『ディ・レゲエ・ブック』(シンコー・ミュージック)
  私の本です。2冊しか持っていないので、あと何冊か買い取ろうと思って編集部に連絡したら「もうないです」と言われました。つまり、絶版(涙)。本と雑誌の中間である、ムックという形を取って、流通に期限があったのから仕方ないのですが。8000部刷って、7000部くらいは売れたようです。出版社さんに迷惑がかからなくて、良かった。文章も写真も全部、イケジローというこれまた無茶な本です。おまけだったはずの「45の作り方」というおバカな体験談が思いのほかウケ、いまでも「読みました!」の次に言われるのは、大抵そのページです。 ベスト5はあくまでも私が入手できた本から選んでいて、ほかにもあると思います。手元になくて紹介できませんが、ほかにリー・ペリーの自伝と、デヴィッド・カッツの『ソリッド・ファンデーション』が森本幸代さんの翻訳で日本語版があります。スカとロックステディの本で、なんと3回も再版されている山名昇さんの『ブルー・ビート・バップ』も名著ですね。 本、嫌いだしー。勉強、嫌いだからレゲエが好きなんだしー。 という人もいるかな、と思います。でも、旅行にいくとき、ガイドブックがあった方がずっと充実して楽しいでしょ。これらのレゲエ本も、同じだと思うの。情報があった方が、音に向き合うときに深く入って行ける。とりあえず、手元において、気が向いたときにパラパラ読むのも楽しいです。 紹介した本がまだ流通されているかちょっと分からないのですが、本屋さんになくてもレコード・ショップや、インターネット、古本屋さんで見つかるかもしれないので、「レゲエをもっと知りたい」という人は、探してみて下さい。... Read More

Life Goes On

NY周辺にハリケーンが上陸しました。 明日は我が身、とはよく言ったもので、先週、ジャマイカの様子を心配していたら、ハリケーン・サンディはパワーアップして北上、東海岸の上空をしっかり通って、かなりの被害が出ています。水の近くの地域は強制退去、前回のアイリーンの時は「Overreacted(過剰反応)」と行政の対策を笑った人達も、今回は実際に洪水、浸水が起きたので、きちんと従って正解だと思っているはず。ニューヨーカーは妙に強情で、「自分だけは大丈夫」と思いがち。うちのような内陸部は水害より、倒木や風に吹き飛ばされたゴミが怖いので、まだまだ用心が必要です。以前も書いたかもしれませんが、私はわりとビビりなんです。飛行機の時間ギリギリに空港に行くところはありますが(単にだらしないんでしょうね)、安全第一で、それもあって特にトラブルもなく、この街に長くいるような気がします。 将来は海の近くに住みたい、とか、木陰のある家を持ちたい、とか、いろんな希望がありましたが、ここ最近は「災害に強い、なるべく安全な場所」が第一条件。今、日本の多くの人も同じ気持ちではないでしょうか? うちは昨晩から今朝にかけてケーブルテレビとインターネットが使えなくなっただけで、あとはいつも通り。その前から必要以上にテレビを見ないようにしていたので(前回のハリケーンや311で学びました。情報で頭をいっぱいにすると疲れます)、友達の安否を確認することで忙しかったくらいで、ふつうに仕事をしていました。 ただし、市の被害は甚大。停電やライフラインの地下鉄の復旧にまだ日数がかかるようですし、学校も休み。せっかく景気が戻って来た感触があったのに、またしてもNY市全体がけが人になってしまいました。海沿いの場所は、隣の州のニュージャージーも家屋の倒壊や火災でひどいことになっています。さっき、クリスティNJ州知事が緊急会見を行って、やはり交通機関は麻痺、停電もまだ続くと発表しました。浸水した地域の映像を見ると、心が痛みます。 私は、外出を控えているくらいで仕事も続けているし、なんだか申し訳ない気持ちになってきました。掃除のボランティアも素人がのこのこ出て行ったら危ないらしく、「家にいてくれるのが一番助かる」とブルームバーグ市長もハッキリと言っていました。 実は、一昨日から、『7つの習慣―成功には原則があった!』(スティーヴン・R・コヴィー著)をたまたま読み返していて(2回目です。最近はあまりおもしろくない本/テレビ番組/映画にたくさん触れるより、いいと思ったものに立ち戻るようにしています)、冒頭にパラダイムのシフト…つまり、価値観の転換について書いてあり、それがちょうど、自分の感じていたことと合致してびっくり。ちなみに、この本はいわゆる「成功哲学本」と分類され(実際、そういう話も多いですが)、気持ちの持ち方、視線のずらし方についても書かれており、私はその部分が勉強になりました。 最近、優先順序が少しずつ変わっていたのですが、今回はちょっと決定的だったかもしれません。何がどう変わったかは、あえて書きませんが、Wake Up Callになった、とだけ記しておきます。 みなさんもお気をつけて。 必要以上に深刻にならず、でもしっかり自分の頭で考える時期が来ている気がします。世界中がキナくさいので、よけい。... Read More

