コロナ禍による自主隔離期間が長引くなか、インスタグラムやyoutubeで多くのアーティストがライヴ配信をしています。なかでもここ最近、大きな話題になったのがVerzuz.TVと銘打った対決シリーズでの、テディ・ライリーVSベイビーフェイス。Verzuz.TV はインスタ上でつないだふたりのミュージシャンがお互いの関わった曲をかけ合って、どちらが強いか競っていくルール。合間に思い出話や、相手の曲への感想のおしゃべりが入って楽しいです。テディさんとベイビーフェイス師匠は1980年代以降のブラックミュージックの土台となったふたりの登場とあって、注目度は抜群。
だったのに〜! 1回目はテクニカル・プロブレムで中止、延期に。50万人が始まるのをじっと待っていたので、SNSはミーム祭りになってますます話題に。「ベイビーフェイスって親族のBBQで毎回来る来るって予告があるのに、大物すぎて結局、来ない叔父さんみたい」とか大喜利みたいになって、それも含めて面白かったです。
もともと、ティンバランドが言い出し、スウィズ・ビーツが乗っかって始まりました。テディたちの延期に関して、スウィズは「大人数が集中したからクラッシュした」とフォローしていましたが、テディたちがあまりコンピュータに強くない可能性も。私はインスタグラムを活用していないため、気がつくのが遅くてあとからyoutubeで観た対決も多いです(リンクを貼っておきますね)。対決そのものも面白いですが、対戦を組む時点で誰と誰がいいマッチになるのか、という選び方もとても興味深かったです。
テディとベイビーフェイスは散々つぶやいたので、それ以外の対決の背景と見どころを書きますね。
企画の発起人にして、00年頭にビート革命を起こしたふたりです。ヴァージニア・ビーチ出身のティンバランドはアリーヤに拾われたあと、一緒に苦労したミッシー・エリオットと組んでバカ売れし、その後はソロになったジャスティン・ティンバランドの大成功の立役者。ジャスティンのコンサートでハイプマンみたいなことをしていた時期もあります。一方、ブロンクス出身のスウィズ・ビーツは、DMX率いるラフ・ライダーズのプロデューサーとして世に出て、ジェイ・Zらに多くのヒットをもたらしました。自身もラッパーとしてマイクを握っていますね。アリシア・キーズの旦那様でもあり。どちらもインタビューをしていますが、すっごくいい人だった記憶しかない。大物ほどインタビューの態度がいい、というのは法則があります。ただし、この対決はどちらもイケイケで、戦闘モードが強いです。
ニューヨークの横綱プロデューサー対決。説明不要のふたりですが、DJプレミアは、ギャングスターの片割れにして、90年代のヒップホップ黄金期は彼にビートを作ってもらうのがひとつの勲章だったほどの大物。RZAはウータン・クラン総帥。RZAは手元が見切れて機材がわからないですが、プリモはターンテーブルの前でプレイしていて、尊い。プリモが故ビッグ・Lをかけたら、あまり接点がなさそうなRZA が彼と出会った話をしたり、RZAが「(ウータンの)外部の仕事はあまりしないけど、アップタウン(ハーレム)なら」と言って、ジェイダキッスをかけたり。お互いをすごくリスペクトしている感じが伝わってきます。ふたりのコメントを書きおこすだけで、東海岸のヒップホップ史を学べそう。プリモからM.O.P、O.C.、DITCクルー、グループホーム、ジェルー・ザ・ダマジャといった名前も出てきて、涙。ヒップホップ・ベストアルバム100といった企画には出てこないアーティストですが、それぞれの代表アルバム、代表曲は死ぬほどかっこいいですよ。RZAの後ろのテレビでアニメが映り込んでいるのが、らしすぎて。
ソングライター対決。Ne-Yoは日本でも人気者ですが、ジョンテ・オースティンの名前はピンとこない人が多いのかな。「ジョンタ」と日本では表記されますが、発音的に「ジョンテ」だと思う。とにかく、タイリースのSweet Lady、アリーヤの I Care 4 U、そして特大ヒット、マライア・キャリーのWe Belong Togetherなどなど、R&Bのビッグヒットをたくさん書いてきた人。シンガーでもあり、2005年に『Ocean Drive』というタイトルでデビューする予定だったのですが、お蔵入りになってしまい(あとからリリースされました)。そのとき、対面取材をしました。彼のおじいさん、実は日本人なんです。それを切り口に日本のファンに親近感を持ってもらおうという作戦を立てたのですが、おじいさんとあまり親しくなかったようで、その話は盛り上がらなかったんだよなぁ(泣)。この対決、ザ・R&Bという感じでいいですよー。Ne-Yoはカジュアルだけど、ジョンテさん、ジャケットを着て赤ワイン飲んでますから。自分のヒット曲が多いNe-Yoが強いかな、と思ったのですが、ジョンテも「え、その曲も書いてたんだ?」という曲をどんどんかけるので、負けていない。ふたりは仲良しみたいで、お互いの曲で踊ったり唸ったりする様子がかわいいです。このyoutubeをつけて、こちらもお酒を飲んで雑誌とかパラパラめくりながら楽しむとちょうどいい。1時間を過ぎたあたりから、クラシック祭りになりますよ。最後はマライアVSビヨンセ。00年代にR&Bを聴いていた人はぜひ。
スコット・ストーチVSマニー・フレッシュのプロデューサー対決と、リル・ジョンVS Tペインのクラブバンガー対決はまだ観ていません。
そして、今週末は満を持してのクィーン対決。日本時間だと日曜日の朝9時です。エリカ・バドゥVSジル・スコット。ネオクラシック・ソウル出身、ほぼ同い年(10ヶ月違い)で共通点が多そうなふたりですが、出てきた頃は正反対のイメージだったんです。エリカは魔性の女にしてスピリチュアル・リーダー。ジル・スコットは高校教師と演劇のバックグラウンドを持つ、ナチュラルで地に足のついたシスター。ジルはThe Rootsの大ヒット曲You Got Meをコ・ライトしコーラスもつけていたのですが、レコード会社がまだ無名に近かった彼女をエリカに差し替えてしまったんです。結果、グラミー賞はThe Rootsとエリカが獲っています。エリカはひとつも悪くないですが、ジルには気の毒な話。その後、ジルと一緒に同曲をステージでパフォームしたり、The RootsもComlexityで改めてフィーチャーしたりしています。年月を経てそれぞれ活動を続けてきたふたり。対決が楽しみです。
また、母の日に合わせてベイビーフェイスもインスタライヴを行うそう。テディ・ライリーとの対決のとき、思い出話にかこつけて英語でいうところのThrow Shade(遠回しに悪口をいう、侮辱すること)を散々して、話題になった童顔氏。ライヴのときのMCは自虐ネタが多いのですが、マイケル・ジャクソンなども神格化せずぶっちゃけるので、めちゃ笑いました。テディ・ライリーとベイビーフェイスのなにがどう凄いのかは語り始めるとキリがないので、やめます。
IGライブだと音があまりよくないので、ほかに方法がないのかな、と思ったのですが、著作権に触れないギリギリのラインでできるみたいです(さすが、音楽業界の達人企画)。ほかにいいところは、コメントで大物も書き込むところ。ベイビーフェイスたちの対決の終わりのほうで、私も日本語で「ありがとう」と送ったのですが、その下にマライアさんのコメントが来て、ヒィーーーってなりました。SNSの良い意味のフラットさが生きますね。ということで、今週末、楽しみにしていましょう。