エミネム『Revival』はキャリア最悪のアルバムなのか。

また、煽っているようなタイトルをつけてしまいましたが。

うん、USの評論家筋、音楽サイトの評価がけっこう分かれているんですね。で、中には「最悪」とまで書いた人もいる。ピッチフォークも散々。しばらく前からつまらなくなっているサイトなので、それほど気にしなくていいとは思うけれど、それなりに影響力はあるので。

もう。

毒舌&憎まれっ子世にはばかるデトロイトver.のシェイディさんだけれど、死ぬほど繊細で、あまりいじめるとドラッグ・アディクトの世界に戻ってしまうので、もう少し気を遣ってほしいわ。

2010年の『Recovery』で、「ありのままの俺」スタイルの頂点を極めてしまったので、あれを超えるのは難しいのは事実。あのキレッキレのライムを求めた人たちが、物足りなさから最新作をdisる気持ちは正直、わかります。後半に「これ、いる?」な無理やりなロック・テイストな曲が入っているし。

そうそう、マイナスのレビューでよく出てくる言葉が「clumsy」。ガチャガチャしている、という意味ですね。それも、確かに、と思ってしまう。リック・ルービンやドクター・ドレーも参加してるのに、誰かまとめるの手伝ってあげればよかったのに、とか、曲順がおかしいのかな、とか。

でも、キラリと輝く瞬間もたくさん。やっぱ、エム最高だわ、とグッとくるライムもいっぱい。曲を止めて聞き直してしまうので、そういう意味でストリーミングで聞くのに向いているアルバムです。

私、彼が売れまくった00年代前半はあまり好きじゃなかったんです。理由は単純。声と滑舌が苦手だった。カツカツコツコツした感じが耳障りで、「白人っぽいなぁ」と思ってた(ごめんなさい)。

デビュー直後、ハマーステイン・ボウルルームでキノコ(!)だらけのセットで「マイ・ネーム・イズ〜!」とやって、女子がキャーキャー言っている中、フォトピットで頑張って写真を撮っていたら、下着が飛んできたのも辛かった。

だけど、様々な局面を乗り切って、憂いを帯びたここ数年のエミネムはどうしても見てしまうし、聞いてしまうし、応援してしまう。2011年、ロイス・ダ・5’9との『Bad Meets Evil』で対訳を担当して、エミネムのリリックの凄さに改めて喰らったのも大きかった。

(ブルックリンの壁画。本作のイメージが近いかなと思って)

おっと。『Revival』の話でした。星条旗の後ろに頭を抱えて困っているエムがいるアートワーク。BETアワーズの名物サイファーで、トランプ大統領に舌鋒鋭く切り込んだ「The Storm」を披露して話題になったばかりですが、トランプさんサポーターが多いデトロイト出身の白人であるエミネムが「Fxxk You」と中指を立てたのは、ブラックのラッパーが同じことをいうよりずっと重みがあります。

アリシア・キーズとの「Like Home」は、「ホーム」であるアメリカに対する愛があふれていて素晴らしいです。ジェイ・Z feat. アリシアの「Empire State of My Mind」とよく似ているというか、あの曲と対になる曲でしょう。15歳の時からくっつくたり離れたりを繰り返している(2回結婚してます)、キムさんへの「Bad Husband」も切ない。

新しさは、あまりないです。

でも、限りなくスポーツに近い(=若さが武器になる)ラッパー稼業において、エミネムほどのラッパーが若手を意識して流行りのトラックや技を取り入れる必要もない。エド・シーランやビヨンセも、エミネムのアートに対するリスペクトがこもった歌声を聴かせています。

(04年、“Just Lose It”でエムがマネをしたPeewee Hermanの人形と、「スリと尻軽女に気をつけろ」のサイン。フリーマーケットで撮りました。ピーウィーとまとめてマイケル・ジャクソンをおちょくったので、BETはオンエアーを拒否しました)

もともと、エミネムは過激なんです。その彼が「こんなに長く続けられると思わなかった。感謝するよ」とラップしているんだから、隔世の感があります。

うん、最悪のわけないよね。私は好きです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です