ギリギリ大人になったか、まだ手前にいる人のデビュー作を聴くのが好きです。なぜか私はぐっと年下の10代のアクトを取材する機会が多く、ビヨンセもとい初期ディステニーズ・チャイルド、マリオ、オマリオンもといB2K、クリス・ブラウンは、初めて会ったときは全員17才、アリシア・キーズとアッシャーも20才だったはず。まぁ、アッシャーはデビューが早いので、20才の時点でスター・オーラ全開でしたが。
と、R&B方面では消えてしまった人も含めて「出発地点」に遠くから立ち会ってきたのに、レゲエは「若手」はいても「本当に若い人」にはなかなか会えないでいたので、まるっきりスレていないロメイン・ヴァーゴ君に会ったときは、新鮮でした。人気オーディション番組『ライジング・スター』で優勝したのが17才のときだから、スポットライトを浴びるようになってから3年は経っているのに、怖いくらいにまっすぐだったのもまた、新鮮。
セルフ・タイトルのデビュー作も、直球勝負です。ジャマイカで大ヒットした“Mi Caan Sleep”、エターナをフォーチャーした“Who Feels It Knows It”と、得意のソウルフルなナンバーが頭から続いたところ出て来るのが“Love Doctor”。「治してあげる→気持ちよくしてあげる→愛のお医者さんだから!」というレゲエの定番ネタを折り目正しく歌っているのだけど、素のキャラクターとかけ離れているのは見え見えで、サビで出て来る“Bumping & Grinding”も、これを提唱、普及させたR・ケリーのそれとは、言葉は一緒でもまったく違うアクティヴィティなのではないか、と思ってしまうほどクリーン(というか、色気なさすぎ)。周りのオトナ達に「無理させるなよ!」と進言したくなります(とくに、ドノヴァン・ジャーメインさん)。
彼の歌唱力がいかんなく発揮されている“Walking On You”でも、とっても気持ちよく歌っていて、聴いているこちらも爽やかな気分になれます。なれるのだけど、「君には俺よりもっと相応しい人がいると思うよ」と去って行く話なのに、ためらいも名残もないようで、思いっきり歌い上げていて、「ねぇ、ねぇ、実はないでしょ、こういう経験」と突っ込みたくなる。
こういう背伸びを含めて、デビュー作は楽しいのです。大人の歌い手のようには感情移入が出来ないけれど、どんどん成長して行く「一瞬」を捉えているファースト・アルバムは、人気もスタイルも安定したアーティストの作品とは違う魅力がある。
ロメインは体格のわりに太く、少し籠り気味の声を持つシンガーで、TOKのフレックスやダヴィルのように少し鼻にかかった声が人気の日本では、すぐにピンと来るタイプではないかもしれません。でも、いまの時点でこれだけ歌えたら、今後、面白いことになるかもしれないので要注目でしょう。
アメリカと同じように、オーディション番組の出身者は、勝ち抜くまでの盛り上がりをそのまま維持するのが難しく、「時の人」になりがち。同じ『ライジング・スター』出身でビッグ・ヤード入りをしたクリストファー・マーティンは、一昨日<Brooklyn Music Festival>でシャギーのセットに出て来たところ、番組が放映されていないUSではまだまだ無名の扱いでした。ロメインにもその課題はあるものの、美大に通いながら歌手としての活動も続けているあたりは地に足がついているし、順調にヒットを放っているし、ロックステディ・マナーもイケるのでスタジオ・ワンの叔父さまにも可愛がってもらっているみたいだし、いい位置にいるのではないでしょうか。
「今年のレゲエはダメだ」という言葉を、ここ1週間で違う人達の口から3回も耳にしました。レイバー・デー・ウィークエンド恒例のビッグ・フェス<Irie Jamboree>も今年はないそうです。ビーニ・マンやマヴァードがUSにまだ入れないので仕方ないと言えば仕方ないのですが、みんなで「ダメだ、ダメだ」と言っていても進まないので、とりあえずお気に入りの作品をブログでプチ解説して、ささやかながら反抗しようと思ったのが、長めに書いた動機です。最後まで読んでくれて、どうもありがとう。
こちらがアルバムのジャケット。
応援団の私でも、この写真はないだろ、と思います。