『シルク・ソニックとの一夜』全曲解説+さらに楽しめる7つのポイント

ブルーノ・マーズが好きです。アンダーソン・パークが好きです。当然、シルク・ソニックはユニット名を聞いただけでパァアアっと目の前が明るくなるくらい、好き。今年の2月末からそれはそれは楽しみにしていた作品が届きました。11月12日、予定どおりリリースされて両手のひらを握りしめてガッツポーズ。もう、最高すぎて金曜日から気もそぞろ。やっと方向性が固まったくせ毛の本(内容は日本以外の多くの国でほぼ常識になっている手入れ法についてです)に集中するための週末だったのに。

ビヨンセの新曲「Be Alive」(おもしろい曲です)をチェックした以外、『An Evening with Silk Sonic』のエンドレスなリモート・モードに入ってしまった。しかたないので(?)、『シルク・ソニックとの一夜』について、これを知っているとより深く聴けるよ、という7つのポイントと、全曲解説を海外メディアのレビューを読む前に書いてやる。って、どこに向けているのかわからないライヴァル心を燃やしつつ。あ、Pitchforkがブルーノ・マーズ『24K Magic』に6.4点をつけたのはけっこうムッとしたんだっけ。わかってねぇな、って。

一聴してすぐ、私は『24K Magic』より『シルク・ソニックとの一夜』のほうが好みかも、と思いました。『24K Magic』は80年代〜90年代頭のブラック・ミュージックへのオマージュ(というより、秀逸なコピー)だったのにたいし、シルク・ソニックは60〜70年代の音を取り入れながらも、ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークしか出せない音がいっぱい入っている。楽器の音色にすごくこだわっていて、曲展開のレイヤーが美しくて。十分に聴きやすいけれど、ブルーノ・マーズのアルバムとしては一番、重厚で複雑かもしれません。

『ミスエデュケーション・オブ・ローリン・ヒル』のジャケにちょっと似てますね。

「シルク・ソニックをさらに楽しめる7つのポイント」をサクッと。

1. ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークの出会いはツアー。2人の出会いは2017年に『24K Magic ワールドツアー』。ヨーロッパでのオープニングをアンダーソンさんが抜擢されたんですね。そのあいだ、巨匠ナイル・ロジャースのレコーディングでスタジオに入ったら、イギリスのヒット・メーカー、ディスクロージャーのガイ・ローレンンスもいた、とウィキペディアにありました。すごい組み合わせ。ブルーノとアンダーソンはすぐに仲良くなり、ふたりの古い音楽への偏愛をに結晶化する方向へ。

2. 全体のホストに御大ブーツィー・コリンズを起用、その効果。御年70才のブーツィーはファンク界に輝くキラ星にして、ブラック・ミュージックのアイコン。アルバム全体を引き締めると同時に、昔のソウルとファンクに軸足をおくこの作品に「本家お墨つき」を取りつけたことを意味します。賢いですね。ハワイ育ちのブルーノは、ユダヤ系の血が入ったプエルトリカンのお父さんとフィリピン系のお母さんのあいだに生まれた、白人でもラティーノでもアジア系でもある人。それが、「黒人ではない」という一点で、前作あたりから「文化の盗用(正確には文化の割り当て違反)」でやり玉にあがるようになりました。ブーツィーの起用は音楽的な理由が大きいですが、似たような批判への牽制もあるのかな?

 音楽における「文化の盗用」は1950年代のエルヴィス・プレスリー、ヒップホップのエミネム、そしてブルーノ・マーズらのビッグネームをもち出す人が多い。これについて私は毎回しつこく反論することにしています。2008年、ブランディ『Human』収録の「Long Distance」(隠れ名曲)でソングライターとして彼を認識して以来、私にとってブルーノは「超良質なR&Bバラッドも作れる人」だから。というか、『24K Magic』もオリジネイターのテディ・ライリーやキース・スウェットたちが文句言っていないんだからいいじゃん、って思っています(←キレ気味)。

