ビヨンセでたー、蟹江きたー、フランク海洋君もどーん、アリシアきたー、トライブのラストも投下されたーーーーで、2016年は自分としては大事なビッグ・リリースが相次いだ年だったなぁ、と年末モードに入りかけたタイミングで、
ブルーノ・マーズ どどどーん。
まぁね。もう「アルバム」というコンセプトが以前ほど重要ではないから、出せる人はもっと頻繁にポンスカ出すのもアリだとと思うのだけれど、ブルーノ・マーズ・クラスは失敗が許されないから。4年半ぶりですから。大ニュース。
タイトル曲のシングルで、懐メロ志向というか、懐古趣味に走っているのはわかっていたけれど、ふたを開けてみたら100% それだけ。
80〜90年代頭のブラック・ミュージックの美味しいところをすくい取ってギューッと詰めたような作品です。アメリカのビルボードも似ている曲を並べてるけど、それは一つの正解でしかなくて、聴く人によって違う曲を思い起こすのが楽しいところ。1曲に複数に元曲というか、インスピレーションのソースがある。ジェームスとボビーの両ブラウンは異論ないけれど、私は”Chunky”でキース・スウェット(というかカット・クロース)を強く感じたし。
30代半ば以上の洋楽ファンには、ストレートに響くはず。アメリカ本国はこのあたりの音はスタンダードになっているから、全世代に刺さると思います。当然、大ヒット中。でもね、アルバム全体に漂うデジャヴ感が、ここまで強いのはなぜ? この流れ自体、わりと最近体験したぞ、と。考えた結果、気がついたこと。
これね、アメリカでパンドラあたり(話題のスポーティファイですらない)のストリーミング・サービスでニュー・エディションやガイを選んだら、勝手に見つくろって流れてくるミックスに酷似しているの。一昨年のバーベキューでこういうの流して盛り上がったわ、と思い出して合点が行きました。
そうなると、ブルーノ君ほどの才能が、新たに作る必要性があったのか、という疑問が出てくる。半分、パロディでやってるんじゃないか、とも思ってしまう。
そこで。いや、ここがブルーノ印でしょう! という点を検証してみました。
その1。リリックの巧みさ。さすがにここは、2016年にアップグレードしています。コ・ライターも含めて、本当に本当に素晴らしい仕事、というか、芸術。白旗あげるわ〜。「プレイヤー・ヘイター(イケてる人を妬む人)」とか、最近、あんまり聞かない言い回しが出てくるのも狙っているでしょう。好きなリリックをちらっと解説します。
Throw perm on your attitude (Permより)
このパーマは、縮れ毛をまっすぐにするリラクサーの方。薬品に近い整髪料をつけてから高熱のコテでジューッと髪をストレートにます。私自身、かなりのくせ毛なので、試しにブルックリンの美容室で一度だけやりましたが、一発で髪が傷みました。意訳だと「トゲトゲしい態度はやめてリラックスしようよ」かな。リラクサーをかけるパーマはジェームス・ブラウンのトレードマークでもあり、ここでもオマージュしています。
I got Alicia waitin’ Aisha waitin’ all ii-sha’s waitn on me(Calling All My Loveliesより)
モテてモテて困る、というチャラさの骨頂みたいな曲に出てきます。
「アリーシャも電話口で待ってる、アイーシャも待ってる、いろんなイーシャが俺を待ってる」
って。ひどい。大笑いしました。日本だと
「エリカちゃんも待ってる、マリカちゃんも。いろんな○リカちゃんが俺を待ってる」
という感じでしょうか(ラッパーさん、パクっちゃってください)。アリーシャやキーシャは黒人やラテン系に多い名前です。あと、この系統の名前を持つ女性は、きれいだけど気が強い印象がある。それも、エリカちゃんやゆりかちゃんと同じかな。
We out here drippin’ in finnese(Finneseより)
頭からつま先まで着飾って隙がない様子ですね。フィネスは昔からあるシャンプーのブランドでもあり、それも引っ掛けているかな。本作のプロデュース・クレジットは、いままでのザ・スミージングトーンズではなく「シャンプー・プレス&カール」名義。親友のフィリップ・ローレンスはそのままでもう一人が入れ替わっているのでは、という推測が有力です。今回の隠れテーマは「髪」なのかな。私は、ボビー・ブラウンが乗り移っているこの曲が一番好きです。
この曲の“Blame it on your measurements ”もおしゃれ。」君のサイズ感にやられたよ」って。つまりとってもグラマラスな女性を連れているわけですね。
その2。小道具の出し方がうまい。
“Versace on the Floor”
床にヴェルサーチの服が脱ぎ捨てられている、と。ロマンティックなメロディーですが、リリックはひたすらエッチ。
ヴェルサーチの服で思い出すのは、これ。
ジェニファー・ロペスが2000年のグラミー賞で着て大騒ぎになったドレス。テレビを見ているだけでハラハラするドレスは後にも先にもこれだけ。当時のBF、パフ・ダディと一緒に出席していましたね。
でも、“Calling All My Lovelies”で留守電にメッセージを残しているのは、こちら。
ハリー・ベリー。黒人女優として初のアカデミー主演女優賞を獲ったときのこのドレスも有名です。これは2001年。このあたりのすべてが揃った女性を連想させることで、00年前後のグラマラスな雰囲気を演出しています。
That’s What I Likeに出てくるストロベリー・シャンペンもR&Bど真ん中。
こういう世界観。ふつうのシャンペンにイチゴを浮かべるのも「ストロベリー・シャンペン」になりますが、ここでは、商品名をあえて出さずに言い換えているだけで、まずMoet Chandonのロゼでしょう。「ストロベリー・シャンペン」と歌うときに、少し舌ったらずになるのがかわいいです。
こんなところかな。
インタビューで自ら「オールド・ソウルの持ち主」(老成しているの意味)と言っていたブルーノ・マーズ。彼は31才だけれど、おしゃべりができないときからステージに立っているベテランです。ハワイのホテルで演奏するいわゆる箱バン・ファミリーの一員として、お父さんたちと一緒に歌っていたから、80年代の曲もリアルタイムで染み付いている。それで、こうなったんですね。ラジオのストリーミング・サービスみたい、というのもほめ言葉で、ストリーミングでかかるのはそれぞれの時代に一番流行って、かつずっと愛されている曲だから、9曲すべてがそのクオリティに仕上がっているのは、やはりすごい。
サウンドではなく、アルバムの「役割」としては、R・ケリーの『12Play』に近いですね。アメリカの人口増加に絶対に貢献するはず。もう少ししたら、フィネスちゃんとか、ヴェルサーチくんとか、アメリカ版キラキラ・ネーム(あるんですよー。ヘネシーくんとか実在するらしい)の子どもが増える、に3000点。
そうそう。最後の曲だけちょっと感じが違うというか、あまりにベイビーフェイスすぎる! と思ったら、実際に御大が参加していました。
アワード・ショウで一緒に歌ってほしいなぁ。