(事件の概要はここからになります。ただ、その1とその2を読むと、また印象が変わると思うので、なるべくさかのぼって読んでください)
2011ー現在 逮捕から裁判まで
2011年9月、ポートモアのプロモーター、バーリントン“バウジ”バートンを共犯者ふたりと撃ち殺した容疑で逮捕されます。最初は、みんな冗談だと思ったハズ。2週間前に、アメリカでよくあるリアリティTVのマネをして、20人の女性がカーテルに気に入られるために一緒に住みながら競争(ケンカ)する“Teacha’s Pet”が始まったばかりのタイミングだったのも、「冗談でしょ?」ムードに拍車をかけました。カーテルの逮捕でスポンサーが降りたにもかかわらず、視聴率が良かったために、CVMはファースト・シーズンの20話を全部放映、主役が殺人罪で獄中にいるのに、テレビで様々な国籍の女性がカーテルを巡ってキャーキャー騒ぐ映像が流れる妙な事態に。プロデューサーのジェイウィルとカーリーンが長年の友だちなので、私は律儀にネットで視聴料を払って3話くらい鑑賞、Woofin’のコラムで取り上げましたが、なかなかエグい番組でした(いまは動画でただで見られるようなので、興味のある人はどうぞ)。
そうこうしているうちに、行方不明になっていたクライヴ“リザード”ウィリアムスの殺人容疑もかかります。逮捕されても、カーテルの存在感が薄くなるどころか、強まって行ったのは、メディアでヴァイブス・カーテルの名前を聞かない日はなかったから。「殺人とかヤバいし、政府や警察にハメられたとしら、それはそれでヤバい」という、事件の深刻さとは裏腹に、なんだか面白がっている世間の空気もありました。ガザで「フリー・ワール(ドは発音しません)・ボス」とサポーターが叫び、ポートモア・エンパイアからポップカーンや、モンティゴ・ベイ出身だけれどカーテル一派のトミー・リーが人気を集めて、「ガーザ・ミ・セ」の合い言葉がさらに広まりました。
獄中にいても曲をリリースできたこともあり、2012年も姿が見えないだけで、カーテルはシーンの中心に居ました。マルコム・Xを意識して、フリーメイソンのシンボルの指輪をつけた(この話は長くなるので割愛します。私はフリーメイソン自体、もう秘密結社でも何でもない説を取っているので、カーテル得意のギミックかな、と思います)写真が表紙の『The Voice of The Jamaican Ghetto』を出版、「自分はジャマイカの不公平を糾弾したから、不当な目に遭った」と訴えました。ジュンちゃんがお土産にくれ、がんばって1/4くらい読んだところ、「ジャマイカのゲットーの人たちはこんなに不公平な思いをしている」と正論を延々と展開する内容で、イメージアップ狙いがひしひしと伝わって来る、しんどい読書体験でした。
2013年の7月に、ひとつめの容疑は、死体がカーテル宅の近所から出て来た以外は証拠不十分で無罪になります。ここで、一気に「結局、出所できるんじゃん?」という空気が広がります。サンフェスでも「いきなり登場?」といった前情報が流れました。ふたつめの裁判は11月から始まる予定が、2ヶ月も延びてその間に関連書類がなくなって、有利になったという噂もありました。それが、有罪だった上に、刑が予想以上に重かったので、また陰謀説が噴出しています。これを書くにあたって、かなりのニュースを読みましたが、それこそマルコム・X再確認ブームや、2パックの銃殺並みに「情報を集めれば集めるほどワケが分からなくなる」というのが、私のいまの偽らざる感想です。
警察の物的証拠が、被害者がガールフレンドに送ったテキストだけ、というのは確かに弱いーーでも、そのテキストの内容は真に迫っているーー2011年10月29日に、ガザ・スリムが8月16日に死んだはずのクライヴ・ウィリアムスに強盗された、と警察に駆け込んでいる。これは、獄中のカーテルの指示に従ったと見られていて、そのテキストもあるーーでも、陪審員の買収疑惑が出ているーーー。
どちらも怪しいというか、不思議な話が多くて。
政府の陰謀説を信じたいなら、それを立証できる話だけ耳を傾ければいい。11年前にカーテルに殴られたニンジャマンはこの立場で、「ダンスホール・アーティストを貶めるため」とテレビに出てまで弁護しています。忍者さんに言われると、私もちょっとなびいてしまう。モヴァードもTweetでですが、サポートの姿勢を取っています。
カーテル真っ黒説を信じたければ、ひとつめの裁判で証人が全員逃げて無罪にするしかなかった検察側が、二回目では負けられない、と意地になった結果、いろいろな手を尽くしたために強引に見える、という説明で納得すればいい。「アーティストだから狙われた」とは真逆の、「アーティストだから逃げられると思ったんだろうが、今回ばかりは法が許さなかった」という「正義万歳」な論調も強いです。
今後のこと。
すでに最高裁なので上告はできず、6ヶ月以降に確たる理由があれば、再審要求ができます。弁護団は、これを目指して今回の裁判のあらを探してくるでしょう。
今日、カーテル(もしくは、その代理の人)は「俺を弁護するつもりで騒ぐことは、かえってマイナスになる。いまは、落ち着いて」とファンに対してtweetしていました。
35年のままだと、正直、劣悪な刑務所生活では生き延びられない気がします(キツくてごめんなさい。でも、事実)。サポーターに守られて、それなりに
優遇される期間にも限界があるでしょう。
初めから書いているように、私には何が真実なのかは分かりません。ただ、カーテルがひとりのアーティストではなく、Phenomenon(現象)と呼ばれるまで、“larger than life”ーー超人的なというポジティヴな意味と、実物より誇張されたとのネガティヴな意味の両方がありますーーな存在になってしまったため、本人にも収集がつかない事態になってしまったのではないか、とは思います。
“Bad publicity is still publicity”(悪評も評判のうち/憎まれっ子世にはばかる)と言い切った10年前に、周りの人が「そのうち対価を支払うことになるよ」と言ってあげていたら、いまの現実は変わっていたのかなぁ、とも。
ファンとして、無罪になる可能性は低いにしても、再審要求が通って、証拠が足りない分だけ減刑になればいいのに、と願っています。