Weekly Recap  06.01-06.11 池城、まだナスかナズか問題引きずってるってよ。とムスタファとサマー・オブ・ソウルの話。

「週間報告」なのに3週間以上経ってしまいました。遡るのも大変なので(怠惰&弱気)、6月からの出来事を再生しましょう。まず、寝た子を起こしてしまった「ナスなのかナズなのか問題」。これ、1994年に本人が「ナズではない」と言っているインタビューの画像を送ってくださった方がいて、さらに「よく考えたら日本でナスを売り出した人と仲良しだった」という、なんでそこ忘れるかな、なポイントを思い出して「なぜ変えたのか」の話も聞けました。それは最後にまとめて。その前に「最近のお仕事レポートとよく聴いているおすすめアルバム」と「サマー・オブ・ソウル」の話から。

1.最近のお仕事レポート。精神的にしんどかったのはDMXの遺作全曲解説です。背景を調べるほど、けっこうギリギリの状況で作り上げたアルバムだとよくわかる情報が出てきて。エグゼクティヴ・プロデューサーのスウィス・ビーツ、ほんとうによくがんばったな、って。その前に書いたJ.コールの全曲解説ほどは反響がなかったけれど、DMXへの弔文として書けてよかったです。J.コールといえば、アフリカのバスケ・チームとの契約は早々に終わってしまいました。まぁ、プロ・アスリートが引退を考え始める36才での挑戦ですから、そこも含めて「グッジョブ!」だと思います(甘いかな)。

もうひとつヘヴィな仕事として、ミュージック・マガジンのクロス・レヴュー初参戦がありました。私は得意分野を限定しているうえ、平成の3分の2以上を知らないので「(平成で積み上げたものの先にある)日本の音楽に点数つける資格はあるんかい?」と聞かれれば、「ないと思う」と即答するしかない。編集部の打診メールも「断っても大丈夫ですよー」みたいな調子でおもしろかったです。6作中和物は2作で、私みたいな評者がいてもいいかな、と思って引き受けたら、まぁ、悩みました。2晩くらい寝不足になっちゃった。でも、資料がドン、って届いてそれを読みながらレコード会社さんのがんばりが伝わってきたのはよかった。そうだーがんばろう音楽業界。クロス・レビューといえば、ジャスティン・ビーバーもSign Magでやりました。お時間があればどうぞ。

ミュージック・マガジンのクロス・レビューを引き受けた理由で大きかったのは、いま一推しのムスタファ『 When Smoke Rises』があったこと。トロントで「インナーシティ・フォーク」を掲げているシンガーソングライターで、久々に歌い出し5秒で虜になりました。すっっっごい好き。ムスタファの話はまた長めに書こうかな。出世作のビデオだけ貼っておきますね。リル・ベイビーとリル・ダークの『The Voices of Heroes』も朝の散歩で聴いています。人気者のふたりだし、リル・ダークはシカゴ・ドリル・シーンから出てきて何回も転生を見せてくれているしで聴きどころはたくさん。ただ、トラックが「なんで?」と思うくらい似通っているんですね。リリックも深いし、ふたりの相性もすごくいいので、ちょっともったいない作品です。

ムスタファ。絶対くる才能。すでにきてるけど、もっと耳にする機会が増えるはず。

2. ザ・ルーツのクエストラヴが監督した『サマー・オブ・ソウル』を一足先に試写で見ました。「黒いウッドストック」と呼ばれた1969年のハーレム・カルチュラル・フェスティバルのドキュメンタリー・フィルム。スティーヴィーにグラディスにデヴィッド・ラフィンにニーナ・シモンにスライに、スライにスライ!! なんともありがたい内容のうえ、社会背景としっかり説明した教科書仕様。これも仕事でしっかり書きます。夏の映画公開も楽しみ。

ストリーミングのコンテンツ獲得合戦の結果、この手が増えるとうれしいです。

3. そろそろ「ナスかナズか」問題の話を。ずっと「Nas」表記にして逃げていたのに、Swizz Beatsは「スウィス・ビーツ」が正しいんだよー、と広めようとしたがためにプチ炎上してしまった、おっちょこちょいです。同時期に「Nas」で入稿したところ、編集者さんから「英語表記はダメです」との連絡がきたの。しかたなくyoutubeに「Nas, Interview」と入れて夜中に見まくりました。「けっこう体重の増減が激しいな」とか、「あ、ドレイクとJ.コールとケンドリックの3人がいまはすごいって言った」などとしょっちゅう本題から逸れまくりながら、「でも、自分ではナァスって言ってるな」と判断しました。それでtwitterに書いたら「ウィキペディアでは!」とご指摘をいただき、とりあえず「ナスが正解です」と言い切ったことをあやまりました。その後。

・レゲエの記事を多く書いているソロ・バンタンさんから、「94年のミュージック・マガジンで“ナズではない”と言い切っています」とのメールをいただきました。四半世紀には渡る論争の発火点でしょうか。

「発音がナズではないことを本人に確認」で始まる。ライターの印南さんの気合が伝わります。
表紙。物持ちがいい人って貴重ですね。

・とはいえ、「じゃあ、なんでナズっていう人が多いの?」との疑問も生じるわけで。

・で、Oさんの登場です。メールを送ったところ、すぐ電話をいただきました。「なんでいまさらこの話をしてるの?」とのごもっともな指摘をされつつ、90年代のソニー洋楽部で何が起きたか、教えてもらいました。

→「デビュー・アルバムはナスティー・ナスって言っているしナスでいいでしょう」と判断し。

→売れてくると、「野菜のナスと一緒だと響きが悪い」「ナズ、って言っている人もいる」などの意見もでて、部内で話し合う。

→「思い切ってナズに表記を変えよう!」という流れだったそうです。

・その際、「日本のカタカナ発音だったら、ナズでもナスでもまちがいでしょ」という「おお!」な意見をおっしゃって、瞠目。発音通りだと「ナァス」もしくは「ナァズ」で「ァ」にイントネーションがくるから、この指摘は私も納得しました。でも、それをアーティスト表記にするのもまたちがう、というのもよくわかる。。意外に深いところに話が着地した気がします。

・そういえば、アメリカでは名前の発音を正さない人のほうが多いかも。外国語の名前も多いし、マイケル・ミカエル・ミヒャエルみたいに出身国で呼び方が違う場合、自分で英語呼びに変えたり、そもそも英語圏ではない名前だと英語風の通称を使ったりする人もいる。私は通称こそつけなかったけれど、「ミノーコ」「ミニャーコ」「アケシロ」、全部スルーしてニコニコ返事していました。友だちはそのうち覚えてくれるし。ちなみに、日本人同士でも“美菜子”が「美奈ちゃん」で連絡がきても正さなくなって久しい、正しく書いてくれた人に「ありがとう」って思ったほうが気が楽。

・とか書いているうちに、ミーゴスの『Culture Ⅲ』がリリースされましたね。ポップ・スモークとジュース・ワールドのヴァースがある‥‥。全体に音数が減って、歌っている割合が多くなっているかな。少し、聴き込んでみます。