21サヴェージ vsトランプのアメリカ

2月3日の日曜日、アトランタでNFLの決勝、スーパーボールで全米が盛り上がっている最中、21サヴェージがICE(移民・関税執行局)に捕まる、という衝撃的なニュースが走りました。実はイギリス国籍の不法移民だった」というヘッドラインで、日本のヒップホップ・ファンでニュースが届いたわけですが。

日本語にすると「不法移民」という言葉の響きのせいで完全アウトみたいに見えるでしょう?

でも、違うんです。移民国家、アメリカは「在留許可を取る途中である」のが証明できれば、グレーゾーンにいるまま、留まることができます。法律はそれなりに厳しいですが、「アメリカ人は多ければ多いほどいい」というのが基本的な姿勢で、たとえばアメリカで生まれた子どもの親だと、成人になるまでの間はそのまま働ける(働けた)のです。

 

私は、「21サヴェージは、時間はかかるだろうけど、強制送還はされず済むだろう」という見解です。外れたら、ごめんなさいね。

 

「元・非移民就労ヴィザ保有者が語る、21サヴェージはどうなるのか問題」、

または「21サヴェージ vsトランプのアメリカ」

行ってみましょう。

 

21サヴェージの現状

2月13日、保釈金を払って拘置所から釈放された、というニュースがありました。朗報ですが、このままアメリカにいられるわけではなく、これから弁護士を立てて闘っていく、という状況です。

そもそも21サヴェージってだれ?

アトランタのラッパーで、大人気プロデューサーのメトロブーミンに見出されたことから、ここ2、3年で急浮上しました。今年のグラミー賞にはポスト・マローンとの「ロックスター」でノミネーションを受け、捕まらなければパフォーマンスをする可能性が高かった。少しかったるそうな滑舌で畳みかけるスタイルで、それがカッコイイ。ちょっとファボラスを彷彿とさせますね。感情表現の幅がすばらしく、とにかくカリスマ性がすごい人です。

なぜイケジローが語るのか

私はながーいこと、就労ビザ(在留許可)を取得してアメリカにいました。学生ビザのF1でまず入国、学校は半年だけ行ってから就職して専門職ビザのH1、フリーランスになるためにアーティストビザのO、それからジャーナリストビザのIの4種類を取ったので、ビザコレクターと友だちに呼ばれていました。アメリカの外国人にたいするニュースには敏感で、はっきり言って得意な話題です。ちなみに、ビザをキープするために使った弁護士費用や更新料の合計額は、中古マンションの頭金くらいになると思う。賢くはないけど、楽しい人生でした(まだ、生きてる)。

 

さて、サヴェージさん。この人は両親の離婚後、7歳のときにお母さんと一緒にイギリスに渡ってビザが切れてもそのままにアメリカに住んでいたんですね。私、このニュースを聞いたときに真っ先に思ったのが、「この人、やっぱりジャマイカ系なんじゃ?」ってこと。「やっぱり」の理由。出てきたとき、レゲエのスパナー・バナーの若い頃にそっくりで驚いたから。

これがサヴェージさん。

 

これがスパナーさん。

 

ほら、そっくりでしょう。スパナーさんはおじさんラスタになってますが。シンガーのリッチー・スパイスのお兄さんね。

いきなり脱線しました、ごめんなさい。

サヴェージさんは、いろんな意味で「ホンモノ」です。10人兄弟で弟を一人殺されています(眉間の短剣タトゥーは彼を追悼するもの)、日本の中1にあたる7年生のときに、銃を持って登校しそのまま退学(当たり前)、ほかの学校にも受け入れてもらえない、というエピソードの持ち主。10代で少年院に入っているし、出たあとはギャングと関わったり、ドラッグを売ったりしていました。名前の21もギャングの名前から来ているそう。

で、こうなると逆に「なんでいままで国外追放されなかったの?」って思うでしょう?

