さよなら、R.ケリー

恐れていたことが、いや、心の中でわかっていたことが現実になりました。

アメリカのケーブルテレビ局、LifeTimeで<Surviving R.Kelly>が放映されました。ずっと問題になっている、R&Bシンガー、R.Kellyの女性関係に焦点を当てたドキュメンタリー。元妻などを含む女性のインタビューが目玉らしい。日本では見られませんが、1時間番組が6回ですから、けっこうなボリュームです。これまでもちょくちょく出ていた話ではあるものの、現役のアーティストの過去と現在の素行について、大々的なドキュメンタリーが作られるのはかなり特殊な事態です。ケーブルテレビとはいえ、LifeTimeはディズニー/ABC/ハースト/A&E傘下のしっかりした局で、北米ではネットや携帯など、この系列と契約している人ならまず観られます。

ドキュメンタリーの体裁を取っていますが、客観的に「どう思う?」という問いを投げかける内容ではなく、告発が目的。今日になって、実際に警察が家宅捜査に乗り出したようです。

元嫁のアンドレアさん、90年代にR&Bを聴いていた人なら覚えているスパークルなどもインタビューを受けています。youtubeで宣伝の映像と、アンドレアさんがほかの番組に出演した映像は見られます。キング・オブ・R&Bとまで呼ばれたR・ケリーが多くの女性たちに肉体的に、精神的にどう痛めつけてきたか、彼女たちの口から語られています。

番組の内容は、27歳のときに、まだ15歳だったアリーヤ(2001年に飛行機の事故で夭折したシンガーです。ドレイクの憧れの人)と極秘結婚していたあたりから始まって、00年代の未成年の女子と肉体関係を持って裁判沙汰になったこと、そして、現在は複数の女性と監禁&洗脳状態で一緒に住んでいることあたりが取り上げられています。

 

3つ目の話は私もブログで書きました。

数年前、アンドレアさんがプリンスの元嫁のマイテさんとリアリティTVに出たときの話はこちら。

番組名を意訳すると「R.ケリーとの日々を生き抜いて」。R.ケリー側は放映を差し止めようと動き、それに失敗したいまは訴訟を起こす、とコメントしました。

でも、しないと思う。というか、できないでしょう。

相手は成人女性だし、本人が「自分の意志だ」とビデオでコメントしている以上、違法性はないと主張していました。でも、いまでもR・ケリーと一緒に住んでいる女性の親御さんが本気で闘っていて、家宅捜査も彼女たちをとりあえずR.ケリーから引き離すためらしい。

 

以前も書きましたが、私は3作前あたりからR.ケリーの音楽を聴けなくなってしまいました。それでも、おとといから胃のあたりが重いのです。

90年代から彼の音楽は、私の人生のとても大事な部分にありました。伊藤弥住子さんと並んで、日本人で一番多くインタビューをしているはずだし、記者会見やパーティー、試写会などで、ほぼ毎年会っている時期もありました。なによりも、いちR&Bファンとして彼の音楽が大好きでした。コンサートにも足繁く通いました。

未成年とのセックスビデオ流出事件のときも、ビデオを観ないことに決め、取材の依頼があれば「私の仕事は彼の音楽について伝えることで、私生活を裁くことではない」というスタンスで、事件について触れつつ、基本的にアルバムに出来とアメリカでの受け入れられ方について書きました。これを、思考停止状態と謗られるのなら、その通りです。

いま、それについて反省や謝罪があるか、と問われれば、正直、自分でもよくわからないのです。おかしい人なのは、わかっていました。取材に使うはずのホテルのスイートをぐっちゃぐちゃにして使い物にならなくしたり、周りにイエスマンしかいなかったりする状況を目の当たりにしました。それでも。裁判になりそうになっても、全部、示談金を支払って済ませてしまったので、アメリカのレーベルの人に「お金目当てでふっかけてくる人でも、イメージの問題ですぐ払ってしまうようだ」と言われれば、そんなものなのか、と。

仮にいま、目の前にタイムマシンがあったとして、張り切って取材やパーティーに向かっている当時の私に会いに行けたとします。それで、昔の自分に「その人、本物の性犯罪者だよ」と注意するチャンスがあったとしても、未来からきた自分の老け具合にげんなりはしても、その言葉を真に受けて「わかった、関わるのやめる。仕事も断る」とは、言わなかったと思うのです。だって、舞い上がっていたから。だれよりも早く新作の音を聴ける、大好きなアーティストに会える、という状況に。

SNS時代は、事件に対する姿勢、コメントのお手本が示され、それに追随するのが正しいです。今回のお手本は、一緒に曲を作ったことを公に謝罪したチャンス・ザ・ラッパーと、番組内で「偽善者だ」とコメントしたジョン・レジェンドです。

このふたりの反応はまったく正しい。正しいけれど、みんなが同じ反応でなくてもいいように思います。予想以上に深刻な状況に、ショックを受けている人もいるでしょう。R.ケリーに曲を書いてもらったR&Bシンガーはたっくさんいるし、コラボしてヒットを生み出したラッパーもたくさん。その人たちが一斉にR.ケリーを糾弾して指をさしても、その指先に自分がいるような気になるでしょう。実際、私はそういう気分です。

度重なる示談で、法の目をかいくぐることを覚えてしまったことが、とにかく残念です。00年代のどこかの時点で有罪になっていれば、R.ケリー自身も事の重大さがわかったかもしれない。

いまのR&Bや、R&Bのフレーバーを取り入れたポップで、R.ケリーのサウンドとつながっているものはあまりにも多いのです。クリス・ブラウンやトレイ・ソングスあたりは、R.ケリーに対する憧憬をそのまま曲にしているし、全く関係なさそうなザ・ウィークエンドでさえ、Die For Youのメロディーは完全にケルズ印です。

#MuteRKelly のハッシュタグをつけて、彼自身の音楽を聞くのをやめても、彼の影響をミュートするのはとても難しい。ぬぐいきれないR.ケリーのDNAが入った音楽を享受しながら、ハッとして苦い思いをする。これからは、そのくり返しになるかもしれません。

番組放映後、R.ケリーの作品のストリーミングでの再生回数が爆発的に増えたそうです。そういう時代なのですね。

R.ケリーの曲を聴いたら、どんな気持ちになるか。試してみたところ、「ムリ!」と拒否反応が出ました。ドネル・ジョーンズやジョーを代わりに聴いて、落ち着きましたが、翌朝には頭の中を“Ignition”のリミックスがガンガンかかっていて。やっぱり染みついている、とがっかりしました。

元ファンとして、今度こそ捕まってほしいです。

着地点がない文章を読んでいただき、ありがとうございました。