3.アンダーソン・パークについてもちらっと。彼のお母さんは黒人の父と韓国人の母のあいだに生まれているので、彼はクォーター・エイジアンです。パークは「朴」さんなのはファンのあいだでは有名。奥さんも韓国系。一緒にマリファナ農園で働いて、仕事を失ったとき家族でホームレスになったとの壮絶エピソードがある夫婦です。ニカッと大きな口を開けた笑顔がすてきなアンディはシンガーソングライター、ラッパー、ドラマーのマルチタレントとして、超人アーティストのイメージがあります。でも、苦労して育ったせいかソロ作には独特の詩ごころ、哀愁が漂う。シルク・ソニックで彼を知った人はぜひソロやナレッジとのユニット「ノーウォリーズ(NxWorries-心配なし)の作品もぜひ。

4.パンダミックのなか、スタジオでジャム・セッションを重ねた作品。DJゼイン・ロウのインタビューで、シルク・ソニックの制作過程についてブルーノは「まず、ドラムのビートに基づいて作っていった」と発言、一方の朴さんは「曲の詳細、テーマやサウンド、コーラスのまとめ方まで全体を考えたのはブルーノ」と言っています。また、「パンデミックでツアーができなくなったことで、アルバム分のレコーディングができた」とも。つまり、ふたりがそれ以前みたいにツアー中心の生活をしていたら、このアルバムは実現しなかったか、もっと時間がかかったかもしれない。とはいえ、「コロナ禍でよかったこと」とも言えないのですが。

5. 第3のメンバーはDマイル。ほとんどの曲をブルーノと一緒にプロデュースしているのが、ブルックリンを拠点にしているソングライター/プロデューサーのDマイル。最近ではH.E.R.の「I Can’ t Breath」でグラミー賞の最優秀楽曲賞、同じくH.E.R.の「Fight for You」でアカデミー賞の最優秀オリジナル・ソングをを獲っています(「Fight for You」についてはこの記事を読んでもらえるとうれしいです)。彼以外だと、『24K Magic』にも参加していたクリストファー・ブロディ・ブラウンが力を貸しています。

6. 相談役にドクター・ドレー。アンダーソン・パークはドクター・ドレーのレーベル「アフターマス」の所属。老舗レーベルですが、現在はドレー本人とエミネム、ケンドリック・ラマーとアンダーソン・パークだけ、という超エリート集団になっています。それもあって、ふたりはドレーに曲のフィードバックを求めたそう。いやー、すごいバックアップ体制ですね。結果、シルク・ソニックはアフターマスとブルーノが所属しているアトランティックの両方からのリリースです。

7.生演奏へのこだわりが半端ない。シルク・ソニックは上っつらの懐古趣味とはほど遠く、楽器や機材まで研究して揃えたそう。昔のドラムの専門誌まで読み込んだというから、本格的です。アリシア・キーズの右腕エンジニア、アン・ミンシェリやフランク・オーシャンも古い機材や楽器を集めているので、隠れたトレンドかもしれません。また、「Uptown Funk」以来、ブルーノはたびたび起用しているダップ・キングスのドラマー、ホーマー・ステインウェイスもドラムで参加。ダップ・キングスはブルックリンのアダログ・レーベル、ダップトーンの中核を成すソウルバンド。エイミー・ワインハウスのサウンドにも大きく貢献した人たちですね。『24K Magic』同様、『シルク・ソニックとの一夜』は「どこかで聴いた懐かしいサウンドだし、似ている曲も思い浮かぶけれどまったく同じではない」というモヤモヤ感をあえて楽しむ作品でしょう。そして、それはサンプリングなしで作っている点も大きいと思います。

では、全曲解説を。

1.Silk Sonic Intro

4つカウントしてから「今夜はだれを見に来たんだい?(Who y’all came to see tonight?」と囁くふたり。ライヴの頭のMCですね。「今夜のグルーヴはバシッとタイトに決めるよ(We gon’ lock this groove in tight)」とか言葉選びがいちいちソウル・マナー。

後半に出てくるブーツィー・コリンズは「これは“Blaster of the Universe”だよ」とか「ブーツィージラ本人の登場だ(“Bootzilla himself”)」と自分のアルバム名を絡めてています。唯一無二の声のもち主なので、インパクトがすごいですね。