Power of Now と Curious Case of Benjamine Button

ビヨンセのライヴDVD試写会こぼれ話や。フランク・オーシャン(フランク海洋。)のライヴがとても楽しかったことや。ヤング・ジーズィーの自伝映画の試写会そのものが過去へのフラッシュバックだった話や。 いろいろ書きたいことはあるのですが、うまく時間を見つけられないでいます。仕事そのものより、雑用がやたら多い師走。 今日は、最近ハマった本と、たまたま観た映画(といっても、録画したものをテレビで観たのですが)がシンクロした話を書きたいと思います。 本のタイトルは、『Power of Now』。邦題は『さとりをひらくと、人生はシンプルで楽になる』。アマゾンの書評でも多く書かれているように、邦題がよくない。というか、誤解を生む邦題です。 出版社さんは気楽な雰囲気を狙ったのだと察しますが、NY Timesのベストセラーでもある本書は、 「シンプルだけれど、実行が非常に難しい内容」であり、私みたいに何でも考えすぎるタイプの人間には目から鱗のことがたくさん書いてありました。 要は、過去も未来も、いまこの瞬間には存在しないのだから、ごちゃごちゃ思いを馳せることなく、思考にとらわれることなく、とにかく「いま」に集中しなさい、という。すとん、と納得し、今後はこの姿勢で生きて行こうと思ったほどです(単純ですね)。 もう1つは、ブラッド・ピットが主演し、アカデミー賞のノミネートを受けた 『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』。 本当は、バトンではなく、ボタンさんなのですが。3年以上前の映画で、ずっと観たいと思っていました。晩夏にテレビ放映された時に録画したのを、やぁっと観られたわけです。観た人も多いかと思いますが、肉体的に時間が逆行(老人として生まれて、どんどん若返り、最後は赤ちゃんの姿でなくなります)する男性の話。幸せになりようのない設定です。おまけに、お母さんがお産のときに死んでしまったこともあり、捨て子になります。 それなのに、この主人公はその時々に与えられた状況に満足しながら、運命に抵抗することなく、でも自分の道を切り拓きながら生きていきます。 信心深い女性に拾われ(やはり助演賞にノミネートされたタラジ・P・ヘンソンがすばらしいです)、この「母親」の愛情をしっかり受けて育ったことも大きいと思いますが、映画を作った人たちの「時間」に対する捉え方も少なからず関係しているような。 私自身、『Power of Now』を読んでいなかったら、また少し違う感じ方をしていたように思います。中身が老人で、見た目は子供という終盤はさすがにかわいそうな状況になりますが、主人公の人生はとても豊かだったと思うのです。監督がデヴィッド・フィンチャーだとか、原作はスコット・フィッツジェラルドだとか(どちらも大好きです)、予備知識がないまま観たのもよかったかな。 だいぶ前に、スピルバーグxトム・クルーズの組み合わせで映画化が検討されたものの、当時の特殊撮影の技術では実現できなかったのだとか。そのあたりは、『アバター』に似てますね。 フィンチャーxブラピで実現して良かったです。スピルバーグだったら大げさで、起承転結をつけ過ぎてしまうでしょう。それだと、「いま」に生きる登場人物たちの魅力が出て来ません。久しぶりに、DVDで欲しいな、と思った映画でした。って、DVDプレーヤーが壊れてしまって、捨てたばかりだったりするのですが。おすすめの、本と映画の話でした。... Read More