グラミー賞にノミネートされたタイミングでの逮捕とか、見せしめっぽい。

それでも、最終的に合法的にアメリカにいられるだろう、と思う理由を3つ挙げます。

 

<理由 1>21サヴェージはいわゆる「ドリーマー」のひとりである。

「ドリーマー」とは、親の都合でアメリカに連れてこられ、在留許可(わかりやすくするため、ビザでまとめます)を持たないまま生活をしている子どもたち、もしくはそのまま大人になったヤングアダルトを指し、トランプさんの強硬な移民政策の犠牲者として注目を集めている存在です。立場的に外国人ですが、アメリカで育っているわけで、英語以外話せない人も多い。

外国人がアメリカに住んでいいかどうかを決める移民局はいつも仕事をたくさん抱えているため、手続きに時間がかかります。更新の途中でビザが切れたり、必要書類の不備でペンディングになったりするグレー期間はお咎めなしで、最終的に許可が取れればOK。ただし、入国するときの空港の審査があるので、待っている間は国外に出ると入れなくなります。今回、動いたICEは移民局のなかで、ひたすら不法に滞在している人を探し出して、追い出す役所らしい。怖い。

で、サヴェージさんは昨年になんと「U」ビザを申請していたんですね。これは比較的新しい種類で、「不法滞在中に警官に暴力を受けた場合にその1件が片づくまで居ていいビザ」。宗教関係者のためなど、珍しいビザがあるのは知っていましたが、さすがにこの設定があること自体、驚きです。これを作る必要があるあたり、いまのアメリカの問題が凝縮されています。

つまり、21サヴェージの状況は彼ひとりの問題ではなくて、大げさに書けば今後のアメリカのあり方を争う問題になってきている。ジェイ・Zが弁護士を紹介して費用も出してあげる、とオファーしているのは、ええかっこしいとか目立ちたがりではなく、トランプに対する自分の姿勢をはっきり示したわけです。

 

<理由 2>先輩のスリック・リックは大丈夫だった。

この1件でスリック・リックを思い出した人は、年季の入ったヒップホップ・ファンですね。ストーリーテリング系ヒップホップの祖として、80年代に活躍した人ですがゴロツキみたいなボディーガードと揉めて、殺人未遂で有罪になります。イギリスからの移民であることから、強制送還されて、2度とアメリカには入れなくなりそうだったのですが、デフ・ジャムのラッセル・シモンズを始め、ヒップホップ・コミュニティーが全力でサポートして食い止めました。この例があるので、すでにサポーターが続々出てきている21も大丈夫じゃないかな、と。相手が悪かったとはいえ、法的にはスリック・リックのほうがまずいことをしていますし。

 

<理由 3>サヴェージには子どもが3人いる。

まだ26歳ですが、サヴェージさんはすでにアメリカで子どもを3人作っています。最近、一緒にA Lot(名曲!)を作ったJ.コールがツィッターで

 

「Praying for 21 savage let that man be with and provide for his kids.」

「21サヴェージが子どもたちと一緒に過ごし、養えるように祈っている」

 

とつぶやいたのは、アメリカ人を生んだ外国人は優遇される背景があるのをやんわり指摘しているわけ。あいかわらず、賢い。外国人が合法的にアメリカに住むためには、アメリカ人と結婚するなど「家族」になるのが一番、早くて確実です。偽装結婚も多いため、それが認められるかはまた別の話ですが。

 

まとめ

先に書いたように、不法移民と「ビザを待っている」状態の移民の線引きはとてもあいまいで、移民政策が厳しいのが売りのトランプ大統領は、見せしめのために締めつけを厳しくするのが大好き。いまもメキシコとの国境に壁を作る費用で国会が麻痺したままになっています。トランプ大統領「前」だったら国外退去は免れたはずの21サヴェージを、無理やり追い出したらすごい反発を食らうのは必至で、さすがにそれは避けるんじゃないかな、と思うわけです。

 

とりあえず、ラッパーとしても人間としても覚醒した感がすごい、『 I am > I was』(意訳:昔の俺より今の俺)を聴きながら、続報を待ちましょう。