2.Leave the Door Open 

シルク・ソニック結成の直後の3月5日にリリース、そのままグラミー賞でパフォームしたファースト・シングルです。これが、フィリー・ソウルを彷彿とさせる甘い曲。

「ひとりでいるには今夜の俺はかっこよすぎる」と女性を大邸宅に誘っています。

だから、玄関のドアの鍵はかけてないよ、と。バスローブを着てワインを飲んでるとか、バスタブには花びらとか、キメすぎていて逆におもしろいです。この、真剣にやっているのにどこかユーモラスなのがシルク・ソニックの魅力。セカンド・ヴァースはもうちょっと攻めていて、「パープル・ヘイズ(ハッパの種類)」でジミー・ヘンドリックスを、「Shamone!」のかけ声でマイケル・ジャクソンをオマージュしています。

私が笑ったのは次のライン。

I won’t bite unless you like 噛みつきはしないよ そういうのが好きなら話は別だけど

「I won’t bite you」は慣用句で、相手が怖がっていそうなシチュエーションで「手荒くはしないから」とか「いじわるはしないから」という意味。でも、ここでは「そういうのが好きなら話は別」と言っていて、かなり限定した状況ですね。

クレジットを見るとブルーノとDマイルがプロデュース、作詞がこれにアンダーソンとブロディさん。ブルーノは歌以外もコンガ、朴さんもドラム、Dマイルはピアノ、ブロディがベースを演奏していて、「音楽の達人」の集合体なんだな、と。フィラデルフィアの重鎮、ラリー・ゴールドがまとめている総勢9名のストリングスのひとりはナカノ・ヨシヒコさん。たぶん、日本人の方ですね。

 3.Fly as Me

最初の10秒で70年代のブラックスプロイテーション映画を思い起こした方、多いのでは。ブラックスプロイテーション・ムーヴィーは黒人の観客をターゲットにした低予算映画で、ヒップホップ・カルチャーとも密接な関係があります。おもな作品は、先日亡くなったばかりのメルヴィン・ヴァン・ピープルズ監督の「スウィート・スウィートバックス・バッドアス・ソング」、(その名も)「スーパーフライ」、「黒いジャガー」など。この曲も、アイザック・ヘイズが作った「シャフトのテーマ」や、カーティス・メイフィールドの「スーパーフライ」の雰囲気を取り入れています。

「俺と同じくらいフライな(イケてる)女性としかつき合わないぜ」という、これまた自信満々な内容。作詞の欄に人気ソングライターのジェームズ・ファウントゥルロイのほか、ファウントゥルロイと仲のいいビッグ・ショーンの名前もある!

この曲はシルク・ソニックのふたりを主役にぜひショート・ムーヴィーっぽいMVを作ったもほしいです。で、カメオ出演にビッグ・ショーンとジェネイ・アイコちゃんをぜひ。3曲めで、あ、このアルバムはスウィート・ソウルだけでは終わらないんだな、と知らせてくれる流れですね。

4.After Last Night (With Thundercat and Bootsy Collins)

スペシャル・ゲストホストのブーツィーさんとサンダーキャットが参加。このアルバムで唯一、クレジットのある客演がいる曲です。プロデュースには『24K Magic』にも参加していたプロダクション・チーム、ステレオタイプズが加わっています。女性の吐息のような囁きから始まるこの曲も、やはりセクシー系。「昨夜の余韻に浸っている曲」ですね。ドアの鍵をかけなかった甲斐があったようです。

ブーツィーも得意の「Sookie sookie, now」をぶちかましています。この「スキスキナウ」は日本語の「好き好き」に聞こえておもしろいのですが、「君って最高」と女性の外見をほめたり、「盛り上がっていこうか」とかけ声になったりする感じ。まぁ、若い人は言わないですね。あまりに盛り上がりすぎて、ほかの女性に連絡ができないように窓から電話を投げる、というリリックが大げさでクスッとさせられます。

5.Smokin’ Out the Window

これを2017年に半分冗談みたいに作り始めて、それが曲になったことでシルク・ソニックが生まれたそう。こちらで歌詞の全訳をしています。1曲前で盛り上がった女性の顛末がこれだったら、そうとう情けない。