音楽と文学のすてきな関係

「好きな本、おすすめの本を教えて下さい」という質問を、時々、インタヴューに入れます。 理由は簡単、中学生の頃から、自分が好きなアーティストの愛読書を真似て読む、というのを私自身がよくやるからです。最初に真似た本は、アラン・シリトーの『長距離走者の孤独』か、『土曜の夜と日曜の朝』のどちらか。推薦していたのは、忌野清志郎さん。どちらかを先に読んで、大きく影響を受け、続けて同じ作者の本を読みました。イギリスの労働者階級の若者が題材で、いろいろな意味で生々しかった。この2冊は、大事にNYにも持って来ています。 ウィリアム・バロウズは大学で流行っていたから手に取り、まんまとハマったわけですが、あとから中学生のときに大好きだったデュラン・デュラン(出たー!)もこの人の作品から影響を受けた曲を作っていたことを知り、なんとなく納得したり。 カート・ヴォネガットも清志郎さんのリストにあったような気がします。高校のときに、読みまくりました。大学ではジャン・ジュネ、ジェームス・ボールドウィン、ボリス・ヴィアンに凝ったのですが、聴いていた音楽とは直接、関係ないかな。 以下、いま、思い出せる分のアーティストによるおすすめ本です。 Nas -As A Man Thinketh/James Allen ナズは自己啓発書の祖、ともいえるジェームス・アレンのベストセラーをあげました。日本では『原因と結果の法則』というタイトルで訳されています。私も読んでいましたが、地味なので「好き」とは言いきれず、ナズに言われて改めて読み直そうと思った記憶があります。 Talib Kweli -the Alchemist / Paulo Coelho 知性派で知られるタリブ・クウェリも世界的なベストセラーの『アルケミスト』が答えでした。パウロ・コエーリョのファンは多いですね。日本の雑誌用の答えとして、手に入りやすそうな本を選んでくれたのかも知れません。クウェリはモス・デフと一緒に、90年代後半にブルックリンで本屋さんをやっていたんですよね、そういえば。この本屋さん『Nkiru Books』には何度か行き、オープン・マイクのイヴェントにも出かけた記憶があります。モス・デフが椅子を片すのを手伝っている姿がありました。いい時代でした。 Damian Marley -The Da Vinch Code ラスタの人はまず「バイブル」と答えるので、このやり取りがあまり成り立たないのですが、ダミアンはそのときに読んでいる本として、『ダ・ヴィンチ・コード』をあげていました。これも映画化されたような有名な本ですね。私は読んでいませんが。 あーとーはー…思い出せん。あら、企画倒れかしら。 今日、電話インタヴューした人も面白い本をあげてくれたのですが、それは取っておいて。そうそう、ジェイ・Zが自著『Decoded』の中で書いていた『The Seat of Soul』(邦題『魂との対話ー宇宙のしくみ 人生のしくみ』)が、最近、真似して読んだ本です。カルマが気になっていたときに出会った本だそうですが、ジェイ・Zのイメージとはちょっと違うスピリチュアルな本でした。『アルケミスト』も物語の形をした自己啓発書ですし、みんな生き方や精神世界に関心があるのが、興味深いです。 アーティストも人間ですから、様々な面がありますよね。成功しているからこそ、いろいろ考えてしまうんでしょうか。ビヨンセやエミネムが好きな本も知りたいですね。それを調べるのを、ライフワークにするかな。... Read More

大変だ、大変化

「天の邪鬼子」というペンネームを真剣に考えたことさえあるほど、私はとくに狙わないで、時々、世の中や周りのムードに真っ向から逆らってしまいます。ジャマイカ行きを見送り、ホリデー・ムード一色のNYに留まることにした結果、なぜかわき上がった勤労意欲&向学心。何なんだ。
池城美菜子的紐育日記~Minako Ikeshiro’ s NY Journal
写真は先週あたりからいっきに読み飛ばしている本です。遅ればせながら、という本も多いかな。『80対20の法則』は、何となく耳にしていたセオリーが良く理解できたのはいいのですが、エリート主義というか、切り捨て主義というか、「そんなに割り切っていいものだろうか」と少々後味が悪い本でした。80%の成果を出すのは全体の20%だけだから、そこに重点を置くべき、というのは、商売ではアリのやり方でしょうが、後半に出て来る「人づき合いにも活用」の件は、あまりにも冷たい気がします。「大切だと思う人を20人リストアップして、重要度を%でつける」とか。 えーと、面白かったのが、この80対20の法則が当たらないのが、昨今のインターネット・ビジネスである、という表記が、ウェブ関連本すべてに書いてあったこと。『ウェブ進化論』は06年に話題になった本。著者の理論の展開がファナティックというか、グーグルの持ち上げ方がすごくて、「もうちょい冷静な方が信用されるのでは」と余計な心配をしてしまいましたが、大筋では真実をついてるように思います。 問題は、「総表現者社会で表現者は飯が食えるのか」というくだり。曲がりなりにも、音楽ライターで食べている私にとっては死活問題。一昨年(もう少しで3年前ですね)の時点では、「先進国の表現者が<飯を食う>すべは相変わらず既存のメディアに依存し続けるだろう」という結論が妥当だったと思いますが、今後の問題は「受け手が既存のメディアに依存し続けるのか」という点。払う方にしてみたら、タダ同然のウェブ中心ライフの方が快適だし、ブログ/SNS慣れしている世代は、自分が「参加」できるメディアの方を信用する可能性だってなきにしもあらず。 たぶん、今まで既存メディアを仕事の場にしていた人も、両立させないと生き残っていけないでしょう。 ということで。『最新音楽用語事典』はプロとして精進するための本(この手の監修本に関しては、リットー・ミュージックは本当に立派。Luireだけじゃないんですよ)、ほかのウェブ本は09年はオモロいことが出来るといいな、という期待を込めての準備本であります。 案外、大きな意味で世の中のムードに流されてますね、私。... Read More