今年はショーン・ポールやアッシャーなど、自分にとって大切なアーティストの原稿をじっくり書く機会に恵まれ、仕事運はいいわねー、と思っていた矢先。
さらに、強烈な印象と思い出をくれた男性アーティストが出現してしまいました。
フランク・オーシャン。フランク海洋君。
対訳とライナーノーツの執筆の期間にカミング・アウトはするわ、1週間早くデジタルで発売するわで、もうどっきどきの10日間でした。日本盤は来月なのですが、本当に一所懸命ライナーを書いたので、ファンの方々はそれまでネットのストリームで聴きつつ待っててください……。てのは、いくらなんでも自分勝手でですね。でも、訳があった方がわかりやすいですし(しつこい)。
昨年のライヴを観て以来、ずっと注目していたシンガー・ソングライターが、ヒップホップ/R&B界のカミング・アウト第一号になろうとは。感慨深くて涙が出そうでした。もっとも、それが一番大事な点ではありません。愛する対象が異性であろうと、同性であろうと、『Channel Orange』は傑作です。逆に書けば、人を愛する気持ちは同じだ、ということをとても自然に表現した点においても、『Channel Orange』は傑作です。
この仕事をしていると、アーティストのセクシュアリティーが公にしているのとは違うことに気づくことがままあります。実際に会った時にわかったり、直接知っている人から聞いたり。でも、私は今まで、絶対にそれを書きませんでした。
黒人でゲイというのは二重の意味でマイノリティーであること、ゴスペルの素養があるなど教会とのつながりが強い場合、矛盾しているように見えること。
それよりも何よりも、当の黒人コミュニティーがほかの人種よりも拒否反応が強いこと。仕事仲間同士の話では出しても、文章にはぜーーーーったいにしなかった。今後、その方針をどうするか分かりませんが、はっきりとサポートしようとは思っています。そうですよ、私はレゲエ/ジャマイカ好きで、同性愛の人へのサポートもするのです。
「みんなもサポートしましょう!などと、説教するつもりもなければ、説得するつもりもないですが。実際、同性愛についての捉え方って、けっこう慣れの問題のような気がします。男の人同士が手をつないでいたり、格好は完全に男の子なのによく見たら女性だったり、という人達を見かけるのが、私の日常。
何年か置きに、身近な人がカミング・アウトして、「うん、何となく知っていたよ」と受け止めるのも、私の日常。日本だと、多くの人がテレビに映る「ゲイ」を「芸」としてやっている人しか知らなくて、それで固定観念ができている気もします。同性愛を不自然だと思っている人は、性行為ばかりに考えが行ってしまっているのではないか、とも思います。
「理屈じゃなくて惹かれてしまう」
という気持ちは、同性同士でも起こり得る、と、とりあえず受け入れてしまうと、その後を理解するのがずいぶん楽になるとは思います。『Channel Orange』を聴くと、それが理解しやすくなりかもしれません本当に、美しい音楽ですから―。
昨年のステージでの、海洋君。
写りが悪くて、ごめんなさい(。-人-。)