ドラムはダップ・キングスのホーマーさん。シルク・ソニックのふたりもかなりの腕前のドラマーなので聴き比べてるのも楽しいですね。

6.Put On a Smile

『シルク・ソニックとの一夜』を最初に聴いたとき、「あ、これが一番好きかも」と思った曲。泣きのマイナーコードで始まってコーラスできれいなメロディのハーモニーに変わるのも好みだし、往年のコーラス・グループのバラッドみたいなのに、やたら力の入ったドラムであえてバランスを崩しているのがかっこよくて。このドラムを叩いているのはアンダーソン。すごいな。そして、ソングライティングとバック・コーラスにまたしても! ベイビーフェイスの名前が!! 贅沢です。やっぱり、私はベイビーフェイス教の信者なんだな。インタビューでブルーノは「前に作っていた曲をまずアンディに聴かせたら、全然よくない(it’s sucks)って言いながらドラムを叩き始めたら良くなって。それをさらにフェイスに聴かせたら、ひどいね(This is wack)って言われて、一緒に作業した」そう。そうやって軽口を叩きながら仕上げていくんでしょうね。

「映画俳優なみの演技でムリして笑っているけど、ほんとうは微笑むことができるのは君の前だけ」と歌う失恋の曲。ブーツィおじさんは頭から「いいから泣きなさい」って言ってます。

鍵をかけたくないほど素敵な女性に会って(Leave the Door Open)→携帯を投げ捨ててもいいようなすばらしい一夜を過ごし(After Last Night)→でも貢いだ彼女は超遊び人でおいてけぼりを喰らい(Smokin Out the Window)→大泣きしたいところをムリして笑う(Put On a Smile)

という流れなのかもしれません。ごめんなさい、最初が自信満々な分だけおもしろくて、笑ってしまいました。

7.777

はい、この曲では失恋から立ち直って、きれいな女性がいっぱいいるラスヴェガスでギャンブルに興じています。うん、それだけの曲なのですが、冒頭のリズムギターから超絶かっこ良くて、「ごきげんな曲」という昭和な表現を使いたくなります。全体の雰囲気が『24K Magic』に近いな、と思ったらブルーノ・マーズ単独のプロデュースでした。めちゃくちゃダンサブルだし、リミックスが作られそうな気がします。

アンディさんの筆も冴えています。4つめのヴァースをちょっと訳してみましょう。

Stacks on stacks, racks on racks
Moonwalk to the money like I’m Mike Jack
Yes, I’m faded, pupils dilated
But the man in the mirror sayin’, “Go on, get your paper”

チップの山を積み上げる 札束もね
金に向かってマイケル・ジャクソンみたいにムーン・ウォークして
酔っ払って 瞳孔も開いているけど
鏡の中の男(マン・イン・ザ・ミラー)がもっと稼げだって

4行でしっかりマイケル・オマージュを回収するあたり、さすがラッパーです。

8.Skate

ローラー・ディスコ文化を懐かしむ、さらにごきげんなセカンド・シングル。ローラー・ディスコは90年代後半でもブルックリンにはギリギリ存在していました。ガンガン音楽が流れるなかで滑るわけですから楽しいに決まっていますが、私はアイススケートしかできないので誘われても行きませんでした。ちょっと後悔。

この曲はジャズ・ユニットのDOMi&JDベックも参加しています。フランス人のドミさんはまだ21才なんですねー。最後のヴァースでのブルーノの絶唱がほんとうにすばらしい。

MVはディスコではなく屋外なのはパンデミックの影響かな?

9.Blast Off

エンディングは速度を落としてしっとりと。とはいえ、「一緒にぶっ飛ぼうよ」と歌っているサイケデリックな曲でもあります。ラリー・ゴールド率いるストリングス隊のあとに入る超絶ギター・ソロはブルーノ本人の演奏。天才かよ。天才ですね。土星の輪っかまでぶっ飛びつつ私たちも音楽で昇天させてくれる、というコンセプトの曲でさようなら。最後を締めるのはうはやりアンクル・ブーツィーで、31分半のライヴは終わってしまいます。

うん。満足だけど短い。ブルーノ・マーズのアルバムっていつもそうだけど。アルバムのクレジットはちょっと悪口を書いたPitchforkを参照にしました(おい)。

『An Evening with Silk Sonic』、グラミー賞などでもかなりいいところまで行くような気がします。