思いのほか、カニエ・ウエストの緊急入院を心配しています。
思いのほか、というのは、私は軽〜くアンチ・カニエなのです。彼が作る音楽は大好き、ラップはだいたい好きで時々キライ、人となりは苦手。
食わず嫌いではなく、むしろ、詳しくて苦手。
ロカフェラ専属のトラックメーカーだった時分から注目していたので、長いことウォッチャーをやっています。“Through the Wire”をbmrの年間ベストに選んだり、まだプロデューサーとしてだけ認識されていた時代にアポロ・シアターで「あれは俺が作った、この曲も俺が作った」と合間に訴えながらラッパー・デビューを飾ったのを目撃して、レポートをしたり。
08-09年は、ぶっちぎりで売れていたリル・ウェインより『808s & Heartbreak』を聴いていたほど。内省的な作品で、どうしても暗くなるので、元気が出るT.I.の『Paper Trail』と交互に聴いていた気がします。
でも、だんだんゴシップや傲慢な言動を見聞きするうちに、げんなりするようになって。最高傑作とされる『My Twisted Dark Fantasy』が出た時分には、彼の自己顕示欲に当たり過ぎてお腹いっぱいになっていました。
だってね。デビュー前に自分の作品をけなしたライターを、ノイローゼになるまで電話とメールで追い詰めたエピソードもすごかったけれど、もっと有名になってから、テレビカメラが空港で会話をしているカニエとファレルを捉えたことがあって。その時の言い分。
「お前らには話しかけないけど、俺とファレルの会話を撮りたいならそうすればいい」
‥全米中から「やっぱり映りたいんかーい」というツッコミが聞こえた気がしました。
カニエに関して、よくまとまっているサイトがあったので参照にしてください。カニエ・ウエストのお母さんは大学教授で、彼のSNSでの文章が群を抜いてきちんとしているのはそのため。頭がいい人なのです。それなのに、聞いているとウッと来るような下世話なラップをちょいちょい挟む。精神的に少し幼稚なのかな、と思ってしまう。
入院の原因は、当初言われていた不眠症と脱水症状より深刻で、パラノイア(偏執症。ストレスによって強い妄想を抱く)が入っているそうです。心配。なんでも2年前に奥さんのキム・カダーシアンと買った豪邸の改装が終わっていなくて、その費用が10億(!)まで膨れ上がっているとか。桁が違いますね。
カニエ・ウエストは天才です。
それは、まちがいない。でも、いまの絶大な人気は、純粋に音楽だけでなく、ほかでもない彼の不安定さ、危なっかしさも貢献している気がしています。
メディアに頼らなくても、私たちは自分のプライベートや感じていることをネット上に小出しにできるようになりました。広く意見を言って注目されるのは一部の存在、という時代とは隔世の感があります。でも、自ら打ち出すのは、往々にして「みんなに見てもらいたい/理解してもらいたい」イメージであって、本当の自分とはズレがある。SNSに向いているのは、そのズレをも楽しめる人だと思います。カニエみたいに、全世界に自分を見てもらいたい、でも自分が望む形でないと嫌だというタイプは、延々と「理解されない/ひとりぼっちだ」と苦しむことになる。
その苦しさは、SNSを活用する人が多かれ少なかれ感じていると思うのです。見せたい部分と隠したい部分が激しく離れたとき、twitterやFacebook、インスタグラムのアカウントがなかったときには感じずに済んだ焦りが生まれて、新たな病み方をする。十分に幸せなはずなのに、ほかの人がネットに振りまくもっと楽しそうなイメージと比べて、惨めになる。トップにいるのに、常にジェイ・Zを気にして、不満そうなカニエ・ウエストに対する興味や共感は、そこにも起因していると思う。少なくとも、私が彼から目をそらしていた理由は、それです。自己顕示欲を追い求めると、天才でもバランスを崩すんだぞ、と見せつけられている気がして。
面白いのが、嫁のキム(とその家族)はSNS時代の寵児というか、エンターテイメントにまでプライバシー(に見えるテレビ番組)を昇華して、どんな批判にも潰されない強いメンタリティーの持ち主であること。ある意味、正反対なのです。その家族の現状に関して、大雑把にまとめたものあったので、参照にしてください(理解できなくても、気にしないでください。気にし始めると膨大な時間を彼女たちのテレビ番組に取られる罠にはまります)。カニエが自分にない強さをキムに見出して結婚したのなら、理想の夫婦でしょう。キムも気丈に病床に付き添っているそうです。
早く、良くなりますように。